艦隊これくしょんより、加賀×瑞鶴くすぐり小説です!

本文は下からどうぞ~!


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 ドォンッ! ドォンッ! パラパラパラ……!

 火薬の弾ける音が海上で木霊する。

「くっ……!」

 海域の防衛にあたる強力な敵艦が関所を守る門番の如く立ち塞がっている。経験が浅いながらも本作戦の第一艦隊の旗艦に任命された正規空母 瑞鶴は艦載機に変化する矢を射ち出しているが、相手の対空砲撃に爆撃が阻まれ決定的なダメージを与えることのできないもどかしさに思わず舌打ちする。


「もっとよく狙って……」


「言われ、なくてもっ!」


 隣で弓を引くのは、落ち着いた雰囲気のある女性――同じく正規空母の加賀。彼女の指摘をかき消すように瑞鶴は叫んだ。


「一本ずつじゃ遅い……こうなったら!」


 瑞鶴は、これまでは正確性を重視に一本ずつの矢を背中の矢筒から取り出して放っていたが、今度は二本の矢を取り出した。一本目に放つ矢を三本の指で持ってつがえ、次に放つものの矢じりを残りの指で持った。


「待ちなさい瑞鶴。貴女の腕ではまだ……」


 一本目の矢を放った直後、加賀からの注意が飛んだ。


「うるさいっ!」


 しかし苛立ちから手元が狂い、瑞鶴は持っていた二本目の矢をうまく装填できずに落としそうになる。


「しまっ……!」


 慌ててつがえ直そうとしたところで、瑞鶴は敵の砲塔が自分に向いていることに気が付いた。敵の砲撃は瑞鶴に防御体制を取らせる暇も無く火を噴いて襲い掛かる。


 ダアァァァンッ!


「…………」


 無意識的に目を瞑ってしまった瑞鶴。だがその体から伝わるはずの痛みは一切感じていなかった。


 あれ、どうして。そう思って目を開けると、瑞鶴の目に映ったのは髪の長い一人の女性の背中であった。


「翔鶴姉ぇ!?」


 姉妹艦にあたる正規空母 翔鶴の名前を瑞鶴は思わず叫ぶ。身を挺して妹である瑞鶴への攻撃を庇った体は水上に倒れこんだ。


「翔鶴姉ぇ! しっかりして!」


 慌てて瑞鶴は翔鶴に駆け寄って腰を落とした。抱きかかえた姉の目は閉ざされていたが、息は止まっていない。気絶しているだけで命に別状が無いことを確認すると瑞鶴は胸をなでおろした。


「……! そうだ、敵は!?」


 戦いの途中であるにもかかわらず攻撃の持ち場を離れてしまった瑞鶴は、敵の追撃が来ないことに疑問を感じて顔を上げた。すると、加賀の放った艦載機によって沈んでいく敵戦艦の姿が目に入った。それを受けて敵艦隊は撤退していく。


「……これだから五航戦は」


 助かったことに瑞鶴が安堵したのもつかの間、気絶している翔鶴を見下ろしながら加賀は呟いた。


「っ!? それ、どういう意味よ!」


「……先ほどから攻撃の命中精度も悪く、慣れない射ち方を失敗して敵の攻撃を許し、自分の姉に守られ、被害を拡大させた。貴女がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったはず。文句を言いたいなら、我々一航戦ほどの活躍を残してから言うことね」


 馬鹿にされたと感じ瑞鶴は立ち上がって反論するが、加賀の余裕を感じさせる表情を崩すことすらできない。


「……我々も撤退したほうがいいでしょう。これ以上進軍しても、また余計な損害を被るのが目に見えていますから」


 そう言って加賀は随伴艦に撤退の旨を伝え、母港への帰還を促した。翔鶴を抱えて瑞鶴もそれに従うが、内心で苛立ちが募っていた。
 こんな嫌な人が先輩だなんて。かつて加賀に対して抱いていた憧れの気持ちは、数度の出撃でどこかに消えてしまっていた。


▽▽▽


「……以上で、報告を終わります」

「お疲れ様」


 帰航した瑞鶴を執務室で待っていたのは、男尊女卑が改善されつつある社会の中で、今となってはそれほど珍しくはなくなった女性提督。白い軍服の胸元を大きく主張させ軍帽を深めにかぶっている彼女に報告書を提出した瑞鶴は、いつもの気の強さをあまり前面に出すことなく、しおらしい態度で直立している。


「作戦の失敗については……やはり赤城さんの穴は大きかった、といったところかしら?」

「…………!」


 図星を突かれ、瑞鶴は目を見開いた。


 赤城。加賀と双璧を成すほどの練度を持った正規空母で、この鎮守府の戦力の大多数を担っている存在だ。彼女の活躍無しで敵陣の攻略を成すことができなかった作戦は多々あると言われている。
 別の鎮守府に所属していた頃の瑞鶴は、同じ空母として憧れの存在である赤城・加賀二人の華々しい活躍に胸を高鳴らせ、いつか彼女らと同じ鎮守府の艦隊に配属されたいと願い鍛錬を繰り返していた。
 そして海域の攻略途中に赤城が負傷して戦線を離れているため、その戦力の穴を埋めるべく翔鶴・瑞鶴の二人は三日前この鎮守府に移籍し、五航戦として急遽実戦に投入されることとなった。だが、一番練度の高い加賀を差し置いて旗艦として出撃させられているが、期待以上の活躍ができているとは決して言えない。そう自覚している瑞鶴は、なおさら強く責任を感じていた。


「焦ることはないわ。貴女には幸運の女神と優秀な子達がついている。お姉さんもちゃんと生きて帰ってきている。だから何も問題は無い。そうでしょう? 大事なのは、この反省を次に繋げること」

「……はい」


 微笑みながら励ましかけてくる提督の優しい言葉に、思わず瑞鶴は泣きそうになってしまいそうになる。この人くらい加賀さんも優しければ良かったのに。なんて彼女は思ってしまう。


「とはいえ、この戦果の悪さはちょっと目に余りますね……」

「うっ……」

「これは特訓が必要ね。明日の朝食後、弓道場で加賀に弓の手ほどきを受けなさい」

「加賀さんと、ですか?」


 特訓、それについては一向に構わない。むしろ今からでも自分の欠点を直しに行きたいくらいだ。しかしそれを手伝ってくれる相手が問題だ、と瑞鶴は一部分に対する反対意見を述べた。またぐちぐちと小言を言われるに違いない、そう思ったからだ。


「これは命令です」

「ですけど……」

「本人には私から伝えておきます」

「向こうだってきっと、私と一緒になんてのは……」

「もし行かなかった場合は……そうですね。しばらく瑞鶴の食後のデザートを無しにします」

「……そ、そんな程度ならば別に」


 少しだけ心を揺らすが、それでも加賀と一緒の時間を過ごすことを考えれば安いものだ、と瑞鶴は考えた。


「あら、そうですか。では、加賀にも連帯責任を負わせることにしましょう。このことは本人にも伝えておきますね。ちなみに彼女は、意外と甘いデザートが好きらしいですよ。だから……そんな加賀を怒らせると、次の出撃の際に少し怖い目に遭ってしまうかもしれませんよ?」

「っっ!? わ、わかりました」


 提督命令ならば仕方ない。決してデザートを質に入れられたからというわけではない。

 部屋に戻ると、瑞鶴は翌日に備えた。


▽▽▽


「あっ」

「…………」


 朝。瑞鶴は執務室から出てきた加賀と出くわした。


「おはよう、ございます」

「…………」


 瑞鶴は妙に気まずい空気を感じ取った。先日、一度敬語を忘れて詰め寄ってしまったこともあり、挨拶だけはきちんとしておかなければと思うも、少しだけ言葉に詰まってしまう。


「今日の予定、忘れてないわね?」


 勿論忘れるはずも無い。昨晩、瑞鶴は同室の翔鶴と会話の練習を遅い時間まで繰り広げていた。そのおかげでやや寝不足気味であったが、すぐに回復するだろう。
 瑞鶴が頷くと、「そう」とだけ言い残して加賀は去っていった。


「昨日のこと、あんまり気にしてないのかな?」


 嫌味のひとつでも言われるんじゃないか、なんて身構えていた自分がひどくこっけいな存在であるように瑞鶴には思えた。


「っと、いけない」


 腹の虫が鳴ると本能的に食堂への歩みが速まった。


▽▽▽


「……十五秒の遅刻です」


 朝食を終えて自室で訓練用の弓道着に着替えた後、弓道場――空母の攻撃訓練のための施設に入るやいなや、瑞鶴を出迎えたのは加賀のこの言葉であった。


「じゅ、十五秒って……」

「五分前行動は基本中の基本です。ただでさえこの弓道場を貸切にしているのですから、貴重な時間が勿体ありません」

「貸切……?」


 その単語に思わず瑞鶴は首を傾げた。


「何を驚いて……仮にも貴女は我が軍の貴重な空母。赤城さんは負傷中、軽傷とはいえ翔鶴さんもしばらく戦線に復帰できない。攻撃作戦に参加できる空母が私と貴女の二人しかいない今、貴女の集中的なレベルアップのために、他の方々には出払ってもらっているのですから」


 この鎮守府には二・三・四航戦と呼ばれる航空戦隊も存在している。戦艦としての機能と艦載機運用能力を持った航空戦艦や、元々は空母ではなかったが改装されて空母となった改装空母、そしてその他の空母や護衛艦で構成されるそれらの戦隊は、同じくこの鎮守府の戦力を担っている。そんな彼女らの訓練の時間を割いてまで、瑞鶴に特訓を施そうというのだ。


「加賀さん……もしかして私のために?」

「勘違いしないでください」


 ばっさり、という擬音が似合いそうな言い方で、瑞鶴をあしらう加賀。提督の命令ですから、と付け足して加賀は一本の矢と弓を手渡した。矢といっても艦載機は付いておらず、普通に弓道で用いられる矢だ。


「この弓、普段の私のやつと同じだ……」


 感覚を確かめるために素引きしていると、渡された弓は自分に合った重さと弦の固さにしっかりと調整されていると瑞鶴は感じ取った。加賀のほうを見やると、「それは提督が用意したものです」と彼女は言った。


(提督さん……優しいだけじゃなくて、私のことちゃんと見ていてくれてたんだ)


 なおのこと、この特訓で成長した姿を見せてあげたい。期待の大きさを改めて実感し、心の中で「よし、頑張るぞ」と瑞鶴は気合を入れた。


「準備はできましたね? では、私が良いと言うまで、あの的の中心を射抜き続けなさい。矢は一本ずつ渡しますので、射るたびに受け取りなさい」


 加賀は瑞鶴のすぐ斜め後ろに立ち、数十メートル先の丸い的を指差した。


「それだけ、ですか?」

「……何か?」

「いえ、もっとこう……弓の扱い方を細かく教わったりとかそういうのを想像していたから、ちょっと拍子抜けっていうか。ただ射るだけなら私一人でもできるっていうかその……」

「…………」


 なにかと言葉を紡ぐ瑞鶴に対し、加賀は無言で圧力を掛ける。根負けした瑞鶴は、ひとまず言う通りにすることにした。
 瑞鶴は肩幅より広く足幅をとり、背筋をピンと伸ばして半身になり、顔のほぼ正面で標的を見据えながら弓を高く上げ、弦につがえた矢の羽を顔の高さにもっていき、力を込めて右手で引く。
 僅かに軋む音を耳にすると動きを止めて小さく一呼吸おき、半月になるように目で捉えた的めがけて射抜くべく右手の指を開いた。左手に反動を感じたと同時に飛び出した矢は一直線に飛んでいき、的の中心部にきれいに刺さった。


「よし」


 残心を保ちながら、瑞鶴は小さく呟いた。


「これくらいはできて当然です」


 むっ、と瑞鶴は少し膨れる。ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃないか。口には出さずに、加賀から次の矢を受け取ると、もう一度射る為の構えを取る。


「あっ……」


 矢は的の中心から少し外れた。


「……肩に力が入りすぎです」

「わ、わかってますっ!」


 続いて放たれたものもまた真ん中には刺さらなかった。


「……今度は抜けすぎです」

「じゃあどうすればいいんですかっ!」

「適切な力加減を見つけなさい。こればかりは感覚で覚えるものです。……背筋が伸びていません。……的ばかり見るのではなく矢尻も視界に入れて。……矢が水平になっていません」


 射るたびに加賀からのアドバイスを受けてはいるが、そのたびに瑞鶴は頭に血が上り、刺さる矢はどんどん真ん中から遠ざかっていく。

 初発以降、良い当たりの無い瑞鶴を見て加賀はため息をつく。


「貴女の弓の腕は決して悪くないはずだというのに、こうも精神状態に左右されていては実戦では使い物になりません」

「…………」


 誰のせいで苛立っていると思っているんだ。瑞鶴はその言葉を飲み込んで、再度弓の構えを取る。

 そして右手を限界まで引いて矢が放たれようとした瞬間、


――ぷにっ。


「……ひゃんっ!?」


 突然体に襲い掛かった刺激に、瑞鶴の口から嬌声が上がり、矢は的から半分ほどの距離で地面に刺さってしまった。


「い、いきなり何するんですかっ!」


 即座に振り返り、瑞鶴は加賀を睨み付けた。瑞鶴が射る瞬間に、背中側からこっそり距離を詰めた加賀によってがら空きの両わき腹を指で突っつかれたためだ。これにより驚いた瑞鶴は手元がぶれたのである。


「集中できていない証拠です。集中していれば、このくらいの妨害で手元を狂わせることなどないはずです」

「そんなこと言ったって……」


 いくら女性同士とはいえ、断りもなしに体に触れられるというのは瑞鶴としてはやや抵抗がある。


「ほら、まだ真ん中には一発しか行っていませんよ。これでは正規空母の名が廃ります」


 加賀の言葉に、瑞鶴はまた腹を立てた。どうしてこの人の言い方はいちいち棘があるんだ、と。だが、言われっぱなしというのも癪なので瑞鶴は再び真ん中を狙うべく構えた。


「……ふひぃっ!? ひゃ、ひゃひゃひゃひゃはははははははっ! ちょ、ちょっと待っ……ひょわぁっ!? くぅぃひあぁひっひひひひひひひひひひっ! 加賀さんっ、今度は何を!?」


 今度は狙いをつける段階で加賀の指が瑞鶴の腋に触れた。まさかこのタイミングで来るとは思わなかったため、瑞鶴の両手はがたがたと震えてしまう。


「同じ時で同じ場所に同じ刺激が来るなどと思ったら大間違いです。戦場の状況は刻一刻と変化していくものなのですから」

「だ、だからってぇ……くひぃっ! とめひぇ、とめてくださっ、ひやぁぁぁっはははははははははははははははははっ! ねらっ、狙いがっ! 狙いがつけられないって! あふっふふふふふふふふふふふふっ!! ふぅいぃひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!」


 加賀に無防備かつ敏感な腋の下をこちょこちょとくすぐられ続ける瑞鶴。彼女は反射的に腋を閉じるが、それでも止まらない指の動きによって盛大に笑い声を強制的に上げさせられて、膝から床に崩れ落ちた。

 当然の事ながら矢はとんでもない方向へと飛び、地面にすら刺さらなかった。


「立ちなさい。これではいつまで経っても終われませんよ」

「うう……」


 触られた場所にまだ感触が残っているような気がして、瑞鶴は身を抱きながら立ち上がる。

 次の矢を受け取り、意識を後ろに残しながら瑞鶴は射る体勢を作る。


「わひゃっ! ひゃひぃっはひっぃぃひっひひぃっっひひひひひひひひひひひっ! くぃっひひひひひひひひひひひぅっっふふふふふふふっふふふふふ!!」


 ぶるぶると指を振動させながら加賀は腋のくぼみをほじくりまわす。
 そこに来ると分かっていても、容易に耐えられるような部位ではなく、瑞鶴は再び笑わされてしまう。やや猫背気味になりつつも、震える腕になんとか力を込めて射る体勢を崩さずにいるが、的に狙いをつけようと落ち着くこともままならない。


「そ、そんなところ触るなんふぇええへえひぇへへへへへへへへぇあっははははっははぎぃぃぃぃぃぃぃっっ!?」


 腋への責めに少し慣れかかったところで、今度は形のいい小さなお尻を手のひらで撫でくり回された。


「そこほんとだみぇっえっへへへへへへへへっ! らめれすってばぁぁぁぁぁははっあはははははははははははははははははは!!」


 爪を立てた合計十本の指で軽く引っ掻き回される。体はびくびくと小さく跳ね、くすぐったそうにくねくね身悶える。


 瑞鶴は再び矢を外してしまった。


「は、はふ……ぅぅ、こんなの絶対無理だってぇ……」


 加賀の手が止まる。


「まったく……どうやら貴女は、基本的なフォームから見直す必要がありますね」


 お尻を押さえている瑞鶴を見て、加賀はため息をついた。


「フォーム?」

「ええ、そうです。この程度のことですぐに崩れてしまうのは、フォームが固まっていないからに違いありません」

「うーん、そうなのかなぁ?」

「なので、今度は右手で弦を限界まで引いた状態で静止し続けたままでいてください。私が良いと言うまで、構えを解いたり矢を放ったりしてはいけませんよ」

「で、妨害は?」

「もちろんあります」

「やっぱり……」


 渋々、言われた通りに射る直前の構えを瑞鶴は作る。右手を離してしまえば、弓が発射される状態だ。


「いきますよ」


 加賀の言葉が耳に入ると、瑞鶴は目いっぱい歯を食いしばって全身に力を込めた。簡単に笑わされてやるものか、という意思の表れである。


「んんっ……! くふっ……くくくくぅっ……! ふぁっっっん……ぅんんんんっ……ぅふううぅぅぅぅぅぅぅっ……!」


 両わき腹に指が食い込み、そのまま揉むような動きをし始める。瑞鶴はそんな加賀の指使いに耐える。口からは吐息と共に今にも笑い出しそうな声が漏れ出ているが、吹き出すまでには至らない。
 いつ来るかわからない刺激を体で受けながら的の真ん中を正確に狙え、と言われるよりはまだ簡単ではあるものの、いつ力が抜けて手を離してしまうかが不安であった。瑞鶴は笑い出したくなる衝動を抑えながら、両手の握る力をいっそう強めた。
 加賀は指をかぎ爪のように動かしてわき腹を這い回ったかと思えば、ピンと立てた人差し指で蛇がうねるように背中をやさしくなぞるといったように動きに変化をつけている。


「少し弓の角度が下を向いていますよ」

「くぁあああぅっ……! これ、でぇっ……! ぁうっっ……ぃっいいですかっ……?」


 両腰を親指・人差し指・中指で摘みながら、加賀は囁いた。言われて気付いた瑞鶴は慌てて元の角度に弓を戻す。


「っっふっふぁふふふふふふふふっ……! ……っっ!? っぷぷふふふふっ、ぅふふふふふっ……! くぅぃひふふふふふふふふっ……!」


 垂れ下がった袖口から生々しく覗く、日焼け知らずの白い両腋。これまでは衣越しに責め立てられていたその部分を、今度は直接触れられる。
 段違いな刺激の鋭さに思わず叫んでしまいそうになるが、口を開いたら最後、笑いがとまらなくなってしまう。そう思った瑞鶴は意地でも口を開いてやるものか、と必死で声を殺す。


「そう……なかなかやるのね」


 初めてお褒めの言葉を頂いた気がするが全然嬉しくないという顔を浮かべる瑞鶴。


「ひゃふっ……! ひふっ……! くふっっ……ふふふふふふふふふっ……!!」


 二の腕周辺を揃えた指がすりすりしながら、袖を出たり入ったりを繰り返す。時折、腋や腕の付け根を加賀の指がなぞると、瑞鶴の喉が大きく震えた。


「くぁぅふっ……! んぃひっ……! ふぅっ……ふぅっ……こんなの、ぜんぜんっ……」


 瑞鶴の手の甲を、一本立てた指で加賀は軽く引っ掻いた。ここは瑞鶴にとってあまり効かない場所であったため、彼女は強気な態度で言葉を漏らした。


「そうですか。では、少しだけ本気を出すとします」


 本気。その言葉に瑞鶴は思わずぞっとした。これまででも充分苦しめられてきていたのに、まだ本気では無かったという事実を突きつけられ、瑞鶴は内心焦り始める。変なことを言わなければ良かった。そう思った瞬間に、瑞鶴の下半身は風を感じた。


「えっ……?」


 足首まで伸びる丈の長いスカートから、どうして急に風を感じたんだ。その理由をすぐに瑞鶴は知ることになる。


「か、加賀さんっ!? 何やってんの!?」


 首だけを振り返らせると、加賀の姿はなくスカートの後ろ部分が不自然に膨らんでいるのが瑞鶴の目に映った。加賀が瑞鶴のスカートを摘み上げ、頭から内部に潜り込んだのだ。そのことに気が付いた瞬間、両太ももをがっしりと掴まれた。


「ま、まさか……それははんそ、くぅっ!? ぅくっっくくくくくくくっ……くっくくくくくくひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはははははははっはははははははははっ!!」


 我慢のキャパシティがあっという間に上限に達し、瑞鶴は吹き出してしまった。すべすべとした彼女の柔らかい太ももは、凄まじい速度で食い込む加賀の指によって変形する。


「ははははははははははははははははははははは!! ふぁあああああああぁぁぁぁぁははははははははははははははははっ!! くうううぅうううひぃいいあああああぁぁはははははははははははははは!!」


 瑞鶴は右手の矢も左手の弓も、手から零れ落ちないように気を確かに持ちながら握り締めている。どうせ見えていないのだから、と思って左手を下ろそうとしたら、「手が下がっています」というくぐもった声がスカートの中から聞こえてきたためだ。それゆえに、瑞鶴は手抜きができず、くすぐったさに体を仰け反らせながらも同じ姿勢を保たなければならない。


「ひゃふふふふふふふふふふふっふふふうぅうふふふふふふふふふっ……! ふぃいひひっひひひひひっ……! ひひひひひひふふふふっ……ふぁあっはは……はぁっ……はぁっ……」


 衣擦れの小さな音と共に、太ももへの責めの手の動きが緩まっていくのを瑞鶴は感じた。手を移動させているのだろうか。しかしスカート内部で加賀が何を考えてどこに手をやろうとしているのかを瑞鶴には知る方法がない。手がどこかの部位に触れるまでは。


「ぃひゃひぃっ……ひぃあっ……! ああっ……んぁっ……ぁぁぁぁううううっ!!」


 続いて瑞鶴の口から出たのは笑い声ではなく、今度は悩ましげな声だった。加賀の指自体はモールス信号さながらの動きで瑞鶴の内腿を刺激しているのだが、原因はそれだけではなかった。


「んはぁん……んんふふぅっ……いひゃあぁぁぁうふっ……くふぅぅいいぃぃぃぃん……」


 加賀の頭の片側に形成されている短い一つの尻尾。いわゆるサイドテールに結んだ髪が瑞鶴のお尻を刺激していた。ふさふさとしたそれを意識的に沿わされているのかそうではないのかは、瑞鶴にはわからないが、お尻の肉と下着の境目や少し危ない部分に触れたり触れなかったりを繰り返され、もどかしさで彼女の頭の中がいっぱいになり、妖しい声が漏れ続けている。


「ふぁふっ……はふぃぃぃあぁふ……はぁ……はぁ……ひあぁ……あぁふぁっ……ふぁああぁぁぁぁぁぁ……!」


 手でくすぐられるのとは違った、まるで羽や筆を肌に滑らされているかのような髪の動き。そしてアクセントの効いた内腿へのモールス信号。瑞鶴はそれらに対して一種の心地よさと気持ちよさを感じていた。
 このままこの感覚に身を任せてしまっても悪くないかもしれない。脳が刺激を受け入れる状態にシフトし始めた瑞鶴は徐々に半開きとなる口から涎を垂らしながら、頭がぼーっとなっていく。体重はどんどん後ろのほうにかかっていき、射撃姿勢のまま瑞鶴の体が傾き出した。


「あぁ……あぁぁっ……ああぁぁぁぁぁぁぃいひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!?」


 が、次に訪れた刺激によって意識が引き戻された。さきほどまでの指の動きが「緩」なら、さしずめ今度は「急」。いきなり指の動きが快活になって瑞鶴の声は笑いに上書きされる。


「なんでぇええええぇへへへへへへへぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇへへへへへへへへへっ! なんでいきなりいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 瑞鶴は、どうして自分が残念そうなニュアンスを含んだ叫びを発しているのかもわからずに笑い声を上げさせられている。もっと続けて欲しかった。そう思ってしまった自分がもう一人いるかのような感覚に戸惑いながらも、瑞鶴は体を水平に戻す。
 幸いなことに弓矢から手は離れていなかったが、広いスタンスをとっている足ともども疲労感を感じていた。


「ふひゃあああぁぁぁぁぁぁっ!? あっ、やっ……ぃひゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 加賀は先端を揃えて丸めた指を両膝頭に当てたかと思えば、ピンチアウトの要領でゆっくりと指を放射状に広げた。


「それ……くひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! ぞわぞわす……るぅふぅぅぅぅっふふふふふふっ!!」


 繰り返されるその動作に瑞鶴はじわりじわりと弱らされる。まさかこんな場所も効くなどとは思っていなかった。固さに守られていると思っていた膝から伝わるむず痒いくすぐったさは、小さく振動しながら上に登っていく。


「はぁ……はぁ……」


 再び風を感じると、瑞鶴は下半身への責めが終わったことを確認した。瑞鶴の足はがくがくと震えていた。


(なんとか、耐えられた……)


 もはや体勢を維持するだけが精一杯で、何かされるだけで手を離してしまうかもしれないと瑞鶴は感じていた。そのため、数秒もしないうちに襲い掛かられるであろうポイントを予測し始める。


(今度はどこ……? 腋? わき腹? 二の腕? それとも裏をかいてもう一回足?)


 考えうる地点に意識を集中させて力を込める。これらの場所に来ても大丈夫なように、抵抗する準備をする。


 しかし、刺激の訪れた場所は、


「ふぅ~」

「ぃひゃあぁぁっ!?」


 右耳。予想外の場所に息を吹きかけられるという予想外に驚いた瑞鶴は、思わず右手を離してしまった。矢が飛んでいったのを見届けると、瑞鶴の顔は蒼白になる。


「あ……」

「……離しましたね? どうやらペナルティが必要なようです」

「ご、ごめんなさ……ぃひィッ!? ちょっ、加賀さっ……ひゃああっ!?」


 翔鶴や加賀と比べると膨らみが控えめな胸を、加賀は指の腹を使って揉み解し始めた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!? はひぃっ! ん、んあぁぁぁぁっ!! ふぁああっんんんぅぅっ……い、いくら加賀さんでも、怒りまっ……! すひぃきゃっきぃいっひひひひひひひひひぃあっああああああああああ!!」


 断続的な電流のような刺激は激しすぎるほど瑞鶴の脳に伝わり、頭の中がぐちゃぐちゃになる。イヤイヤと瑞鶴は左右に首を振って抗議し、頭の横で二つ束ねられた尻尾のような髪は加賀の頭に何度も当たる。だが、これといって加賀の行動の妨げにはならず、絶え間なく送り込まれる胸への攻撃は瑞鶴から甘さを含んだ笑い声を引き出させる。


「ぇやはぁぁぁっあっはははははははははははぁんっ!! たすけてええええぇぇぇぇえええっっぁはふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! しょうかくねぇえええええぇへへへへへへへへっへへへへへへへぇ!!」


 苦しいやらくすぐったいやら気持ちいいやらが入り混じった変な感覚に囚われ、姉の名前を叫び続けた。顔を真っ赤にした瑞鶴が、弓を床に落としてしまったことに気が付くのは、「早く拾いなおしてください」と言われてからのことだった。


 そうは言いながらも加賀の手の動きは止まることを知らず、胸の固くなった先端に触れられると、


「ひにゃあああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 と大きな悲鳴を轟かせて瑞鶴の体は脱力し、彼女は腰砕けになってへたり込んでしまう。


「はぁ……はぁ……」


 笑わされすぎたことで呼吸もままならなかった瑞鶴は、手の止まった隙に慌てて息を吸い込んだ。生理的欲求に従って酸素を求めて喘ぐ彼女の姿は、見る者の目によっては扇情的に映るだろう。
 加賀の追撃が来ていないことから、もうさすがにこれ以上は体を触られることはないだろうという希望的観測を打ち出して瑞鶴は呼吸を続ける。


「はぁ……はぁいぃひぃっ!? す、ストップ! もうやめぇへひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇっ!?」


 ところが正座に近い状態の瑞鶴は、呼吸の間を狙って身を乗り出してきた加賀の両手によってすりすりと内腿を刺激され、再び悶絶し始めた。


「落とした弓を拾いなおしなさい」


 加賀が瑞鶴の後ろで囁いた。感情を一切殺したようなその冷たい声は、瑞鶴の背筋を凍りつかせた。
 言われて瑞鶴はいつの間にか手から離れた弓の所在を求めて首を動かす。しかし落ちていた場所はそれほど遠くではないものの、拾うには腕の長さが二倍ほど必要であった。


「はひぃっひっ……! ひっ、ひひひひひひひひっ……! もう、だめ……無理ぃっ……!」


 内腿をなぞり続ける加賀の手によってじわじわと弱らされていることもあり、諦めてしまったほうが楽になれるのではないか。そう弱音を吐いてしまうほど、瑞鶴は身も心も疲弊しきっていた。
 さすがの加賀でもいつかは手を止めてくれるほどの優しさくらいは持っているだろう。そう願う瑞鶴だが、


「弓を拾いなおすまで、止めるつもりはありませんよ。これは特訓ですから」

「くふっっふふふっっふふふふふっ……! それも、やだぁ……」


 最後の力を振り絞って、瑞鶴は弓を拾おうと試みる。だが、くすぐられながら立ち上がって歩くほどの気力は残っていないため、彼女は両手を地面について四つんばいの状態になる。
 少しだけ弓の方向への距離を稼いだ瑞鶴は、左腕をつっかえ棒にして体を支え、右手だけを精一杯伸ばして拾いに行く。


「ひゃあああああああっはははははははははははっ!! やっっきゃっはははははははははははははっはははははははっはははははははははは!!」


 左腋と右わき腹を同時にくすぐられ、あともう一息というところで瑞鶴の体は床に沈んだ。頬に伝わるひんやりとした冷たさと体温の上昇を感じながら、彼女の右手は目的物を捜し求めて暴れるが、床を叩くだけに終わってしまう。


「ぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!! あーひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! ぃひぎぃぃぃぃぃぃひひひひひひひひひっ!! ふぎゃあぁぁぁぁぁあはははははっはははははははははははは!!」


 地面に落ちるのは、涎か汗か涙か。もはや瑞鶴にはそれを確かめる余裕はなかった。体に張り付く加賀の手からの刺激に悶笑しながら、床を這ってほんの僅かでも進んでいることを信じて瑞鶴は体に力を込める。


「あっ……」


 そして数分して、ついに瑞鶴の右手が弓を掴んだ。

 やった、終わった。やった、助かった。瑞鶴は弓を手にした瞬間そう思った。


「はぎゃああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ!? ひぃっっぎぎぎぃいいぃぃぃっひひっひぃひひひひひひひひ!! ひ、ひろったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁああああああ!! ひろったのにぃぃぃっっひひひひひっひひひひひひひひひひひひひっ!! なんでえぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!?」


 しかし、いつまで経っても瑞鶴の体に伝わるくすぐったさは止まらない。いや、むしろどんどんと増していくようにも感じられている。うつ伏せで倒れこんだ状態で笑い苦しみ足をばたつかせて瑞鶴は猛抗議する。


「確かに拾いなおすまで止めないとは言いました」


 加賀は後ろから圧し掛かって、ぐにぐにとわき腹を揉み込んで瑞鶴の体を震えさせながら、


「ですが、空母の命である弓を放り投げてしまうなど許されません。心から反省するまで、罰を受けなさい」


 そう言い放った。


「うそつきいぃぃぃぃぃいいいいいい!! いひぃいいいぃぃぃぃっっ!? ひぁっははははははははははははははははは!! あああああああああっはははははははははははははははははは!! わかっ、わきゃりぃひっ、あやまるっ! あやまるからぁぁぁっっ!! 謝りますからああああぁぁぁぁぁああああああああああああっ!! かぎゃさんごべんなさぁぁああいぃいいいいいっひひひひひひひひっひひひひひひひひっ!! ごめんなさいいいぃいぃぃいいいぃぃいいいいいいいいいいいいいい!!」


 体勢の問題から加賀の表情は伺えないが、冗談ではないことだけは本能的に理解した瑞鶴は笑い、泣き、叫びながら謝罪の言葉を喉から搾り出した。助かりたい、その一心で。


「謝る相手は私ではなく、貴女が手にしている弓ですよ。わかったならばもう一度、心を込めて謝罪なさい」


 がっちりと加賀の両膝でホールドされており、瑞鶴の体はほとんど動かせない。それでも逃げ場を求めて動き出そうとするが無駄に終わる。


「えひゃああぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!! ふっくふふふふふっふふふふぃっっ……んふふふふっ……くくくくぃっひひひひひひぁっははははははははは!?」


 加賀は瑞鶴が逃げようとするのを諫めるように、腰を両サイドから責める。右側は優しく揉むように、左側は指でつんつん突っつく、また時折左右の動きを逆転し、慣れを作らせないようにしている。そして思い出したかのように絶妙なタイミングで手を瑞鶴のわき腹や腋に移動させてくすぐる。
 瑞鶴はこのくすぐり地獄に耐えながら謝り続けて、許しを得るまでは決して逃げられないのだ。


「ぃひぎいぃぃぃぃぃぃいっっあっははははははっははははははははは!! くるしいっっくるしいぃっひっひひひひひひひひひひひひひひひっ!! くすぐったいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!! ひぃんぃぎゃあっははははははははっはははははははははははは!!」


 刺激を紛らわせようと手足を激しくばたつかせるが、無意味だと言わんばかりにそれ以上の強い刺激を加賀の指から送り込まされる瑞鶴。加賀ほどではないが、彼女はこれまでいくつもの海戦を経験し、時には死を覚悟するほどの損害を被ったこともあった。しかし、今はそれに匹敵いやそれを超えるほどの寒いものを感じている。


「無理っっ!! もうほんとにむりぃっっ……いやぁあああっははははははははぁああああああああぁぁぁぁぁああああああああ!! ふぁああああぁぁぁひひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぃいひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! こんなっっこんなのもうやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! くるぃひっ、くるしいぃぃぃぃひひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひ!! ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! ぎひっっぎひひひひひひひひひひひひひひひっ!! しんっっしぬぅぅぅうううううううぅぅぅぅっっやだっっああははははははっははははははははははははっっ!! やだあぁぁぁぁぁぁははははははははっっしんじゃいますううぅぅぅぅぅぅぅぅ!! はぎゃあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 加賀の指の動きはこれまでで一番活発であった。瑞鶴の左右に振る首の動きもまた、最も活動的であった。ここが一番弱いと見抜くといなや、徹底的に腋を攻め続ける指の動きに、瑞鶴は呼吸する暇も与えられない。酸素を得ることのできない瑞鶴は笑い死ぬほどの苦しみの海に溺れてしまいそうになる。


「死にはしませんよ」


 それでも動きは止めない加賀。普段から感情を表に出すほうではない彼女は、今に限っては少し感情の乗った声で瑞鶴に囁いた。
 腋への責めから逃れようと体を起こそうとする瑞鶴を見て、加賀は膝を前方に少しだけ突き出した。


「あ゛はっはははははははははははははははは!! あ゛ぁっっじんじゃうからぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! やめてぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!! ぇ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぎぁ゛っっははははははははははははは!!」
 
 これにより瑞鶴は、腕を引いても肘が加賀の膝に当たってしまい腋を閉じることもできなくなった。ギブアップをするように彼女の腕は地面をタップし続けるが、それは全く聞き入れてもらえない。


「我々は艦娘ですから」


 死ぬことはない。それは本当だ。敵の攻撃で破損し海に沈んだとしても、それは変わらない。だが艦娘は兵器でありつつも、人間と同じように感覚は脳に伝わる。お腹が減ればお腹も空く、痛ければ痛い、くすぐられればくすぐったい。死なないとわかっていたとしても、死ぬような思いをすれば人間と同じように死を覚悟する。


「ごめ゛ん゛な゛さい゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!! ごめ゛ん゛な゛さいい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」


 局所的に熱気がたちこめる弓道場での響き渡る声が収まるのは、体力の限界で瑞鶴が気絶一歩手前になってからのことであった。


▽▽▽


「……ぇぁはっ……ぁはっ……ははっ……はぁ……はぁ……」


 ようやく解放された瑞鶴は、地面に伏し体を痙攣させながら、浸りたくもない感覚の余韻を味わいながら喘ぐ。顔は高潮し体は熱い。長距離を走り終えた後のような疲労感で、しばらくの間瑞鶴は動くことが出来なかった。


「休憩が終わったら、また再開します」


 加賀は瑞鶴の弓を、落とした衝撃でおかしくなっていないかを確かめながら淡々と言った。しかしそれに対する返事がないため、加賀は瑞鶴の方を見る。


「…………」


 すると加賀の目に映ったのは、出口に向かってよろよろと歩き出す瑞鶴の背中だった。


「どこに行くというのですか?」

「……どこだって、いいじゃない」


 振り返りもせず、瑞鶴は返した。その声は怒りをはらんでいるようにも聞こえる。


「まだ特訓は終わっていませんよ」

「特訓? こんなの、どこが特訓だと言うんですかっ! どう考えたって嫌がらせじゃないですかっ!」


 弓の手ほどきというくらいだからもっと手取り足取り細かく教えてもらえるものだと瑞鶴は思っていた。
 だが来て早々遅刻だと言われ良しと言うまで射ろと命令され、うるさく口を挟んだかと思えばいきなり邪魔をしてきた。そもそも嫌がっているのにくすぐり続ける意図もわからない。嫌がらせじゃなければなんだというのだ。これらの思いを込めて叫んだ瑞鶴は出口へ歩みを進めた。

 特訓相手を変えてもらうよう提督に直訴しに行く。そのつもりで扉に手を掛ける瑞鶴。しかし、押しても引いても、ドアはガチャガチャと音を立てるばかりでびくともしなかった。


「あ、あれ?」


 もう一度確かめるが、それでもやはり開かない。「外から鍵をかけてもらっています」と加賀が言うと、瑞鶴は鍵を掛けた人物の正体を加賀に尋ねた。


「翔鶴さんです」

「翔鶴姉が? どうして?」

「……提督の指示です」

「提督さんの?」


 そういえば、と瑞鶴は朝起きた時に同室の翔鶴の姿が無かったことを思い出した。いつもは朝一緒に食堂へ向かうのだが、今日に限ってはそうではなかった。朝早く提督に呼ばれていたということだろうか、と瑞鶴は結論づけた。


「指示があるまで開けないようにと彼女は命令されていますので、外に向かって呼びかけてもここから出ることはできません。わかったならば、すぐに戻ってきてください。それに、誤解が無いように言っておきますが……」


 と、一拍置いて、


「妨害も含めて、メニューは全て提督が決めたことです。なので、嫌がらせだと思うなら私ではなく、後に提督にその文句をぶつけると良いでしょう」


 提督、の部分を強調する加賀。
 提督の指示ならば、何か考えがあってのことかもしれない。あの優しい人が嫌がらせなんてするはずがない。

 そう思った瑞鶴は射場に戻るが、それでもやや納得のいかないような顔を浮かべていた。


「でも、あんなことされたら誰だって手元が狂うに決まって……」

「……ならば、試してみますか?」

「えっ?」

「私が今から手元を狂わせることなく射ってみせます。貴女は、私にされたことを同じようにやってください。もし私の矢が的を……いえ、的の真ん中を射抜いたならば、貴女は大人しく私の指導を受けなさい」


 そう言うと加賀は壁に掛けていた自身の長弓を手に取ると射場に戻り、瑞鶴に背中を向ける形で隣に立った。そして弓に矢をつがえて、射る直前の構えを作って静止した。一点の濁りも隙もなく行われた、流れるようなそれらの動作に瑞鶴は思わず見惚れてしまった。


「…………」

「どうしました?」

「い、いえ何も。では、いきます」


 瑞鶴はゆっくりと加賀の背中に近づき、手を加賀のわき腹に触れるか触れないかといった場所に置く。


(……今だ!)


 加賀の右手が僅かに動くのを好機と見て、瑞鶴は加賀の両わき腹を自分がされた時の要領で突いた。


――つんっ。


「…………」


 しかし加賀の口からは吐息すら漏れることなく、矢の軌道も一切ぶれずに的のど真ん中に刺さった。

 射終わった後も、瑞鶴は腋に手を差し込んで五本の指を無茶苦茶に動かしたが、加賀の残心も崩すことはできなかった。


「そ、そんなぁ……」

「これが一航戦の実力です」


 がっくりと肩を落とした瑞鶴に、加賀は余裕の表情を見せた。


「ですが、気に病むことはありません。五航戦の貴女だってきちんと鍛錬を積めば、今のように曇りの無い射撃ができるはずです。さぁ、約束は守ってもらいますよ?」


 加賀は自分の弓を壁に戻すと、再び瑞鶴の斜め後ろを陣取った。

 このまま、負けたままで終わりたくない。

 加賀から弓矢を受け取り、瑞鶴は特訓を再開することとなった。


▽▽


 瑞鶴はまだ知らない。


「……これだから五航戦は」


 加賀が先日、口にした言葉。


(今はまだ、私が守ってあげないといけませんね)


 それにはこのような続きがあることを。


(嫌な先輩役を演じるのは、少し疲れますね)


 瑞鶴はまだ知らない。


(さて、今の私が提督代理であることは、いつ瑞鶴に明かしましょうか)


 この鎮守府に着任している提督が現在はおらず、一時的に加賀が鎮守府の全権を担っていることを。


(一ヶ月ほどバカンス行ってくるから後は任せたわ、と言われた時は流石に頭にきましたが、そのおかげで予定より早い段階で瑞鶴を呼び寄せることが出来ました)


 瑞鶴はまだ知らない。


(意外とばれないものですね。髪を下ろし、帽子を深めに被るだけでも)


 移籍してきたばかりの瑞鶴に挨拶をしたのも、先日瑞鶴に優しい言葉をかけたのも、弓矢を準備しこの特訓のメニューを考えたのも、提督に変装した加賀であることを。


(それにしても瑞鶴は……)


 瑞鶴はまだ知らない。


(いい声で鳴きますね。肌も白くてすべすべで触りがいがあり、思わず食べてしまいたくなります。かわいいですね)


 特訓と称して体に触れている加賀がこのように考えていることを。


(本当は翔鶴さんから篭絡して、外堀を埋めてから瑞鶴攻略を考えていただけに、先日の被弾は想定外でした)


 瑞鶴はまだ知らない。


(まぁ、順番の前後など、些細なことですね。することは同じなのですから)


 姉の翔鶴も、数日後には同じ目に遭うことに。


(……私としてもだいぶ満足しましたし、そろそろちゃんとした弓の手ほどきにシフトしてあげましょうか。ここまでヘイトを溜めてきたところでいい先輩らしい一面を見せ、優しい提督=加賀の顔をダブらせるよう思考をさりげなく誘導させ、マイナスの好感度を一気に上げていきましょう。それに……)


 そして瑞鶴はまだ知らない。


(いつか翔鶴さんと瑞鶴は、一航戦に匹敵する存在になる。戦いが激化して私が海に沈んだとしても、彼女達ならその役目を立派に果たしてくれるでしょう)


 瑞鶴の背中を見つめる加賀の目が、慈愛と期待に満ちていることに。 



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あとがき

pixivに投稿した二作目になります。
一作目と違い長く、ややハードめな作風になったと思います。
前作の倍以上のご評価を得てドッキリなんじゃないかと疑ってしまうほどに、当時は驚きながらも嬉しくて嬉しくてたまらなかったです。

アニメが始まる前であったため、様々な設定や二人の関係については自分の中の妄想で話を組み立てておりました。私の中での加賀さんは、瑞鶴にきつい言葉を投げかけながらも内心デレデレで可愛いなと思っているタイプです。