艦隊これくしょんより、初霜・若葉のくすぐり小説です。

本文は下からどうぞ!

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 若葉だ。

 好きな食べ物は激辛カレーだ。

 最近は駆逐艦として、鎮守府近辺をかぎ回る偵察艦や潜水艦の退治が主な仕事だ。
 いつか、奇跡の作戦と噂されるキスカとやらに参加してみたいものだが、それがどんなものかはあまりわかっていない。ちょっと前にキス島撤退作戦という似た名前のものになら参加したことがあるが……なに、これは違うのか?

「…………」

 さて、今日は非番だ。朝ごはんも食べてしまい暇になった。何をしようかと考えたが、特にやりたいこともないので、これから自主訓練にでもしゃれこもうか。休日の過ごし方としては、それも悪くない。

 そう思って訓練場に行こうと廊下を歩いていたら、

「ちょっと! 若葉お姉ちゃん!」

 ああ、またか。
 後ろから聞き覚えのある声で呼び止められた。振り返ると、予想通りの人物の姿があった。

「……なんだ、初霜」

 私の妹分、同じ駆逐艦の初霜だ。背中ほどまで伸ばしたつややかな長い黒髪を先端で一つにまとめているのが特徴的な、真面目な奴だ。

 どのくらい真面目かと言うと……

「またそんなだらしない恰好して……いつも言ってるじゃない。服装の乱れは心の乱れだって」

 初霜が私の制服を直しにかかってくる。
 こいつはいつもこうなんだ。顔を合わせれば着こなしのことで小言を飛ばしてくるのだ。
 初霜はといえば、今日もブレザーの前は閉じ、カッターシャツのボタンもきちんと留め、結んだ赤いネクタイも一切緩んでいない。寝癖もなく、艦隊のアイドル那珂ちゃんよろしく歯も真っ白で清潔感に溢れている。戦いにおいても、皆を守ろうとする優しさと勇ましさもある。やや幼さの残る整った顔立ちも愛らしく、声の耳さわりも良く、家庭的な一面もポイントが高い。なんだ、完璧超人か。姉として鼻が高いぞ。

「これでよしっと……」

 初霜は私の体から離れた。直し終えたようで、私は初霜とおそろいの姿になる。首元が妙に窮屈だ。はっきりいって落ち着かない。

「……動きにくいぞ」

 我慢できず、ものの数秒で私は黒いブレザーの前を開け、ネクタイを緩め、カッターシャツの第二ボタンを外してスカートから裾を出した。ああっ! と声を上げて初霜が驚いたような顔をしている。

「……どうした? 直さないのか?」

「もう知りません!」

 そっぽを向いて、膨れ面を作る初霜。私と違ってなかなかに感情豊かで面白い。からかい甲斐のあるかわいい奴だ。

(……本当に、かわいい奴だ)

 だからこそ、今日はもう少しからかってみたくなった。

「……非番で特別気分がいい。そうだな……初霜の言うように、たまには制服をきちんと着てみようか。悪いが、もう一度直して欲しい」

「え、本当に……?」

 ああ、本当だ。特別気分がいい、というところはな。口には出さず、首をゆっくりと縦に振った。
 すると初霜の表情が明るくなった。ぱぁぁ……という擬音が聞こえてきそうだ。

「やっと……! やっとお姉ちゃんがわたしの言うことを聞いてくれたわ……!」

 こいつは本当にかわいい奴だ。私の言うことをまんまと信じてしまったぞ。

 今から私に、何をされるかも知らずに。

「ぐすっ……じゃあ早速、制服を直すわね」

 よろしく頼む、とだけ私は言い、直立した。
 初霜は再び近づくと頭の角度を少し下げカッターシャツを掴む。シャンプーの香りが鼻腔を刺激した。

「…………」

 ボタンと一つ一つ格闘している初霜の顔を見る。今こいつの視界には、ボタンしか見えていないのだろう。
 よし、作戦開始だ。私は、足の横で揃えていた両手を、こっそり初霜の体に接近させる。

 そして――

「……こちょこちょこちょこちょ」

「きゃはんっ!?」

 初霜の両腰をくすぐってやった。突然のことで驚いたのか、間抜けな声を上げてくれた。

「な、なにを……?」

 しかしこいつは私の服から手を離そうとしない。
 本当はこの後、「引っ掛かったな」と言って止めてやるつもりだったが、いい反応をするものだから悪戯心に火がついた。もう少しだけ腰を両サイドから合計十本の指で弄り続けてみよう。

「お、お姉ちゃっ……んっ……!? んんっっ、んふっ……んふふふふふふっ……! ふくっくふふふふふふふふふふふぅっ……! ど、どうしてぇ……?」

 意外に我慢強いな。すぐに笑ってくれると思ったが、笑わないように初霜は歯を食いしばっている。私の制服を握る力も強くなっているようだ。だがボタンを留めようとする動きは中断されている。

「……手が止まってるぞ」

「ひゃふっ……! ふっ、ふふふふふふふふふふっっううぅぅう……だ、だって……ぇへぅっっふふふふふふぁああっぁふふふふふふぁふっ……!」

 口元を少し歪ませながら、初霜はやや前かがみになって弱弱しく肩を震わせている。このままくすぐり続けていれば、いつかこいつは笑い出すだろう。
 そもそもこいつは、前々からこうだった。以前、提督や私が魚雷管の角度を直そうと腰に触れた時、妙な声を小さく漏らしていた。その時はわからなかったが、今確信した。初霜は腰が弱い、つまり敏感なのだ。
 そうと決まれば笑い声を上げてくれるまで、私は腰をくすぐり続けねばなるまい。

「ふうぅぅうっ……! んんんっ……! んっっ……ぷふっっ! っふくぅふふふふふふふふふ……くうぅふっぷぷぷぷぷふふふふふふっ……! や、やめっっぇふぁ……や、やめてくださいぃ……!」

 やめてくれ? そんな言い分通らせるものか。ここまで出かかっているのだから、笑うまでは止めてやるつもりは毛頭ない。
 だが、敏感なはずの腰をけっこう長く攻めているはずなのに、なぜこいつは笑わないんだ? もっと弱い所があるとでもいうのか、それとも一箇所だけの攻撃では慣れられてしまうのか? 

「……ふむ」

 やり方を変える必要があるなこれは。
 私は指を動かしながら手首の角度をずらし、親指がもう少し上になるようにした。これにより腰は八本の指が引き続き攻撃し、親指二本は肋骨あたりを押し込むことが出来る。この方法ならどうだろうか。

「ぃふぁううっっ……うぅぅぅっぅふふふふふふふっくくくくくくくく……! っっうぅっ……ぅぅ、うっんんっっ!? んくっ……! くくくぅうんんんんんぃぃいいいっ……ぃぃひぃいいぃっきひひひひひ……! っっあひいぃぃぃぃいっぃいいいぃぃぃぃいひひひひはっっ……!」

 お、ちょっとずつだが、口が開いているような気がするぞ。
 私は親指にかける力を少しだけ強めてみた。

「ひぁあああああぁっ……あ、あぁぁふっっ! ぁ、あふぁっっ……はっ、ぁはっ、はっ……あっっあ……は、はっははははははははははははははははははは!!」

 この瞬間を、待っていた! 
 肋骨をコリコリと親指で転がしてみると、これが功を成したようだ。その際に初霜の体が一瞬びくっとなったので、すかさず腰に当てている残りの指の動きを早めてみると、しばしの我慢も振り切れて大きな笑い声が初霜の口から飛び出した。

「はひゃあぁぁああぁぁぁいいぃぃひぁっははははははははははははははははははっ!! い、やっっやぁぁぁあぁぁああっはははははははははは!! はふぅっっ、うっふぁふっ……!! ふぁっ、ぁぁぁあっあふふふふふふふふふふっっぷふふふふふふふふふふぁっはははははははははははははははっ!!」

 こうなると初霜は制服を直すどころではなくなったのか、刺激から逃れようと私の手を掴んで体から引き剥がそうとしている。だが体勢の問題から腕は窮屈そうで、くすぐったさで引くための力が入らないのだろう。大した腕力は伝わってこない。

「……降伏は無駄だ、抵抗しろ」

「くふっふふふふふふふふふぁぁぁぁぁぁぁっっ!! きゃはっはははははははははははぁっっあぁぁあああっははははははははははははは!!」

 眉をハの字にして首を左右に振りながら、初霜は掴む腕に体重を乗せてきた。引いてダメなら押してみようという魂胆か。
 そこでもっと強く初霜の腰に指を食い込ませてみた。そして揉むようにして指を動かす。

「っっっ!? まっっ、ひはっ!! はひぃっっ!! ひひひひっひひひひひひひひひぁっはははははははははははははははぁ!! ああーっははははははははははははははははっ!!」

 おお、さっきより反応が大きいぞ。
 仰け反った際に顔は上を向き、初霜は天に向かって叫んでいる。私よりやや身長が高いため、喉が震えているのが見えた。腰の上方をくすぐった後に下の方へと移動させて手を動かすと、初霜は頭をぶんぶんと振り回して暴れる。

「はぁっっはははははははははははははははははははは!! いっ、いぃぃいいかげんっんんんんんぅ!! ぃきゃっきはははははははははははははははっ!! はっははははははははははは……ひひひぃっっ、やめっ……!!」

 先ほどから、初霜の声がうるさい。まぁどうせ止めろだのいい加減にしてくださいだの、単なる文句だろう。
 何を言われようと手の動きを緩めてやるつもりはない。なぜなら、こいつを笑わせるのがなんだか楽しくなってきたからだ。

「きぃいいっひひひひひひひひひひひひ!! いい加減にっっにぃいいいぃいはっははははははははははははははっ……!! あはっっぃい、いい加減に……!」

 叫んだ瞬間――

「いい加減に、してくださいって……!」

 視界の隅で初霜の髪が大きく揺れ、

「言ってるでしょうっ!!」

――ゴォォォォォォンッッ!!

「ぐふぁっ!?」

 目の前で星が散った。
 頭部には衝撃と共に伝わる鈍い痛み。そして宙に舞う感覚。目に見えるものが初霜から天井へと変わっていく。
 一瞬何が起こったのかがわからなかったがすぐに理解した。

 初霜から反撃を食らったのだな。それも、強烈なヘッドバッドを。

 そういえば、以前にもこんなことがあったような記憶がある。初霜にいきなり衝突をかまされてしまったことが。

 そう……あれは確か霧の濃い日。何かの作戦が開始される前に起こった出来事。だがその作戦名が何であったかが正確に思い出せない。

 しかし薄れゆく意識の中で感じたこの気持ち、まさしくキス――

「――か、はっ……!」

 背中を床に打ちつけた。

 そして目の前が真っ暗になった。


▽▽▽


 ぴくり、ぴくりと小さな動きをする眉が瞼を震わせた。

「…………ん」

 目が重い。
 ゆっくりと目を開けると、ぼやけたような視界が次第に明確になっていく。
 目に飛び込んだのは見知らぬ天井だった。木張りで所々にシミのある、古めかしい印象を感じさせるそれは、少なくとも私の知る部屋のものではなかった。
 というか、誰かいないのか?

「目は覚めた?」

 初霜の声だ。
 どこからだ? 
 体が妙に動かしにくい。なので声のした方向に首だけを動かすと、右のやや斜め後ろに初霜は立っていた。

「まったくもう……騙すなんてひどいわ」

 私が起きている事を確認した初霜は、胸の前で腕を組んでため息をついた。

 騙す……? ああ、そうだった。私は初霜に制服を直させて……くすぐってやって。反撃されてそれから……

――ズキッ!

「……痛いぞ」

 気絶する前のことを思い返していると、急に頭痛に襲われた。そうだ、初霜の強烈な頭突きが原因だ。おまけに打った背中も少し痛い。
 頭を押さえようと思わず私は腕を上げ、

「……?」

 上げ……ようとするが何故か上がらない。
 体に力が入らないわけではない。もうだいぶ意識は覚醒したから問題なく動けるはずだ。それなのに腕が上げられない。まるで何かに括り付けられているかのように。
 私は、自分が今どういう状況なのかを、上体を少しだけ起こして首を上下左右に動かして確認し始めた。

「……なっ!?」

 目を疑って、驚きの声を上げてしまった。
 体が仰向けで、背中には若干柔らかい感触。これはベッドに寝かされているということで納得がいく。
 だが体が動かせない理由、これが問題だ。手首と足首に何かが巻きついている。その巻きつく何かから、ゴムベルトがベッドの下まで伸びていた。どこかに固定されているのだろうか、私は「大」の字を描くような状態からほとんど動くことが出来ない。

「……おい。これはどういうことだ?」

 問いながら、この拘束から抜け出そうと手足に力を込めた。だがベッドから上半身や腕及び足をほんの僅か浮かすことができても、すぐにゴムベルトの力によって元の状態に戻されてしまう。私達艦娘は、装備がなければ只の年頃の少女と何ら変わりなく非力なのだ。

「若葉お姉ちゃん。ここ、どこだかわかるかしら?」

 質問に質問で返すな、と言いたくはなったが、確かにこの部屋がどこなのかは私としても気になっていた。とはいえ見当がつかないので、「……分からない」としか言えなかった。

「ここは懲罰房よ」

 懲罰房。悪いことをした者を隔離・収容するための部屋だな。宿舎を出て渡り廊下を通る途中に見かける小屋がそれだと聞いている。けっこう前に体罰が艦娘への人権侵害だと騒がれて以来、懲罰目的で使われることがなくなったのは知っていたが、実際に入るのは初めてだ。

「……どうしてここを?」

 わざわざこんな古ぼけたところに運び込んだ理由がわからない。ましてや、体を動けなくさせる理由もわからなかった。

「お姉ちゃんはわたしを騙しました」

「……そうだったな」

「だから、然るべき場所できちんと罰を受けて、しっかり反省して欲しいの。二度とあんなことをしないように」

 なるほど。例えば、誰もいない部屋に閉じ込めてしばらくの間放置する。それだけでも反省を促す罰としては十分かもしれないな。手足を縛られているということは食事も制限されるのだろうか。それは……ちょっと嫌だな。最低でも一日一回のカレーを所望するぞ。

「……お前、怒っているのか?」

 確かに、騙してくすぐったのは悪いと思っているが、いくらなんでも縛るのはやり過ぎではなかろうか。あんなのはただの冗談、お遊びみたいなものじゃないか。

「怒ってないです」

「……本当か?」

「怒ってないです」

「……いや、絶対怒っているだろう」

「怒ってないです」

 というかその台詞はお前のものではないだろ初霜。

「……わかった」

 言い合っても埒が明かない。
 もしかすると、ちょっとやりすぎたところはあったかもしれない。初霜にとっては敏感な腰をくすぐられ続けるのはとても苦しかったのかもしれない。
 だから姉として責任を取るべく、私は初霜の言う罰とやらを受けてやることにし、「気が済むまでお前の好きにしろ」と付け加えて身を投げ出した。

「若葉お姉ちゃんにしては、えらく素直ね……まさか!」

「……こんな状態で何ができるというんだ」

 それもそうね、と初霜は納得するとベッドの上に乗り込んできた。そしてスカートの辺りで腰を落とすとベッドのスプリングの軋む音が大きくなった。
 私は初霜に跨られ、正面から見下ろされる形となる。
 この時点で、これから身に何が降りかかるかは安易に予想がついた。

「やっちゃいます!」

 初霜は両手を、私の腰にあてがった。

「こちょこちょこちょこちょこちょ」

 そして指を思い切り動かしてきた。初霜の細い指がピアノを奏でるかのように滑る。

「……………………」

「あ、あら?」

 全くの無反応だったため、手を止めた初霜は首をかしげた。こいつの中では、私が大いに笑い転げるのを期待していたのだろう。

「……効かないぞ」

 何をされるかがわかっている以上、対策は容易だ。口を閉じて、腰辺りに意識を集中させ力を込める。これだけで刺激を少しは緩和できる。
 要するに我慢するだけなのだが、私が笑わなかったのはそれだけが理由じゃない。

「……私はお前とは違う」

 姉妹だからといって、弱点が同じというわけではないのだ。全く何も感じなかったと言えば嘘になるが、少なくとも私にとって腰は初霜ほど敏感ではないようだ。

「そんなはず、ないわ……!」

 しかし初霜にとっては納得がいかないようだ。
 再び腰を弄り回してくる。今度はさっきよりも動きが早く、強い力だ。

「………………無駄だぞ」

 それでも、私は破顔することはなかった。

「どうして……? どうしてお姉ちゃんは笑ってくれないの?」

 そう言うと今度は服の中に手を突っ込んで、腰を直接くすぐりかかってきた。やや冷たさを感じさせる指が私の腰をなぞる。

「…………ん」

 素肌に触れられたことによる驚きと、こそばゆさがやや強まったような気がして、私はほんの僅かに吐息を漏らした。

「んぅ………………」

 しかし声が出たのはこの一瞬だけのことで、結局一分もしないうちに、初霜は私を一度も笑わせることなく手を服から引き抜いた。
 そして離れると初霜はベッドから降りた。

「……? もう終わりなのか?」

 罰というからもっと長く続けるのだと思っていたのに、これでは拍子抜けだ。
 もしかしたら他の場所に私も知らない弱点があるかもしれないのに、どうして腰だけにこだわるのかわからない。このまま解散とあっては初霜としても消化不良なのではなかろうか。

「……気は済んだのか?」

 だいたい、姉想いなこいつが考えるような罰なんて、そうひどいものではないのだ。優しい奴だからな。

「いいえ、気は済んでないわ。怒っていますから」

 やっぱり怒っていたんじゃないか。

「でも、わたしだけの力ではお姉ちゃんを懲らしめることができない。なので……」

 なので?
 その言葉に疑問を感じると、初霜が自身の制服のポケットに手を突っ込んだ。
 携帯電話で誰かをここに呼ぶのか? だとすれば誰だ? 初春姉さんと子日姉さんか?

 ところが初霜がポケットから取り出して見せたのは携帯電話でも最近流行のスマホとやらでもなかった。

「……なんだそれは?」

 一言で表すならリモコン。ボタンがたくさんついており、ゲーム機を操縦するそれのような物体だ。

「お姉ちゃんは知ってるかしら?」

「……何をだ?」

「この部屋は懲罰房であると同時に、尋問訓練のための施設であったことを」

 知らなかった。首を左右に振った。質問に質問で返されたことはもう気にしないことにする。

「……お前の持っているそれと、何か関係があるのか?」

「関係? 大いにあるわ」

 何故なら、と言いながら、初霜はリモコンを操縦し始めた。

――タイプT、ミニ、ピック……

 すると、初霜でも私でもない誰かの囁くような声と共に、壁やベッドから穴が開いて、何かが姿を現した。

「……なんだ?」

 出てきたのは、コミカルタッチなキャラクターの手を模した、白色の小さな機械のアーム。大きさのほどは、赤子の手に近い。マジックハンドとでも呼べばいいのだろうか。それらは群を成してゆっくりと近づいてきた。
 そして丸っこい人差し指だけを立てた形の二十本が、腰やわき腹に群がると、

――つんつんつんつんつんつんつんつん。

「……んっ!? ぅんっ、く……ふ……」

 服の上から一斉に私を突っつき始めた。
 初霜の時と比べると、指の数が単純に倍で、触れられている箇所が散らばっている。そしてこの突っつくような動きは、耐えられないわけではないが少しむずむずする。

「……ふっ、くくっ……は、初霜……こっっ、これは、まさか……ぁくっ」

「そのまさか。くすぐり尋問訓練用のものよ、これは」

「……くぅふ……っっ、くすぐりで、尋問……?」

「あら、昔はどこかの国で拷問の一種として採用されていたらしいわよ。そして、この機械やこの部屋は、敵軍から得た設計図を元に訓練施設として作られたらしいわ。もっとも、使われることはほとんどなかったから、今はただの物置みたい。電気ショックや針刺しなんていうのも機能にあったけど、これなら肌を傷つけることなくお姉ちゃんを懲らしめることができると思ったの。それに、同じ方法で屈服させなければ、意味が無いもの」

 なるほど。だからこんな部屋のベッドにわざわざ。
 くすぐり尋問などというものがあるというのは驚きだが、それの訓練用のものまであるとは思わなかった。
 心の中で納得した私を尻目に、初霜はまたリモコンを操作する。まるでどこかで使い方を習っていたかのように、随分と手馴れて見える。目を覚ますまでの間に説明書を読んだのか?

「……ぁふ……!? ん、んんんんぅっ……! ぅ、ぅふぁ……! ぁぁぁあうううぅぅぅぅっ……!」

 更に二十本のマジックハンドが現れ、腹部と腋の下に集まった。突っついてくる柔らかい指が四箇所で合計四十本にもなると、流石に少しばかりきつくなってきた。全身にくすぐったいような感覚が広がっていく。

「よんじゅう、にー」

「ぅぅぅううぅぅあぁぁぁぁふっ……! ふぅっっふふふふふっ、ふっくくくく……! くくくくくくぅっふぅふふふふふふふふふっ……!」

「よんじゅう、よーん」

「ひっっ……!! ひぃっひひひひひいぃぃぃぃぃっ……! ぃぃぃいいいぃぃふふぃぃぃひひひひひひひひひひひ……!」

 ここを境に、数を数え始めた初霜。どうやら数十秒おきに二本増やす頻度に切り替えたようだ。腹部はそうでもなかったが、両腋をつんつんする手が二本増えただけで、くすぐったさが増強された。もしかすると私は腋が少しばかり弱いのかもしれない。

「ひふぁぁぁうぅぅぅぅっ……! っ、っっうくっ!? くっ、くくくぅううぅぅああぁぁぁぁぁぁっ……! っっあっは……!? はっ、はぁああうぅぅぅぅっっ、ぅうふふふぅううぅぅぅぅぅぅぅっ……!」

 しばらくすると、着々と増えていくマジックハンドの刺激を送るタイミングが、ほんのりずれているようにも感じ始めた。不規則な刺激が何重にも押し寄せ、笑い声を一瞬上げてしまいそうになったがなんとか噛み殺した。本数以上のくすぐったさに私は飲まれかけているようだ。

「よんじゅう、はーち、と。ふふ、今のちょっと危なかったみたい。でも、おかしいわねぇ」

「ぅぅあぁくっっ、くぅぅぅぅぅああぁぁあぁぁぁあふっ……! な、ぁあっっ……なにがだ……?」

 何本目で笑い出すかを調べるようにいたぶる手法と、わざとらしく首を傾げる動作が、妙に私を苛立たせる。口ぶりもどこか楽しそうで尚更腹が立つ。妹のくせに生意気だ。優しい奴だと思っていたが前言撤回するぞ。

「いつもクールで凛々しい若葉お姉ちゃんは、まさかこんな程度で笑ったりなんてしないはずよ?」

「はっ、はぁあぁぁああぁふはぁ……! ぁくっ……! く、くくくくぅっ……くひっっ! ひっ、ひきぃぃぃぃっっ……ひぅっふふふふうぅぅぅぅぅぅっっ……!」

「だけど……本当はもう苦しくて苦しくてしょうがないのかもしれない。しかし妹に負けを認めるのは、若葉お姉ちゃんにとっては屈辱的、だから耐えている。でも、わたしも鬼じゃないわ。クールなイメージが崩れてしまうのがイヤなら、明日からわたしのようにきっちり制服を着ることを条件に、止めてあげてもいいわよ?」

 突っついてくるマジックハンドの数が五十の節目を迎えたあたりで増やすのを止め、初霜はこんなことを提示してきた。これを飲まないと、今からもっとくすぐったいことが待っているぞとのニュアンスにも取れなくもない。
 それでも私は簡単に屈服してやるつもりはない。別に普段はクールを気取っているわけではないから、イメージとやらにはこれといった未練は無い。だが、あんな窮屈な制服姿で今後暮らしていくなんてとても耐えられない。

「ぅ、くくっ……! ふ、ふん。こんなもの、まるで……ぇふっっ、ぅ……か、解読不能な……! んぁぁふふふふっ……も、モールス信号だな……!」

 だから私は、初霜のちょっと楽しそうにも見える顔に対して、

「ぁ、ぁぁぁあああぅぅっ……! よ、弱すぎて……っっな、何を言いたいのか、わからぁ……ぁぁっっ、ないぞ……!」

 強がってみせた。
 それに、こいつの言う様に、妹に負けを認めるのはなんだか癪でもあった。

「ふぅん? そう……」

 ぽちぽち、とボタンを操作する音。すると、突っついていた手は次第に穴の中に戻っていった。

(……危なかった。もう少しで笑ってしまうところだったぞ)

 呼吸を整えながら、初霜の動向を探る。
 次はどういった攻撃方法をとるのか、少しでも予測を立てる必要がある。

――タイプT、ノーマル、マルチプル……

 再び機械音声。
 入れ替わるように現れたのは、先ほどよりも一回りも大きな手だ。それに今度は、しなやかな形をしている。ちゃんとした細い指が五本ずつあり、色も人間の肌に合わせているのか、まるで本物の手だ。どういう技術で作られているのか興味深いが、そんなことを考えている時間はない。
 出てきた数こそ十二本で、さっきと比べるとかなり少ないが、単純な指の総数では上回っている。手は、腋とわき腹と腹部に二本ずつ、腰に四本、そして二本が新たに太ももへ肉薄した。

「じゃあ今から、もっとわかりやすくしてあげるわね」

 初霜が言葉を発しリモコンのボタンが押されると、一斉にそれらは、動き始めた。

「……あ、あぁぁぁぁぁっっあああぁぁぁぁあふっ! ふっふふふくくくくふふふふぅぅぅぅぅぅ……! くあぁぁっくくくくくくくぁぁあふっ……! ふぐっっ……!? ぐっ、ぐぅぅぅぅふっ、ふぐっぐふふふふふふふぅぅぅぅぅぅうっ……!!」

 さっきよりも大きなくすぐったさが押し寄せてきた!
 しかし強がりを言った手前、いきなり笑い出してたまるものか。必死に声を抑えて歯を食いしばった。

 マルチプル。多様な、という意味だったか。確かに、マジックハンドの動きは種類に富んでいた。合計十二本のうち、わき腹と腹部には五つの指で揉み解すように二本ずつが動き、腰には摘むような動きをする二本と軽く引っ掻くような動きの二本が展開している。
 指を揃えて太ももをさわさわと刺激しているマジックハンド二本もなかなかに厄介だ。この動きはぞわぞわするから、慣れるには時間がかかる。
 唯一の救いは、腋が弱いであろうことを知らないためか、両腋を担当しているマジックハンド二本は人差し指を立てただけのものだったことだ。これらは突っつく動きと指の腹で優しくなぞる動きを繰り返していて、くすぐったいといえば結構くすぐったい。が、もし五本の指を立てて激しく腋を蹂躙されていたならば、一瞬で我慢の壁など吹き飛んでいたに違いない。

「ぐっっ、ぐぅぅぅぅうううふふふふっ……!! んふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!! ふぁぁぁぁぁぁああぅぐっ……!!」

 だがその我慢も、だんだんと亀裂が入ってきているようにも思えてきた。私の口から漏れ出すうめき声のボリュームを抑えるのが難しい。拳を握る力が高まってもそれが良い方向に転がるかどうかはわからないが、やらないよりはマシだ。

「お姉ちゃんの弱いところはど・こ・か・し・ら、っと」

 初霜は時々リモコンを操作して、マジックハンドの采配を振るっているようだ。

「ひゃふっ……!! ふぅぅぅっっ、ぅああぁぁぁううぅくふっ……!! ふぐぃいぃひっ、ひぷっふふふふぅぅぅぅっ……!!」

 弱いであろう地点を探すべく、腰を引っ掻いている二本をわき腹に移動させたり、逆に腰へ多く配置したりしている。しかし、口を開かせての決定的な笑い声を引き出せないことで、初霜は不満そうな表情を浮かべている。

「イマイチね……じゃあ今度は、ここに」

「っっ……!?」

 ついに来てしまったか!
 初霜はリモコンを操作して、両腋へ六本のマジックハンドを集中させ始めた。ここが今のところ一番弱いことを悟られないように、なんとか抵抗して笑わずに切り抜けねばいけない。今日一番の力を全身に込め、目を瞑った。

「っあっっ!! あっ、あぁぁぁぁううぅうぅうぅううっ……!! うぐっぐぐぐぐぐぐぅぅぅぅぅぅぅぅっっ……!!」

 両腋に所狭しと押し寄せているのは、人差し指を立てて突っつく動きかなぞる動きをする二本、引っ掻くような指の動きの二本、そして三本の指で摘むような動きをする二本だ。四種類の動きをするそれらは口を開かせようと躍動し続ける。

「んっっ!! んんんんんんんううぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!! ふぅっ、ふぅぅぅぅぅんんっっ、んぐっ……ぐっふふふふふうううぅぅぅぅぅぅっっ!!」

 残りの、太ももをさわさわしている二本とわき腹をぐにぐに揉んでいる四本はスペースの関係で配置転換しないようだが、脇役ながら我慢崩壊の手伝いに一役買っている。

「うっ、ぐぅっ……ぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!! くっ……う、うひゃっっ!? ひゃっ……ひひひひひっ……ひ、ひっっぃいひゃひゃひゃひゃひゃはははははっ!!」

 腋のくぼみを引っ掻かれたのと、腕の付け根を摘まれたのと、その他の動きによる刺激を受けたタイミングとが一度に重なった瞬間に電流のようなものが走り、あまりのくすぐったさが全身を駆け抜けた。

「はっっ!! はあぁっっ……!! ぁひっ、ひぐっ、ぐっっ……んっんんんんうぅぅぅぅぅぅ……!! ぅぅぅうああぁぁぁうううぅぅぅぅぅうううっぐぅぅぅぅぅっっ!! うううぅぅぅぐぐぐぐううぅっうううぅぅぅぅっっ!! っっあぁぁぁぁあああああああああぅぅぅぅぅっっ……!! あふぅっ……!! ふぅっ……!! ふぅぅっっ……!!」

 ほんの僅かとはいえ、ついにみっともなく笑い声を上げてしまっていたことに気付き、慌てて根性で衝動を封じ込めようと、より一層強く歯を食いしばった。歯が割れたとしても構わないほどの力で、吐息を漏らしてもこれ以上笑い声は出さないように必死に噛み殺す。

「ふうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ……!! うっっぐううぅぅぅぅぅぅぅぅっっ……!!」

 どうにか押さえ込むことはできただろうか。息を吸う暇もなく、鼻と口から荒い息を吐き続け、眉間に皺を寄せながら、私は疑問を感じ始めた。

「ううううぅぅぅぅくくくくっ……!! くふっくふふふふふふぅううううううう……!!」

 腋へのくすぐりが、さっきから何分も続いていると錯覚するほど長く感じるのだ。

(まだか……? まだ終わらないのか……? いつまで笑いをこらえればいいんだ……?)

 いや、気のせいではない。確実に長い。これまでの部位なら、さすがにもう終わっていた。
 というか、さっきの私はどんな声を上げてしまったのだろうか。耐えるのに必死であまり覚えていなかったが、押し寄せてきた刺激の大きさを考えると、相当にやばかったのではないのか。
 こっそりと目を開けると、

(…………!!)

 先ほど見せていた顔から一転して、初霜の顔は喜びに満ちていた。

「そこ、弱いのよね?」

 まずい……! まずいまずいまずいまずい、非常にまずいぞ。ついに見破られてしまった! その上こいつは私が耐える様を楽しんで観察していたのだ!

――タイプT、ミックス……

 種類ごとに出せる本数に限りがあるのか、腋以外を触っていた手が引っ込むと、代わりに小さな白い手――突っつくタイプのマジックハンドが再び数多く出現した。物量作戦に出るつもりか!

(い、嫌だ……嫌だ……!)

 これ以上腋に触れられるのが増えたら、本当に耐えられなくなる!
 首を左右に振って、これから押し寄せる腋へのくすぐったさから逃れようと手足を暴れさせてゴムベルトを引きちぎろうと試みる。

 しかしそんな必死の抵抗をあざ笑うかのように、全く切れそうもないゴムベルトは身体をベッドに押し返す。私は何度も何度もぐいぐいと引っ張っては戻される。

 そしてとうとう――

「――くっ、くうぅうぅうぅぅぅっっ……!! うぐううぅぅぅう……ぅあっっ!? あっ、あぁぁああぁぁあはっっ!! はっはぁっっ、あっはははふぅぅっっ……うひゃっ!! ひゃっっ、ひゃひゃひゃあぁぁぁぁああああはははははははははははははははははっ!! わひゃあぁぁぁぁっははははははははははははははは!! あぁあああぁあああっはぁははははははははははははぁっ!!」

 援護のために殺到したたくさんの小さな手に腋を一斉に突っつかれ、とうとう大きな声で笑い出してしまった。

「はぁぐっっ、ぐぁっはぁっはっははははははははははははははははははは!! ぎぃあっはははははははははははははははぁっ!! ぁぁあああぁぐぐぎぎぎぎぃいんんふふふふぁっふふふふふふぅふっふはぁっははははははははははははははは!!」

 今度ばかりは抑え込もうとしても抑え込めない。この声はもはや私の意思で止めることはできないほどの代物だ。すぐに笑いの衝動に我慢が上書きされて、もの凄い勢いで頭の中が侵食されていく。

「あっひゃああぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!! ぷひゃああぁぁぁああああああはははははははははははははは!! はひゃあぁぁぁぁああっはっははははははははははははははははは!!」

 くすぐったい! くすぐったい! くすぐったすぎるぞ! 
 胴体を左右に揺らしたり振らしたりして、どうにか群がるマジックハンドを振りほどこうとしても、一向に離れてくれる気配がない。

「はっ、はっっはぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!! こんなぁぁぁあぁあああぁははははははははぁっっくはっははははははははははははははは!! こんなにっっ無理だぁぁぁぁあっははははははははははははははははは!!」

 なにぶん数が多すぎる。腋に入り切らなかったものは二の腕や肩、そして腕の付け根をついばむ。一度くすぐったいと感じてしまうと、これまでそれほどでもなかったところを触れられても笑い転げてしまう。

――ちょんちょんちょんちょん。

「くっふふふふぁっ、はっはははははははははははははははははは!!」

――つんつんつんつんつんつん。

「えひゃああぁぁぁっっあああぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

――つるつるさらさらこちょこちょ。

「んっっんぃっ!! ぃひひひひいひぃぃいひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! ひぃぃぃぃいいいあっははははははははははははははは!!」

――つぅぅぅぅぅぅぅぅ、つつぅぅぅぅぅぅぅっ。

「くふぅぅぅぅんんんんんんんっ!! んぁっあっあはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あふふふふふふふふふふふふふふふふふっ!! ふぁっふひひひひひひひはははははははぁ!!」

 人間の手に似たマジックハンドも負けじと、私からさらなる笑い声を引き出そうと動き続けている。

 このままくすぐられ続けると腋が壊れてしまう! せめて腋以外の所に移動させてくれ!!
 姉妹の絆を信じ、ツーカーの要領で念を飛ばして要望を伝えようと初霜のいるであろう方向に顔を向けた。

(あ……?)

 先ほどまで斜め後ろにいた初霜の姿がなかった。どこに消えたというのだ。

(トイレか? いや、出ていく音なんて全くしなかっ――)

――かりかりかりかりかりかりかりかりっ!

「くっっふぁぁああああぁぁああああああああああぁぁっ!? あぁぁぁあああっふふふっくくくくぁぁああぁあああっぎぃぃぃいいいいいいいいいっっ!!」

 突如、腋以外の箇所から激しく刺激が上ってきた! 

「ぎゃはっははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ああああっっははははははははははははっっ!! はっっぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!! あっ、足の裏ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 いつの間にか移動していた初霜が足の裏全体をくすぐり回していたのだ。

「あああああああああああああああああっっ!! あっぎゃああああああああああぁぁっっ!! っがあああああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁっっ!!」 

 親指の付け根の下の膨らんだ部分を爪でがりがりと引っかかれた。のけ反った瞬間に初霜の手が足の指の間に潜り込んで、こちらも引っかかれる。
 私は足の先を丸めて初霜の攻撃を追い出すが、すぐさま初霜は一本指で蛇がくねるように踵の方へと指を下ろしながらなぞる。到達すると五本立てた爪で踵を激しく蹂躙し、踵に飽きると初霜は時々二本の指を登らせては、一気に指の腹でしなやかに滑り下ろす動作をし、手を上下に往復させる。
 足の指より下への攻撃に対して私のできる抵抗はほとんどなく、私の上半身と足は打ち上げられた魚のようにびくんびくんとバウンドする。

「ぐっっがぐあああああああぁぁぁぁぁははははははははははっっ、はがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! くすぐったいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! くすぐったいからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やめてくれええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 黒いタイツを履いているからといって、防御力が期待できるかと思ったら大間違いだった。すべすべした材質ゆえ初霜の指がより滑りやすくなっているうえに、生地が擦れてくすぐったさが倍増している。初霜の手から逃れようと足を跳ねさせたとしても、ゴムベルトにやはり阻まれてしまい刺激を受け続けるしかなかった。腕周辺も同じくマジックハンドの攻撃からは逃れられずにいる。

「……そう訴えた時に止めてくれなかったのは、どこの誰だったの? あと、ただのモールス信号だ、何も感じない、気の済むまで好きにしろ。そう言ったのは誰?」

「はっぐぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! あっっぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!! ぎゃああぁっははははははははははははははははははは!! ひっぎぎぎぎぎぎぎゃあっあがぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

「若葉。若葉、若葉、若葉、若葉、若葉、若葉……今わたしが書いてる名前の人よ。そうよね、若葉お姉ちゃん?」

 言いながら初霜は土踏まずに集中的に指を這わして、同じ動きを繰り返す。足の裏を紙に見立てて、何度も何度も私の名前を爪や指の腹で書き続けている。言い聞かせるように、何度も何度も。

「あっがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! わっぎゃぎゃああぁぁぁぁぁあああああっははははははははははははははは!! はぎぃぃぃっぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 私が悪かった私が悪かった私が悪かった私が悪かった私が悪かった! 

「わぎゃっははぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! わぐっはぁぁああああははははははははははははははははははははは!! はっはぁぁぁぁあああああっっがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 しゃべろうと思ってもあまりのくすぐったさで叫ぶような声が言葉にならないため、私は首を何度も縦に振って謝る。

「……わたしを騙したこと、悪かったって思ってる?」

「ああぁぁぁぁっはははははははははははは!! わっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっははははははははははははっははははははははははは!! ぜはっはははははははははぁんんんああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 ああそうだ。悪かった。私が悪かった。全部私のせいだ。初霜の言葉に同意するために、もっと大きく首を動かす。
 もう嫌だ。ただでさえ腋へのくすぐりだけでも苦しいのに、それに匹敵するほどの刺激の強さが足の裏からねっとりとへばりついて離れない。
 なんとか謝って許してもらわなければ。足の裏と腋が壊れてしまうほどにくすぐったさでいっぱいだ。

「じゃあ負けを認めて、明日からちゃんと制服着る?」

 しばらくはあの窮屈な制服姿にも我慢してやるしかない。ほとぼりが冷めたらまたいつものように戻すつもりではあるが、今だけは言う通りにした方が得策だ。

「ゆるひっっいぃぎいぃぃいいゃああぁぁぁぁっははははははははははははははは!! ゆはっふぁぁぁぁあああああああああああああっ!! ゆっふふぁぁぁぁぁっっはははははははははははははははっ!!」

 許してくれ許してくれ許してくれ許してくれぇ!
 手も機械も止めて解放して欲しい旨を伝えるべく、こくこくこくこくと肯定の意を私は示し続ける。さすがに、ここまで情けなく笑い悶える姉の姿を見て、初霜ももう満足しただろう。なんだかんだで優しい奴だから、きっと許してくれるはずだ。

「そう……わかったわ」

 その願いが通じたのか、初霜は私の足裏をくすぐるのを止めてくれた。

「はぁぁっははははははははははははははは!! ははふふぁぁあっはははははははははは……!!」

 そして離れると、リモコンを弄り始める。

「はふぃぃっっひひひひひひひひひひ……! ひふぁぁっはははははははははは……! はははふふぁっ……ふぁふうぅっ……」

 次第にマジックハンドの動きが緩まっていく。

「ふうぅうぅぅぅっ……ふうぅぅぅぅ……ふぅぅ……」

 私の息遣いも徐々に穏やかなものになっていった。

「はぁ……はぁ……」

 数秒してくすぐったいのが完全に無くなったのを確認すると胸をなで下ろし、息を吸ってから私はほっと溜息をついた。

「……助かった」

 あとはマジックハンドが収納されて、手足のゴムベルトが外れるのを待つのみだ。

「…………?」

 随分と時間がかかっているな。止まってからかれこれ一分は経ったような気がする。

「……は、初霜。そろそろこいつらをしまって欲しいぞ」

 私の方とリモコンを交互に見ながら初霜は黙々と操作しているようだが、一向に手足は動かせるようにならない。しかもマジックハンドも、機能は停止しているものの私の身体からほとんど離れていない。精神衛生上、さっきまで私を苦しめていたものが傍にあるというのはどうにも落ち着かないのだ。

「ない……ない……どうして?」

 初霜は何やら小さな声でぶつぶつと呟いている。
 なんだ? どうした? 何がないのだ?

「……おい、初し――」

――ハードモード……

「え……?」

 音声が耳に入った瞬間、体の近くに残っていた複数のマジックハンドが動き出し、服を掴み始めると、

――ビリッ!

「なっ!?」

――ビリッ! ビリビリビリビリビリビリッ!!

 いきなり私の服を激しく引き裂いた!

「なぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ブレザーもカッターシャツもスカートも、それどころか胸を覆っていたインナーすらも破かれ、私の素肌は白日の元に晒されてしまった。残っているのは尻から足までを覆う黒いタイツと、その奥で大切な部分を守る最後の砦に等しい下着のみであった。意図せずしてマニアックな格好になってしまい思わず隠そうとするが、やはり手はろくに動かすことができない。

 予想外の出来事に困惑した私は、羞恥よりも先に怒りを覚えた。裸を同性かつ妹に見られたことに対してではない。一度油断させておいて、また罰を再開しようとするなどという卑劣な行いに、私は怒っている。

「どうして……? どうして……!」

 睨み付けた先の初霜はリモコンを乱暴に弄っていた。

「お前っ……!!」

「ち、違うのっ! わたし、そんなつもりじゃ……!」

 感情に任せて叫んだ私に対し、初霜は目を白黒させた。
 違うだと? この期に及んで何が違うというのだ。この装置はお前が操作しているのだろう? お前以外の犯人がいるはずがない。
 そんな私の怒りが届いているのかいないのかはわからないが、初霜はリモコンを動かす手を止めようとしない。

――タイプT、スペシャル……
――タイプE、スペシャル……

 機械音声が耳に入るがそんなことはどうでもいい。足の先にある壁からマジックハンドが壁から伸びてきているが、何が来ようと今は関係ない。

「初霜っ! もういい加減気は済んだだろう!」

「だから違うのよっ! この機械が勝手に動いて……え?」

「……は?」

 どういうわけか、新たに現れたマジックハンドの二本は初霜の両腕にがしっと食いついた。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 そして初霜の身体はそのまま空中へと持ち上げられ、引っ張られるままに壁に背中から叩きつけられた。

「痛ぁ……! どうして急に……ひっ!?」

 そして更にマジックハンドが空いた穴から数え切れないほど現れ、

「い、嫌……! 離しっっ、てぇひゃっ!? ひゃ、ひゃああぁぁっひぃいいいあはっははははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁあああああああっっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃはぁぁぁぁあああああぁやっっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!?」

 その傍らの初霜を一斉にくすぐり始めた。数もこれまでとは段違いで、人間の手に似せたやつが初霜の上半身を埋め尽くしている。敏感な腰にも当然のことながらびっしりだ。初霜の足は空をひたすらに蹴り続ける。
 っておいおいおいおいおい……服の中にまで次々入って行くぞ。服の下から直接腰や色々な所をまさぐられて初霜の身体が痙攣し始めている。これはかなりやばいんじゃないのか?

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! ひゃめえへへへへへへへへっへへへへへへへへっっくひぇへへへへへへへへへへへへへへへへへぇええええええええええええええぇっっ!! えっへぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっぎはぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!! ふぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」

 笑い声を通り越して悲痛な叫びを口から轟かせる初霜の手からリモコンが地面に滑り落ちたが、それでも止まることはない。むしろマジックハンドは増え続けていく一方だ。

「……ど、どういうことなんだ?」

 なにが起こっているんだ? どうして私ではなく初霜がマジックハンドに襲われているんだ? 操作していないのに増えているのも謎だし、先ほどのハードモードという言葉も一体……? まさかこの機械、壊れているのか暴走しているのか?

――すりすりすりすりすりすり……

「……くふぃっ!?」

 原因を探っていると、首筋の右側を何かになぞられ、私は思わず飛び跳ねそうになった。
 首をすぼめて目をやると、そこにはふさふさとした毛の付いた筆のようなものがあった。

「今度はこんなっっ、ひゃはっ!?」

 反対側の首筋にも同じ感覚。どうやらこちらにも筆が出現したようだ。

「くふぁっ! はひゃっ! ひゃっひゃあぁぁぁはっ!! 逃げられなっっんぁっはははふぁぁぁ!!」

 右の筆が動くと反射的にそちらに首をすぼめて刺激を抑えようとするも、そうしたら左の筆が首をなぞる。慌てて左を守ろうと顔を動かすとまた右首筋をなぞられて喘いでしまう。
 どちらに逃げてももう片方で待ち構えている刺客にいいように私は振り回され、むず痒さで背筋がぞくぞくする。

――さわさわさわさわさわさわさわさわ……

「ぁぁぁあああああああっふふふふぁぁぁぁぁっ!? あっひあぁぁぁぁああああああ!? やめっっやめぇへっへへへへへへへへへええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! やめろぉおおおおおおほっほほほほおおおおおおおおおおおおお!!」

 更なる追撃なのか、見ているだけでもくすぐったくなりそうなアタッチメントの付いたマジックハンドが素肌に群がった。そのアタッチメントはいわゆる柔らかい羽箒や刷毛の類。首をくすぐる筆同様、一糸まとわぬ上半身をなぞりにかかる。

――そわそわそわそわそわそわそわそわ……

「ぇぇぇぇぇえへへへっへへぇぇぇぇあふぇええっっへへへへははははははははははははふぁふぁふぁふぁふぁふぁぁぁぁぁぁぁ!! たすけえぇぇぇっへへへへへへへへへへへへへへぇぇぇぇ!! たすけてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! えふぇっふぁっはははははははぁぁぁぁぁんっ!! んふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 優しく撫でまわされるような、痒さとくすぐったさの両方で腰から上までを支配される。わき腹も腋も腰も腹部も二の腕も腕の付け根も、余すことなく全部だ。柔らかい羽先で胸やおへそも、執拗にさらさらと掠められて電流が走り、身を激しくよじる。それでも一切の抵抗にもならず私は悶絶するしかない。

「ああぁぁぁあがっがががぁぁぁぁっっ、げぇほっ! げほっごほっ、ほっほほほほほほほほほほほほほほほぉっ!! ほおおぉぉおほっごほぉごふぉぉぉぉぉおおおおおっほほほほほほほほほほほほほほ!! ほふぉっふぉっふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 口からあふれ出そうな唾をうっかり飲み込んでしまい咳き込むが、機械はそんなことは全くもって気にも留めてくれない。分泌される唾液が、口の中で鼻の方へと流れて痛い。が、そんな痛みも体を襲う者達が与える刺激に上書きされ無に帰される。

 いつまで続くんだ?
 死ぬまでか? いや、私たち艦娘は死ぬことがない。そういう風にできている。しかし裏を返せば、苦痛から逃れるための権利すら与えられないということだ。
 じゃあいつまでだ? 気絶するまでか? それとも狂ってしまうまでか?

――ブルッブルブルブルブルブルブルブルブルブルッ!!

「おっふふふぉほっほほほほほぅぐぐぅふっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? おぐっっ、ぐぎっぎぃぃいいいいいっぎぎいぎぎぎぎぎいぎいっぎぎぎぎぎぎぎ!? ぎぃぃぃぃいいいいいいいぁぁぁっっ!! なん、だっっこれはぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!?」

 股に固い何かが当たったような感触がしたと思ったら、それは突然振動し始めた! これまでとは一線を化す、未体験の部位・種類の刺激で脳がシェイクされる。酔いそうになるほどの苦しさの中に、正体不明の違う何かが昇ってきて変な気分になっていく!

「あがっががががががががががががががががっががががががががぁぁぁぁぁぁ!! がぁっぐぐぐぐぐぐうぅぅぅぅぅぅうううふぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 これはもはや訓練でも罰でもなんでもない、ただの拷問だ! 夢なら覚めてくれ! 本当は初霜にヘッドバッドを食らった後に見ている夢が、今のこの状況なのだろう!? そうなのだろう!?

「おっっ終われぇぇぇぇぇえええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!! はやくっっ止まってくれええぇぇえええっへへへへへへふぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇええええええ!! 死ぬうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!」

 しかし、津波どころか洪水のように押し寄せるこれらの感覚が夢ではないと思い知らせるように、私の神経をいじめ続ける。そこには微塵の配慮も優しさも躊躇いもない。これがこの機械の仕事なのだろう。

 初霜の話では、この機械もこの部屋も元々は敵軍の考えた物だったというからには、本来は私たち艦娘を捕えた時に使用するものだったのだろう。つまりこれまで何度も沈めてきた敵艦……もしかしたら海に沈んだ同志のなれの果てが産み出した怨念。それがこの装置の暴走を促したとでもいうのか? 

「だれかぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!! 誰かっっだれか来てくれぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!! お゛願゛い゛だ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」

 だがその真実を確かめるすべも無い。この拷問めいた全身への責めも、きっと終わることはない。私たちがいないことに気づいて探しに来る誰か、あるいは通りかかった誰かが声を耳にするまでは。


▽▽▽


 何度も気絶と覚醒を繰り返しながら助けを求めること数時間。たまたま通りかかった艦娘によって発見され、機械を止めた提督にこっぴどく叱られた後、初霜と若葉は自室に戻っていた。
 時間は深夜。ひたすらに笑わされ続けたことで全身に疲労が蓄積し、初霜はすぅすぅと寝息を立ててベッドで眠っていた。

「…………」

 一方で、二段ベッドの上段で布団にくるまっている若葉は、自身の身体に妙な違和感を抱き、それが気になって眠れずにいた。
 体は疲れているはずなのに何故。機械によって体をいいように弄ばれていた数時間前のことを若葉は思い返す。

「…………?」

 なんなのだ……この感覚は。ぶるっと全身が震えた若葉は思わず身を抱く。

「…………」

 ちょうど自分の手が腋の下に位置することに気づいた若葉は、試しに自分の体をくすぐってみた。

「…………違う」

 ぽつりと呟き、手を止めた。懲罰室で最初に腰を初霜に触れられた時にも満たない程度の、微弱な刺激しか訪れなかった。

(……違う?)

 まるでくすぐられることを望んでいるかのような言い方じゃないか。いや、そんなはずはない。あれだけ苦しい思いをしたのに自らそれを望むなど、まるで変態ではないか。でもこの胸のざわめきはなんなのだ。若葉は自分の中で自問自答し、言葉を浮かんでは消して浮かんでは消してを繰り返す。

「…………」

 数分ほど悩みに悩んだ結果、若葉はしこりのように残ったなにかを確かめるべく、体を起こした。
 目もすっかり冴えてしまい、はっきりしないことには眠れない、そう判断したためだ。

 下のベッドの初霜を起こさないように慎重に降り、音を立てずに若葉は部屋から姿を消した。

………………

…………

……

――さわさわさわさわさわさわさわさわさわ……

「くふっっくふううぅぅぅぅぅっ……! くふっふふふふふふふふふふふ……!」

 懲罰房。その部屋の中で服を脱いだ若葉は、多方向から伸びた羽箒型マジックハンドを体に這わせている。今度は万が一のことを考えてベッドには寝転ばず、扉に近い適当な壁に背中を預けてもたれかかり、刺激を一手に享受している。

「はぁうぅぅぅふふふふふふふふふふ……! ふふぅぅぅっふふぁぁぁぁぁふふふぅぅぅぅ……!」

 最初の数分は服を着た状態で、小さな手のマジックハンドや人間の手に似せたマジックハンドを呼び出して確かめてみたものの、若葉が求めているような刺激には何かが足りなかった。そのため、色々試していくうちに、満足のいく今の状態にたどり着いたのである。

(……くすぐったいぞ。だが……)

 もっとだ、もっと欲しい。もっと大きな刺激を。

――タイプE、スペシャル……

 若葉はリモコンを操作して、更に多くの羽箒と刷毛を壁から近づかせる。

「はぁっ……はぁぁぁ……! あふっ、あぁっっはっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁふ……!」

 羽は隠すものが何もない胸に触れ、まだ成長の兆しがあまり見られないわずかな膨らみを、円を描く動きでゆっくりとなぞり、時々その頂にも等しい小さな先端を走る。筆は太ももや内腿、そして首筋と耳をさらうように掠めている。

「ひゃうぅ……はひぅぅぅ……! うぅぅぅうあはぁぁっふぁぁぁぁぁ……!」

 優しくされるようなそれらに対して、若葉は悩ましげな吐息を漏らしながらも一切拒絶しない。腕をだらんと下ろして脱力し、上を向く彼女の目はどこかとろんとしており、口元はだらしなく半開きとなっている。

「あぁ……あぅぅううぅ……ぅひっひひぃぃあぁうぅぅぅぅぅ……!! ぐぅっっぅあっあああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 頬を伝う涎が首を通過する頃には若葉の秘部に、振動する物体が密着してより大きな声を出させ始めていた。
 そして若葉は思い出した。最初こそはこの酔いそうな振動と、筆・羽・刷毛によるむず痒さに頭の中が形容しがたい感情で埋め尽くされていたが、途中から違った感情を抱いていたことを。

(気持ち、いいぞ……!)

 いわゆる「そういうこと」に関する知識にはほとんど無知である若葉だったが、彼女は本能的にそう察知した。

「ああっ……!! はぁあぁぁぁぁ、ん……!! んっ、んああぁぁぁぁぁ……!! あぁぁぁぁふふっふふふふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 これこそが、若葉が無意識的ながら求めていたものであった。何度も気絶と覚醒を繰り返していた際にも、同じように途中から快感を自覚し始めていた。中断で一度は封印された感情が、今解除されたことでその正体が明らかになり、彼女の体と心は受け入れる態勢に入る。口以外の箇所からも体液が漏れ出てきていた。

(これも……悪く、ない……!)

 いつか訪れるであろう快感の絶頂の再来に胸を躍らせながら、若葉はリモコンを地面に落とした。 



~~~~~
あとがき
艦これくすぐりSSの三つめです。
文字数がかなり多くなってしまいました。ですが、今までで一番に愛を込めて書いていた作品だと思います。これまでがf/f題材であったためx/f要素にも挑戦してみようとしてみました。

実を言いますと、私が一番最初に惚れた艦娘が初霜でして。特に声が耳から離れないほどの衝撃に見舞われました。その流れで同じ初春型も好きになっていきました。
今でこそ改ニや時期ボイス、そして二次創作イラストが多数存在しておりますが、書いていた当時はイラストも少なかったし小説も言わずもがなです。
史実でものすごく頑張っていた彼女の魅力を知ってもらいたいという一心で愛のままに書き連ねましたが……なぜか若葉視点のお話にw
解読不能なモールス信号って絶対セクハラされての発言でしょ! そしてM疑惑もあるもんだからこういった結末に。最後だけ三人称視点で書いてしまったのはちょっとインチキくさかったかなー……
こちらも多大な評価を得られ、嬉しい限りでした。私の作品で彼女らに目を向けていただけたら嬉しいです。