フェアリーフェンサーエフより、エフォール・果林のくすぐり小説です。

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「殺殺殺……殺、殺殺殺殺殺……」

 差し込む日光も木々によって遮られてしまう、薄暗い森の中。折り畳んだウサギの耳を模した形のフードがついたショートコートを羽織っている眼帯の少女が、丈の短いプリーツキュロットスカートから伸びる、二―ハイソックスに包まれた細い足を止めてポツリと呟いた。
 十代後半な彼女の細い右手には、不釣り合いなほど大きくそして物騒な三日月形の大鎌が握られており、それを杖代わりにして体を支えている。隠されていない赤い瞳は、目に見える景色に対して何の興味を寄せておらず、ただ視覚を司るだけの存在として前を向いていた。

「疲れた。もう歩きたくない。エフォールはそう申しているのですね?」

 眼帯の少女――エフォールの隣で同じく足を止めたのは、そのパートナー妖聖である果林だ。腰ほどまでに白い長髪を伸ばし、青い着物の上に白い割烹着を着ている彼女の頭部には狐のような大きな耳が生えていた。前髪に隠れがちな青い瞳は柔和で、彼女のややのんびりとした性格と非常にマッチしている。

「ですが、このティクルの森を抜ければ、ロボットダンスコンテスト会場のある村はもうすぐです。開催が明日とはいえ、休憩をとっていては夜になってしまいます。ですから、もうちょっとだけ頑張って歩きましょう」

 エフォールと同じく疲れが表情に出ているものの、果林はいわゆる人間とは違う。妖聖という存在である。女神と邪神がお互いを封印せんと争っていた太古の時代に、女神側の武器として飛び交っていたフューリーの一つ、すなわちエフォールの持つ大鎌。それに宿っているのが妖聖の果林だ。
 彼女のような妖聖のサポートを受けつつフューリーを用いて戦う者はフェンサーと呼ばれており、世界各所に散らばった全てを集めると何でも願いが叶う、という伝承を元にフューリー集めをしている者が多い。だがエフォールはそんなフェンサー達とは違い、願いに対しては全く関心を持っていなかった。

「殺、殺殺殺殺殺」
「別に今夜も野宿で構わないし、ぶっちゃけ面倒だから出場したくない……? エフォール、それはいけませんよ!」

 何年もの付き合いの長さから、口癖である「殺」の言葉だけで彼女が何を言いたいのかが手に取るようにわかる果林は、諌めるようにして叫んだ。

「いいですか? 私たちはこの森に入ってもう二日目にさしかかっているのですよ? そう、二日ですよ! 二日! 川で水浴びこそはしましたが、普通の女の子というものは、暖かいお風呂に毎日最低二回……いえ、三回でも四回でも入って、お肌に優しい石鹸を使って体を清潔に保たなければいけないものなのです! かのミナモトさんの家ではいつもそうだという言い伝えがあってですね……」

 くどくどくどくど、と言葉を続けて風呂のもたらす効果や女の子としての基本事項について述べる果林は、彼女の耳とエフォールのウサギフードと相まって、まるでお姉さんのようにも見える。

「私はエフォールに、普通の女の子らしい普通の物事にもっと興味を持って欲しいんです。エフォールは若くて可愛いんですから、多少踊りの技術が拙くてもきっと優勝を狙えるはずです。ほら、私が用意したそのうさ耳フードも可愛くて、審査員が私なら思わず満点にしちゃいたいくらいです! やっぱり女の子にはケモ耳が一番です!」

 果林の提唱する普通の女の子像は世間一般の常識とは若干ズレがあるのだが、それを指摘できる人物はここにはいない。そして、そんなことに無頓着・無関心であるエフォールも尚更のことであった。

「それに……優勝をすればエフォールの中で何かが変わるかもしれません。だからダンス大会に出ることは女の子らしさを磨くために重要なのであって……って、どうしました?」

 先ほどから馬耳東風とばかりに、果林の反対方向を向いているエフォールは、木々が所狭しと並ぶ茂みを見つめていた。慌てて声のボリュームを落とした果林も同じ方向に目をやる。

 静寂に包まれたこの場に吹いた一迅の風が、茂みを少しだけ揺らした。

「……殺」
「……待ち伏せたぁ上等だ、こそこそしやがって、どこの誰だか知らないが死にてぇのなら望み通り殺してやんよ……ですか。なるほど、この先に敵がいる。そう申しているのですね?」

 翻訳部分だけ意図的に作り声を発する果林に対して、エフォールはこくりと首を縦に振り、大鎌を大弓に変形させ両手に持って構えた。彼女は茂みの向こうから大きな殺気のようなものを感じたのだ。

「殺し合いなんて女の子らしくないこと、本当はして欲しくないのですが……仕方がありませんね」

 エフォールは幼い頃に、孤児をフェンサーとして養成しては大手企業や国家に売り飛ばす組織によって、戦闘技術や殺すための手法を徹底的に叩き込まれていた。更に、非人道的な実験や苦痛を、何年も繰り返し与えられたことで彼女の闘争本能は肥大化させられ、殺す・殺されること以外への関心を一切失わされている。原因不明の火災で組織が壊滅して自由になった今でもそれは変わらない。それゆえ彼女はフューリー集めどころか、食事や身だしなみや会話などといった年相応の少女が奔走するであろう物事にも一切興味を持たず、フェンサーやモンスターを襲うのみで、「殺したい、殺したい」という感情の発露として口癖の「殺」があった。

 その闘争本能によるものかエフォールは、殺しがいのある存在の気配に思わず口角を小さく上げた。

「……フェアライズ」

 エフォールが初めて「殺」以外の言葉を発すると、それに応えて空へ掲げた弓状のフューリーから光の矢が発射された。空中でUターンした矢がエフォールの腹部を貫くと、彼女の体が光に包まれ、憑依した果林の魂と一体化し、二人の意識が溶けて混じり合った。

「フェアライズ、シーケンス、コンプリート」

 まばゆさが消え姿を現したのは、右肩近くにキャノン砲が搭載された大きな機械の翼を鎧として纏う、妖聖の力で戦闘力が増したフューリーフォームのエフォールだった。

「さて……どうしますかエフォール?」

 エフォールの脳に直接声を響かせ、指示を仰ぐ果林。

「……必殺、滅殺、劇殺!」
「わかりました。では、バンカー射出!」

 全身全霊を込めて殺す、というエフォールの意思を汲み取った果林は、脚部の鎧からパイルバンカーを地面に打ち付け、これから行う攻撃の準備にかかる。

「固定完了! チャージ!」

 右肩のキャノン砲に粒子状のエネルギーが充てんされ始める。

「リミットアタック、スーパノヴァ! どうぞ!」

果林が叫ぶと、極めて高い殺傷能力を持った極太の破壊光線が、敵がいるであろう方向へと一直線に放出された!

――ズゴォォォォォォォォォォンンッッ!!

 数秒間の轟音が森の中を支配し、森の木の多くが消し飛んだ。

「………………」

 光線の軌道上にあった木々や茂みはまるで元から一本の道であったかのように削り取られ、ほとんど何も残らなかった。

「……やりましたか?」

 大きなエネルギーが衝突したことで、辺りは静寂と共にもくもくとした煙が広がり出していて視界が確保できず、その先の敵の所在を確認するように果林は言葉を発した。
 何度もモンスターやフェンサーを消し炭にしてきたこの技で、これまで立っていた者は一人もいなかった。その例に漏れず、今回もそうに違いない。果林は思っていたが、

――シュルルルルルッ!

「……なっ!?」
「……殺!?」

 しなるような音を立てて何かがエフォールの両腕に向かって伸びてきた。

 キャノン砲の反動から体を支えるために足を開いてバンカーで固定したままであったため動くことができず、油断していた果林との意識のシンクロにより反応が遅れたこともあり、普段ならば避けられたはずのそれらが巻きつき、大の字を描くように立ったままエフォールは体を満足に動かせなくなった。

「殺……! 殺、殺殺殺殺殺殺……!」

 ぐいぐいと腕を引っ張って、巻きついた何かを引きちぎろうと試みるエフォール。彼女の目に映る紐状のそれは、植物のツルと形容するのがふさわしい物体であった。

「エフォール! あれを!」

 果林の指摘を受けて顔を上げると、

「さ、殺……?」

 視線の先には、破壊光線を受けていたにも関わらず大きな存在感を主張している敵がいた。その正体は、見たことのない奇妙な大樹であった。

「あれは……モンスター、なのでしょうか?」

 春の象徴として祀り上げられる綺麗な桜が咲いている、かと思えばそのすぐ隣には秋に見られる鮮やかな紅葉が大樹を彩っていた。また、各所にはミカンやバナナや桃といった何種類もの美味しそうなフルーツがなっている。

「殺殺」

 そして何よりも彼女らの目を引いたのが、まるでハエトリグサよろしく食肉植物が埋め込まれているように、大きい口が閉じたり開いたりを緩慢に繰り返して、大樹のど真ん中で獲物の到来を待ち構えていたことだ。まるで数ある植物という植物を配合してできたキマイラのような存在に、果林は不気味なものを感じた。

「気持ち悪い。それには私も同意です。が、とにかく抜け出さないと、このままではあれに食べられてしまいかねません!」

 背中のジェット噴出装置の力を使えば抜け出すこともすぐに叶っただろう。しかし先ほどの攻撃で魔力を多く消費していたため自然回復には時間がかかり、機能が沈黙してしまっている。放熱が完了していないこともあってキャノン砲も同じく動かない。

「殺っ! 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺っ!」

 そのため、両腕が動かせず武器を振るうことのできないエフォールにできる抵抗は、引きずり込まれないよう足をバンカーで固定しつつ、フューリーフォームによって向上した身体能力をフルに発揮してツルを引きちぎるしかなかった。

「頑張ってください、エフォール! 私も引っ張りますから!」

 ほんの僅かに引っ張られて土を削るが、お互い一歩も譲らない綱引きがしばらく繰り広げられている。

「殺……?」

 そんな中でボコッという音を立ててエフォールの足元の地面から、今度は葉が付いた枝が一本生えてきた。

「これは……?」

 ゆっくりと足に近づいてくるその枝は、腕を拘束しているツルよりも細くて頼りなく、伸縮性に富んでいるようにも思えない。強いて特徴を挙げるなら、葉が多いくらいで何の変哲もないただの枝にしか見えない。こんなものをひとつ生やして何の意味が、と二人が疑問を浮かべたその瞬間、

――こしょこしょこしょこしょ……

「んっ!?」
「ゃひぃっ!?」

 枝を揺らして柔らかな葉が、短いスカートと二―ハイソックスの間で露出する素肌を優しく撫でた。予想だにしなかった種類の刺激に、エフォールは吐息を漏らし、彼女と感覚を共有している果林は思わず素っ頓狂な声を上げた。

「ひ……ひひゃあっ! あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああふっ……! ふっっ、ふふふふふふふふふふふふふ……ふぁ、なっ、なんなんですかこれはぁ!?」

 一瞬力が抜け、エフォールの体は数センチ大樹に近づく形となった。慌てて力を込め直すと止まったが、枝はエフォールの右太もも辺りを追尾して離れず、葉をサワサワと這わせ続けている。再び地面からの小さな音を耳にすると、もう一本の枝が現れ、同じように左太ももを刺激し始める。

「さ、殺……! っっ……! さ、つ……ぅ、うぅ……さ、殺ぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 普段から表情を変えることも慌てることもあまりないエフォール。今の彼女はまだ笑い出してはいないものの、味わったことのない種類の刺激に動揺を隠せず、眉を曇らせてやや苦しそうに歯を食いしばっている。肌を襲う刺激と、果林から伝わる「くすぐったい」という感情との両方が彼女の脳に伝わる。

「さ、っあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……! ああああっくくくくくくくくくぅ……! く、くくぅ……ううううぁぁぁぁぁぁ、さ、さつっ……! 殺っ……! 殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 エフォールの痛覚や苦痛に対する耐性は、組織の実験やこれまで何度も行ってきた殺し合いによって、並のフェンサーをはるかに凌駕するものがあった。しかし、その経験を持ってしてもくすぐりによる刺激を抑え込むのは難しかった。それでも彼女はなんとか正気を保ててはいるものの、

「ふくっ、くっ……くぅぅぅううう……! ふ、ふふふふふふ……ふっふふふふふふふふふふぁぁぁぁぁぁぁぁ! ああっっああぁぁぁぁぁぁぁぁ! ああああああああああああっ、はっははははははははははははははははははははははははははっ!」

 果林は両太ももに伝わる刺激に耐えきれず、一分と待たずに大きな声で笑い出してしまった。果林の笑い声がエフォールの頭の中で反響する。その声はたちまち外にまで溢れ出した。

 両手も両足も動かせないため、枝を払うこともできない。バンカーを収めるかフューリーフォームを解くかをすれば足は自由となり枝からは逃れられるだろうが、そうなると踏ん張る術を失った体をたちまち持っていかれてしまうに違いない。そのためエフォールは離れてくれそうもない二本の枝葉の攻撃に耐えながら、なんとか突破口を見つけなければならなかった。

「さつうううぅぅぅぅううううううううう……! うううううぅぅぅぅぅぅ……ぅぅぅぅぅぅんんんんっ!? んくっっ……く、くぅぅぅぅぅうああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!! ぁぁぁぁあああああふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」

 スカート内部に深く潜り込んだ枝は太ももに沿って何度も葉を擦りつけながら、体の上の方へともぞもぞと昇り始め、スカートと肌のわずかな隙間を抜けて、腰の高さほどにまで伸びた。まるで鋸のように断続的なくすぐったい刺激を送り込んで、エフォールを笑わせんとばかりに枝は葉を揺らしている。葉が一枚ずつ上部に進行する度、肌と反対側の葉がスカートに引っ掛かり、ひらひらとはためいて隠れた部分が少し露わになるが、そんなことを気にしていられる余裕はエフォールにも果林にもなかった。

「っっ~~~~~~!?」

 ボコ、ボコ、と更に真下から枝が姿を現した。ただし今度は一本ずつではなく、一挙に四本が伸びてきて、内腿に葉っぱを掠めながら同じように上昇する。
 合わせて六本の枝が体に群がったことで声にならない声を上げ、エフォールの体から力が大きく抜けた。ショートコートの下には、胸を最低限の面積で隠すインナーしか着ていないため、彼女はすべすべとした白いお腹を常に外気に晒してしまっている。
 もちろんそれを見逃してもらえるはずもなく、外側の二本は両太ももから両腋の窪みまで全てに、内側の四本のうち内腿をさわさわ刺激しながら昇って二本はわき腹に、残りはおへそに葉を添えて、先ほどまでよりも激しく枝を揺らしてくすぐり始めた。

「きひっ!? きひっ、ひぃぃいっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ……!! ひ、ひひひひひひひひひひひひ……さぁぁぁぁあぅぅぅぅうふふふふふふふふふふふっ……!! さふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううぅぅぅつつつつつぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっっ、はっ、はひゃひゃっ!? ひゃ、ふっっ、ふぅぅぅぅぅううううんんんんんんんぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」

 腋をくすぐる葉を払いのけようと力を込めて肘を体側に寄せようと動かすが、拘束が強く力も入らず、なかなか上手くいかない。胴体を揺らして、内腿を経由した枝葉の攻撃を避けようとするも、こちらも徒労に終わってしまう。腰をくの字に曲げるとエフォールの可愛らしいおへそが形を変え、ほじくるように葉はその中へと入り込もうと動いて刺激を送り込んだ。お尻やスカートを揺らして小さなダンスを踊らされている彼女は、ほんの一瞬のことであったが口から笑い声をこぼしてしまった。

「はぁぁぁぁぁぁあああああああああっははははははははははははははははははは!! ははははっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……そっっそんなとこっっ……!! こちょこちょしないでくださひっひひひひひひひひひひひひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 エフォールと違って肌が隠れるような服を着ているにも関わらず、それをすり抜けて直接素肌と脳に伝わってくる刺激への対抗手段は無く、果林はただただ悶絶するしかなかった。

「もっっもうげんかぁぁぁあはっはははははははははははははははははははははははははは!!」

 果林の叫びと同時に、エフォールは彼女との精神のシンクロが段々と薄くなってきていることに気が付いた。全身を蝕む刺激から逃れたいあまり、無意識的に感覚の共有から外れるべくフューリーフォームを解こうとしてしまっている。

「っああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! さ、さぁああああぁぁぁふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! ふぐっ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! うううっうううううううぅぅぅぅぅぅ……さっっ殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 くすぐったさで自然と内股になって膝をがくがく震えさせつつも、エフォールは意識の繋がりを繋ぎ止めようと必死にもがく。気をしっかり持って、という意味を込めて叫び続ける。

「っっ!?」

 だが内股になってしまったことで、位置にズレが生じて内腿に沿っていた葉が一瞬秘所に触れた。

「ヒッ!? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その刺激に果林は悲鳴を上げ、とうとうフューリーフォームを維持できなくなり、元のヒト型に戻ってしまった。彼女の肉体はエフォールの傍らにはじき出される。それに伴って鎧が消失し、足場を固めていたバンカーも無くなった。

「あ、あぁ……あは……は……はぁ……はぁ……」

 息も絶え絶えになって、果林は仰向けに倒れた状態で呼吸を開始する。

「殺!?」

 支えるものが無くなったため、エフォールの体が引っ張り上げられ宙に浮いた!

「あ……エフォール!?」

 エフォールはまるで高く掲げられた赤子のような状態になっていた。

 慌てて立ちあがった果林がどれだけが手を伸ばしても届かない高さに到達し、先ほどまでエフォールの体に群がっていた枝もその急上昇にはついていけなかった。

「ま、待って! エフォール! エフォール! え……きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 生身となった果林の存在を見逃さなかった大樹はツルを伸ばし、果林の体をぐるぐる巻きにして縛り同じように引き上げた。そして二人ともすぐさま大樹の元に寄せられてしまう。

「殺っ! 殺っ!」

 エフォールが足をばたつかせて暴れてもこれといった抵抗にはならず、

「殺っ! さ……」

 その体は食肉植物状の大きな口に、あっさりと飲み込まれてしまった。

 数秒経っても、エフォールが口の中から姿を現すことはなかった。

「あ……ああ……!」

 その一部始終から目を離すことのできなかった果林は、これから自分も飲み込まれてしまうとことへの恐怖を感じるより先に、己の無力さで後悔の念が募った。

「わ、私は……! 私は、なんてことを……!」

 自分のせいで、妹のように可愛がっていたエフォールがモンスターに食べられてしまった。自分がもっと意識をしっかり保っていれば、こんなことにはならなかったのに。そういった後悔が彼女の中でぐるぐると渦巻く。

「ごめんなさい……ごめんなさい……エフォール……」

 謝り続ける果林。攻撃の手段を持たない妖聖である彼女も、エフォールと同じように飲み込まれてしまった。

 地面から伸びていた植物が土の中に戻ると、森の中には誰もいなくなり静寂に包まれた。


△△△


 二人が大樹の中に取り込まれてからしばらくして。

「んぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? あぁっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! み、みみは!! 耳を弄るのだけはっっ、ひゃあああああああああああああああああっ!!」

 全身をツルに巻かれ、ミノムシのように肩から足首まで簀巻きにされて空中で吊るされ、身動きのとれない果林。そんな彼女が動けないのをいいことに、伸びてきた猫じゃらし状の植物がふさふさとした毛を狐耳の中に差し込んで、まるで掃除をするかのように動き回っている。

「あっひゃあああああああああああああああああっ!! や、やめっ! やめてっ! そこはよわっひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 頭を振り回して果林は刺激から逃れようとする。大きな蒼い耳飾りも激しく揺れた。だがそんなささやかな頑張りをあざ笑うかのように、猫じゃらしは耳を追いかける。

「あ、あぁぁぁぁぁぁああふ……ふひゃっ!? ひゃっ、ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! ぃや、いやっ!! ぃやひゃっ!! いやですっ!! そんなのずるいですってっっへぇひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 耳をピコピコと動かして、中に入った猫じゃらしを追い出すことを試みた。しかし追い出したのもつかの間。すぐさま回り込んだ猫じゃらしに耳の裏側をくすぐられると、果林は激しくのけ反った。その隙を狙って穴の中に猫じゃらしが再び殺到すると、彼女の声のボリュームがひと際大きくなり、全身がびくびくと何度も跳ねた。

「……ぅ」

 果林の絶叫が目覚ましとなったのか、放り込まれた際に内壁で頭を打って気絶していたエフォールの意識が覚醒し始めた。

「たすぁひゃひゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁははははははははははははははははははははっ!! はぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!! たすけてっ! たすけてくださいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「っ! 果林!?」

 声が聞こえた方向に目を向けると、群がる植物に耳を蹂躙されて髪を振り乱しているパートナーの惨状に、エフォールは思わず目を見開いて名前を叫んだ。

「くっ……果林っ! 果林っ!」

 助けなければ、と体を動かそうとする。が、動けない。壁から伸びたツルが巻き付き、自身が空中でX字を描くようにピンと伸ばされて四肢を拘束されていることに、彼女は首を動かすことで気がついた。すぐには何かをされる気配はまだ無いものの、このまま何事もなく終わるという可能性はどう考えても無さそうだった。そのため彼女はフューリーが握られていないこともあってツルを斬り裂くこともできず、果林の身を案じて叫ぶことしかできない。

「ふぁあああああああああっ!! ふっふふふふふふぁぁぁぁああああっん!! はぁぁぁぁぁぁあああああっははははははははははははははははははははははははは!! っんんんんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 しかし果林は果林で、くすぐったさでそれどころではなく、エフォールの声が耳に届いてすらいなかった。

 エフォールが呼びかけ続ける一方で、両手を体の横に揃えて起立の姿勢を取らされている今の果林が出来ることは、耳に群がる猫じゃらしを振りほどくために頭を左右に振るか、握りこぶしを作って全身に力を込めるか、足の指を細かく動かしてくすぐったさを少しでも誤魔化すしかなかった。

「は、はひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? ひっひいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!! いぃぃぃいぃぃぃっ、いいいいぃぃぃいやひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはっははぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 だが、最後の行動がいけなかった。くすぐったさに耐えていた果林の拇指と第二指で挟まれていた草履がとうとう外れ、足袋に包まれた彼女の足の裏が露わになったのだ。

「ひっひひひひひふあぁふふふふふふふふふふふふふっ!! あしっっ足もくすぐるなんってぇぇぇぇえええええぁあああああっはははははははははははははははははははははっ!!」

 それに気付いてももう遅く、待ってましたと言わんばかりに二本の木の根がそこへ近づいて、こちょこちょと指先でなぞるように、時には軽くひっかくように動き回った。

「はっきゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!? あっ、足に一体なにをかけっひゃひゃひひひひぃっ!!」

 そして足の裏をくすぐる二本に加勢するように、生暖かくぬるぬるとした液体を含んだ根も数本、彼女の足に群がる。

 しかし、こちらは他のものと違った性質を持っていた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? はっっはぁぁぁぁあああああああっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!?」

 その性質は皮膚を傷つけない程度の酸性。粘液を塗りこまれたことで白い足袋が溶けて、徐々に彼女の素足が見え出し始めたのだ。

「こ、こへぃひょうふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! これいひょうふされひゃらわたっひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 雪のように白くきめ細かい彼女の足は、先を丸めた際にできた皺を二本の根に軽く引っかくようにくすぐられ、粘液を含んだ根に土踏まずなどを汚される。たかが足袋、されど足袋。布一枚分の防御が無くなっただけで、果林の反応の大きさは一層高まった。

「あひっっ!? ひ、ひひひひひひひひひひいぃぃぃああああっはははははははははははははははははははは!! はぁぁぁぁぁあああああしがっ! しゃっきよりっ、さっきよりくしゅぎゅったひひっいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 彼女の反応が高まったのはそれだけが原因ではなかった。先ほど足袋を溶かしたものと違った種類の粘液が分泌され、現在は足の裏全体に広げるように塗られている。これが肌の滑りを良くすると同時に、皮下に浸透して皮膚の神経を過敏にしていた。

「だめぇぇぇぇぇぇぇ!! しょんなうぎょきさへたりゃっっ!! きゅすぐったくて死にゅっひゃあああああああああああああああっ!!」

 粘液まみれの土踏まずを、根は何度も何度も横断して責め立て続ける。細かく振動させるように動いたかと思えば、時々先を固定したまま動いて刺激を送り込む。
 こうなると、もう果林の頭の中は正常な思考ができなくなっていき、彼女はろれつも回らなくなっていく。

「ああああああああああああああぁぁ!! あふぃふぁぁぁっぷひゃはははははっはははははははははははははは!! あっあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 足の裏に意識を向けさせられている中で、ぽた、ぽた、と頭に何かが垂れてきている感覚。顔を上げそれが足の裏を過敏にしていた粘液と同じものだと気付くと、果林は更なる不安を募らせた。

――ただでさえ敏感な耳にあんなものを塗られたら……!!

 猫じゃらしに好き放題されている耳の方へと、徐々に粘液を垂らす根が斜め上から近づいてくる。その恐怖に果林は慌てふためいて身を震わせる。

「きゃっ、きゃけなひでぇぇぇぇぇぇぇぇ!! おにぇがひだからっっ!! しょこだけはひょんとにだみぇだめだめだめだめだぇえっへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 拒否するように頭を振っても動かせる範囲はたかが知れていた。あえなく両耳も粘液まみれにされ、それが耳全体に浸透すると感度が数倍に高まった。そして再度中に入った猫じゃらしが耳の毛と自身の毛を絡み合わせると、その瞬間に果林の全身に電流が走った。

「あっぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!? あっ!! ああああああっ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ぐっあぁああああああああああああああああああああっ!! あぐっふぁぁああああああぁぁぁぁあぎゃっぎゃぎゃぎゃがぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあっ!!」

 喉が張り裂けそうなほどに大きな声で叫ぶ果林は、目じりに浮かんだ涙をまき散らし、閉じようと思っても閉じることのできない口元から涎をこぼし続ける。それらは足元にある花々に降り注がれていた。

「ぎょみぇんなさひっひひひひひひひいひぃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁはっははははははははははははははははははぁぁぁ!! あひゃまひゅかふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! きょうげひしひゃきょとひゃあふぁまひまふかふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ひゃやまりますかりゃあああああああああああああああああああ!!」

 果林が言葉にならない言葉で謝罪をするが、植物たちは責める動きを止める気配はない。むしろ、更なる反応を引き出そうと動きを速め、群がる数も増えていく。その度に果林の中の電流は刺々しく変化し、より大きなものへと増幅されてていく。

「もうやへふぇぇえっへへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! みひもあひもこわれひゃいまひゅからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ほきゃしきゅなふっふふふふふふふふふふふっっおかしくなっふふふふふふぁぁぁぁぁぁあああああふふぁはっひゃひゃひゃひゃははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 笑い、咳き込み、唾液をまき散らす。意識が飛びかけてはくすぐったさで強制的に覚醒させられ、果林は一秒たりとも休ませてもらえず、思うように呼吸のできない。彼女は妖聖といえど、酸素を得られなければ人間同様に苦しさを味わう。

「くっ……殺、殺殺殺殺っ……! 果林を、果林を放して……!」

 そんな果林の姿を見るに耐えられず、エフォールは植物に対する殺意を大きくしながらも、果林を助けて欲しい旨を植物に訴える。

「いい加減果林を……ひぃぃぃんんっ!?」

 果林の方向を向いていたため、エフォールは露出した背中を舐められたような感覚に不意打ちのように襲われて、思わず目を見開いた。

「かふっ!? ふひっ、ひひひひひひひ……ひひひひひぃぃぃいふふふふふうぅぅぅ……!」

 用紙に見立ててまるで文字を描くかのように、エフォールの背中を何かが責め立てている。

「ふふぁぁぁぁぁ……! さふっさひゅっふふふふふふふふふふふぅぅうんん……!」

 続いて現れたものが、コートの前が空いていることから無防備な腋とわき腹を上下し、お腹をくるくると回るようになぞり出した。身じろぎする彼女の目に映ったのはまるで筆のように細かくふさふさとしたひげ根を持った植物であった。

「んんっ! んっ、んふっ! ふっふふぅぅぅ……ぅぅぅふぁっあふふぁぁぁ……!」

 優しく撫でられ、ぞわぞわする微弱な刺激にエフォールは小さく笑い声を上げそうになるが、なんとか食いしばって耐える。

 お腹をくすぐっていた植物がスカートを経由して降りると、右太ももから膝そしてすねの順番にサワサワとひげ根を沿わせ始める。その動きはまるでホウキのようだ。表側を掃除し終えると、今度は裏側や内側を同じ動きで這い続ける。

「くっ……くっふふふぅぅぅ……うあぁあうぅふ! ふっん……んっんんんんんんんんぅ……!」

 右脚の後に左脚、時々スカートの中で太ももやお尻にもひげ根でなぞられるエフォール。いいように体で動きまわられ不快感を露わにしている彼女が腰をわずかに揺らしても、植物にとっては大した妨げにはなっていないようで、そんなことはお構いなしとでも言わんばかりにくすぐり続ける。

「ふ、ふぁぁぁぁぁぁぁんんっ!?」

 腕や脚の付け根を刺激されると一瞬彼女は体を跳ねさせ、はっきりとした高い声を漏らした。その声は普段の感情を殺したようなものでも苦しそうに耐えるものではなく、年頃の少女らしい可愛らしいものであった。

「ひゃっふ……ふぁんっ! んっ、んくっふぅぅぅぅぅ……! ふぁふっっうぅぅぐぐぐぐぐぅぅぅ……!」

 植物が全身を舐めまわすように往復して駆け巡っているため、何度かその声を上げそうになるエフォール。タイミングを見計らったように動かれて翻弄され、呼吸が思ったようにいかない。

「はぁ……はぁ……」

 だがしばらくすると、伸びるひげ根を筆のように使ってなぞっていた植物が、どういうわけか次第に離れていった。

「……終わった?」

 その意図が読み取れないまま、ひとまず息を吸い込むがエフォールは疑問を頭に浮かべた。

 そもそもどうしてこいつはくすぐってくるのだ。食べるつもりなら一思いに飲み込んでしまえばいい。それなのに何故。と、エフォールは頭の中で思考をぐるぐると渦巻かせるが、答えは出てこなかった。

 何にせよ自分をくすぐっていたものが止まったのならあっちも……と、果林の方を見やるが、そちらは一向に止まる気配を見せず、彼女から苦しそうな笑い声を引き出し続けていた。そのため、エフォールはどうして自分だけが助かったのかがわからなかった。

「っっ!?」

 しかしその直後、何も触れられていないにも関わらず、これまでと違った感覚に全身が支配された。

「っくぅうううう!? ううっ! うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……ぐぅううううううううっ……!? かあっうぁぁぁぁぁ……! かゆいぃぃぃぃぃっ……! かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 その感覚の正体は猛烈な痒み。先ほどまで触れていた根はいわゆる山芋に近い性質を持っており、それを肌に擦りつけられたことで、含まれている成分が痒さを誘発したのだ。衝動的に肌を掻こうとしてエフォールは手首を動かすが拘束は固い。

「かゆいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! かゆいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! うぎっ……うぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ……うううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 傷がついてもいいから腋を、わき腹を、お腹を、背中を、思い切り掻きむしりたい。手首が落ちても血が出てもいいから手を動かして掻きたい。むずむずする全身に歯がゆい思いを抱えて顔を苦悶に歪めながら、なんとかしてツルを外そうと猛る野獣のように激しく暴れる。

「おねがいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! かゆいからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あっ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……!! かかせてっ!! 掻かせてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 彼女は決して、「殺」以外の言葉を話せないわけではない。言いたい意味は果林が読み取ってくれていたし、赤の他人と会話をするような場面もほとんどなかった。そして何より、これまでの彼女には殺したい欲が思考の第一を占めていた。だが、果林のことや全く動けないこの状況そして痒みがあり、彼女の中では殺したいという感情は無意識的に優先順位が下がっていた。

「あっ!」

 そんなエフォールの願いが届いたのか、四肢の拘束は外してはくれないが、見覚えのある葉の付いた枝が姿を現した。

 枝の先端はまるで人間の指先のように、彼女の目には映った。自分の痒みを解消してくれるような、そんな形に。

「はやくっはやくはやくはやくはやくはやくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! ぅぅぅぅぅぅぅぅうううううあああああああああああっ……!! はやくしてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そのため、これまでくすぐられて嫌がっていたにも関わらず、今のエフォールは植物に触れられることを心から望んで叫んでいた。もどかしさで頭を振って、もじもじと身を振って。

「くぅぅぅうううぁぁぁぁぁぁぁぁ……!? ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……! なんで、なんでなんでなんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 焦らすようにゆっくりと進行する枝。それはエフォールの素肌に触れるか触れないか……いや触れることなく目の前で止まった。

「とまらないでっっ止まらないで!! きてっっきてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 やっと楽になれると希望を抱いたのもつかの間、どんなに叫んでもこれ以上枝は近づいてくれそうもなく、彼女の表情は絶望の色に染まった。

「ああっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! かぁぁぁぁぁぁっっ、かゆいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! かりんんんんんんんんんんんんん!! おねがいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! かゆいかゆいかゆいかゆいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 果林にっ掻かせてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 そのためエフォールは強く助けを求めて喉から声を張り上げる。

 エフォールの苦しみ喘ぐような声は、これまでずっと一緒に育ってきた大切な存在と、自分を苦しめている存在の両者へと、縋るような形で向けられた。

「うぎっぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……!! かりんだけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……かりんにだけ触れないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! こっちにもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! こっちにもっっさわってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 いつまでたっても痒みが収まらず、額から脂汗を流しながら何かが触れることを求め続けているエフォール。彼女の目には耳と足裏を犯され続けている果林に対して、どこか羨ましそうな色が浮かんでいた。

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!! うううぐぐぐぐぐぐぐぅああああああ……あぁぁぁぁぁぁあひゃんっ!?」

 しばらくすると、エフォールの体に何かが触れた。しかし……

「ぴゃひっ! ひっ、ひひひひひひひぁぁああっははははははははははははははは!! ちがっちがっひゃふっ! そうじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃ!! それじゃないいいぃぃいいっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」

 触れたのはふさふさとしたひげ根を持った植物達。エフォールの体に痒みを擦りつけていたそれらが、再度同じ要領でエフォールの全身に群がったのだ。望んでいた刺激と違ったことで、エフォールは笑い声を上げながら非難を飛ばす。

「きひっひゃひゃひひひひひひひぃ……!! っ!? ぎ、ぎぎぎぎいいぃいぃぃぃいいぃぃぃぃぃっ!! かゆひっひひひひひぃぃぃぃいあっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃああぁぁぁぁぁぁぁ!! さっきよりかゆひゅてくすぐったひっひひひひひひひひひひひひひひぃ!! ぃぎぁぁあぁぁぁぁぁはっっ、はふぃぃぃんぎぎっぎぎぎぎぎぃぃぃいぃいっひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ひげ根はまるで柔らかいブラシだ。これに触れられても痒さはほとんど解消されることなく、くすぐったい刺激を送り込まれ続ける。二種類の刺激を送り込まれながら同時に擦りこまれる成分によって、彼女の中で痒みが更に増強される。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!! っっ!! っっっっあっ……がっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! くぅぅぅぅぅあぐぅぅああああああああああああああっ……!! ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 痒み成分を刷り込み終えて植物が離れると、くすぐったさが無くなったもののエフォールは痒さにのみ集中させられてしまう。それによって一層の痒さを意識せざるを得なくなりまた苦悶する。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あぐっぐぎぎぎぎぎぎぎいぃぃいぁぁぁぁぁぁ……殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! さづさづさづさづさづさづさづざづざづざづぅ!! ざづぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! ざぁぁぁぁぁづぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 苦しみにより、一周回って殺意を向け口癖の「殺」を用い始めるエフォールと、

「こりょひてってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! ころひてくださひゃっはっはっははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! もういひゃなんへふっへへぇぇぇぇええええっへへへへへへへへへへへへへへへへ!! いっそころひへくだっひゃいいぃぃいいぃいぃいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 ろれつが回らないながらもなんとか言葉にしようと笑い悶える果林。

 二人の痛々しい叫びは心の底から思いを込めて放出される。

 いっそ殺してくれ、と。

 しかし彼女らは知らない。ティクルの森の大樹は人間や妖聖を対象に、くすぐることで皮膚から植物を介して魔力を吸収、あるいは何らかの強い感情を抱いた時に発せられる体液や精神波に含まれる魔力を同じく吸収し、それらを養分にして成長していることを。

「いひゃひゃふふぁぁふふふふふふふふぁぁぁぁんんんっ!! いひっふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いきがっっでひふぁいっふふえぇぇぇぇええへへへへへへへへへへぇ!! えぇぇぇえげっへへへぁあっははははははははははははははははははははぁぁぁぁぁ!!」

 すなわち、魔力の塊にも等しい妖聖の果林からはくすぐることで、

「がゆぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ざづぅぅぅぅぅぅぅぅ!! さつさつざづざづぁあっああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁさつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! さつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 エフォールからは主に痒みで生じる強い感情を抱かせた際の精神波で、大樹は魔力を得ていた。

 彼女らがどれだけ助けを求めても、この森に立ち寄るような者は、少なくとも近辺には存在していなかった。フェンサーがいない近くの村では、この大樹は危険であるという言い伝えがあるため、狩猟や採取に来る村人が大樹に近づくことはない。
 そしてフェンサー御用達の情報屋も、この森にフューリーがあるという情報は得ていない。それゆえ、外まで声が届いていないこともあって、通りがかったフェンサーがエフォールらを助けるであろう確率はほとんど無きに等しい。

 幸か不幸か、ティクルの森の大樹は肉食性ではない。あくまでも魔力を得て生きているだけの存在だ。そのため、内部に取り込まれた者が消化されて死ぬということは起こらない。

 だがそれは裏を返せば、エフォールらは強制的に笑い声と体液そして精神波を吐き出され、出せる魔力が空っぽになるまで大樹の養分にさせられるしかないのだ。植物から刷り込まれる、痒みあるいは敏感さを誘発する粘液から微量の栄養を施され、魔力の一部も返還されて体内で増幅させられる。そしてそれを吸収するべく大樹は彼女らに植物を伸ばしてくすぐり、また粘液をかけて魔力を生みださせて、同じ行為を繰り返す。何度も、何度も。

「くっふふふいぃぃぃいいいんんんんんんっ!! くるしいれふっへへぇえへへへへぇぇぇぇぇぇぇぇええええええひゃひゃひゃひゃひゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ゆるひてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! へふぇぇえいぃぃぃいいぃひぃあぁぁああっはははははははははははははっはははははははははははぁ!!」
 
「さっくぅぅぅううっ……ぐぎぃぃぃぃぃぃ……!! ぎっぎぎぎぎぎぎいぃぃぃひひひっ!? ぷっぷぷぷぷぷぷぷぷふふふふふっ……!! ま、またくすぐったいのがっひゃあんっ!! ひゃっががあぁっああぁぁぁふふふぁぁぁっひゃひゃひゃはははっひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁびゃああああああああっ!! かゆぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃくすぐったいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 やがて体内における魔力増幅のメカニズムも、いつかは飽和して止まるだろう。そうなれば晴れて解放される。しかしその時が訪れるのがいつになるのか。

 何日も何日も動けないまま……二人はその時が一秒でも早く訪れることを祈るしかなかった。 


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【あとがき】
これまでとは趣向を変えて「フェアリーフェンサーエフ」というゲームで、好きなキャラクター二人組を書いておりました。個人的に、果林がドスの聞いた声で翻訳した時の声がたまらないですね!

この作品を題材にしてくすぐり小説を書いた人は、間違いなく私が最初であるという自信がありますね。感慨深いです。 謎の自信ですが。特撮好きが高じて、脚本:井上敏樹&村上幸平氏出演がキッカケでこの作品を購入するに至りました(マジで)。
ねぷシリーズは2017年現在においてまだ手を付けておりませんが、興味は強いので近々やります……! カオスチャンプルもリリースされるし! でもオメガクインテットもやりたいなぁ……(さらに遠のくフラグ)

あ、この作品はこれまでに無い趣向として、痒み責めの描写や植物モンスターによるくすぐりを取り入れたこともある意欲作でもありました。元の作品はややマイナーではありますが、読んでいただいた方も意外に多く、参考にさせていただけた思い入れの強い作品だったり。
同メーカーの作品好きかつくすぐり好きの人との交流が生まれるキッカケになったこともあり、苦労はありましたが書いた甲斐がありました。

ところどころボケボケしてはいますが、正統派なファンタジー作品で面白いですよ? 興味を持っていただけた方は、ゲーム本編(PS4リメイク版)をプレイするか、桜ノ杜ぶんこから出版されている小説版を読んでいただけると嬉しいです。
ちなみに私は邪神編が好きでした。あとシャルマンの過去話も。