艦隊これくしょんより、鈴谷・熊野くすぐり小説です。

本文は下からどうぞ!

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 私には三人の姉妹がいる……らしい。

 ラオウ、トキ……じゃなくて、最上、三隈、熊野の三人だ。私の姉にあたるのが最上と三隈で、熊野は私と同じ日に生まれたから双子の妹みたいなもんらしい。
 でも姉二人は別の鎮守府にいるって提督が言ってたから実際に会ったことないし、熊野とはこの鎮守府に配属されてから初めて出会った。

 だからかなぁ……あんまり姉妹って感じがしないのは。なんていうの、ドラマとかにありがちな生き別れの家族との再会みたいで、妙に会話のノリとかが合わないワケ。

 そもそも私は横須賀生まれで、熊野は神戸生まれ。東西がノリと関係してるのかどうかはともかく、性格や好みやタイプもぜーんぜん違う。だからチグハグ。
 ギャルっぽいよねーとか私は周りからよく言われちゃうんだけど、熊野はこう……良いとこのお嬢さまっぽい感じの子。ほら、よく言うじゃん? 白いワンピースの似合う、深窓の芦屋令嬢って表現。あんな感じ。芦屋は神戸市じゃないけどさ。

 ま、とにかくこーんな感じの理由が複雑に絡み合っているのか、私は同室の熊野とは今ひとつ打ち解けられてる感じがしない。会話もあまり続かない。私一人が会話を振ろうとしては空回りしちゃうの。

「熊野、くまのん、くまりんこ……うーん、最後のだけはなんか違うかも」

 件の顔を思い浮かべながら、名前の呼び方を考えてみる。仲良くなるためにあだ名を付けるべきか、それとも仲良くなってからにするべきか。それも含めて私は悩んでいて、部屋の前でドアノブに手を掛けられないでいる。

 姉妹として何を話せばいいのか、同じ重巡洋艦娘として実戦に投入される際にはどう連携をとっていけばいいのか、私はそれがわからない。

「でも……行くっきゃないよねー」

 わからないから立ち止まる、なんていうのは私の性分じゃないし、そんなのつまんない。頭のいいタイプじゃないから、アドリブでがんがん行くのが似合ってる。

「よし……! くっまのーん! ただいまーっ!」

 覚悟を決め、わざとらしいほどの大きな声を作りながら、私は勢いよく扉を開けた。


[newpage]


「あまり大きな声を出さないでくださいな……はしたない」

 開口一番に私を出迎えたのは、熊野のこんな言葉だった。同室になって一週間、今日こそおかえりなさいを言ってもらえると期待していたから、ちょっとだけ心にダメージを負った。

「……いやぁ~、メンゴメンゴ。訓練後のご飯がウマくって、ついついテンション上がっちゃってさー」

 それでも気にしてないようなアゲアゲな自分を演じつつ、熊野とのコミュニケーションをとってみる。だけど、ベッド上で足を揃え三角座りをして壁に背を任せている熊野は、すぐに読んでいた本に視線を戻してしまった。

「あれのどこがいいのやら」

「えー、美味しいじゃんコンビニ弁当。皆が定食食べてる中でぇ、私一人だけ違うの食べるあの背徳感、たまんないよねー。くまのんも一度食べてみなよ」

「遠慮しておきますわ。あと、その呼び方止めてくださらない?」

「じゃあ、くまもん? それとも、くまりんこがいいの?」

「…………」

 とうとう何も言い返してこなくなった。わたくしはこれから読書ですので邪魔しないでくださいまし、とでも言いたげな態度だ。

 諦めた私は、自分のベッドに腰掛けて鎮守府近くのコンビニで買ってきたファッション雑誌を読み始めてみることにした。といってもほとんど読むふりで、パラパラっとめくっては一分もしないで閉じた。私の今のトレンドは、アクセでもワンピでもなく熊野だからだ。

「……はぁ」

 やることもないので反対側のベッド上の熊野を観察していると、さっきからため息をついては読書を中断し、肩を押さえて首や腕を回しているのが目に付いた。栗色のポニーテールが揺れている。私が同じ動作をしてもこんな上品にはならないなぁと感心しながら、ある妙案が浮かんだ。

「ねぇ。肩、凝ってるんでしょ?」

「え……?」

「よかったらマッサージしてあげよっか? 私、けっこうウマいよ」

 水上偵察機ではなく、その発展型の水上爆撃機である瑞雲を使った慣れない訓練で、肩こりを誘発したのだろうか。優しい姉貴分としてこれを解消してあげれば少しは感謝されるかもしれない。そこから親交を深めるというのも一つの手かもしれない。ウマいかどうかは私自身もわからないけど、そこはアドリブと聞きかじった知識でなんとかしてみよう。

「いえ、結構で――」

「遠慮しないの遠慮しないのっ!」

 断られるのはなんとなく予想がついていたので言葉を遮り、無理矢理自分のペースに引き込んで熊野のベッドに乗り込み、「うりゃー」っと甲板ニーソの膝辺りを上から押して三角座りを崩させ、濃茶色ブレザーの肩を掴んでうつ伏せになるように横に転がして引き倒した。

「い、いきなり何をするんですの!?」

 そしてすぐさま、あまり体重をかけないようにして私は熊野の上に乗った。読書を邪魔されたことで非難が飛んでくるが、終わりよければ全て良しだ。

「いいからいいから」

「こっちは全然良くありませっっ、んぁあっ!?」

 両肩を四本ずつの指でホールドし、両親指を使って肩のやや後ろの出っ張りをぐりっと押し込むと、立ち上がろうとした熊野の口から妙な声が出た。前方に伸びた手に持っていた本はぽろっとベッドに落ちた。

「あ……ぅあ……! あっ……! や……あっ、あぁっ……! っっ……! ぁうっ……!」

 左右に骨を転がす度、ゴリゴリと音を立てるが、それよりも熊野の声は大きい。

「うっ、んん……! ぁぐ、はっ……! はぁあぅぅ……!」

 めちゃくちゃ凝ってるじゃんって思ったけどそれより、

「うわぁ……えっろ」

 ああいうことをする時の声ってこういう感じなのかな? 少女漫画でしか見たことないけど、さ。

 それにさっきから熊野の体が強張り、ベッドのスプリングがぎしぎし軋んでてなおさら連想してしまう。

「うぇ……!? え、えろっ!?」

 あ、やばい。聞こえちゃってたみたい。口に出しちゃってたんだね私。

「年頃の乙女が……え、え、え、えろ、などと……あ、あああああああっありえませんわっ! 破廉恥ですわ! ハレンチ極まりありませんわっ!」

 手を止めて弁明しようとした私に対して、耳まで真っ赤にした熊野は叫んだ。顔は見えないがそちらも真っ赤なのだろうか。

 いやぁ……えろの二文字にこんなに反応するとかどんだけピュアよ。生粋のお嬢様って生き物は、皆こういうもんなの? 絶滅危惧種にもほどがあんじゃん。ぶっちゃけありえない。

「はしたない……あぁ、はしたないですわ。このような方が姉だなんて。おおかた、いやらしいことを何度も経験しているに違いありませんわ……! そう考えると、わたくしを触る手つきも何だかいやらしいものに思えてきましたわ……あぁおぞましい」

 なんだか好き勝手に、熊野の中で私の人物像が変な方向に捻じ曲げられていってる気がする。そこまで言わなくてもいいじゃん、テンション下がるぅ。私ぁバリバリの処女だっつーの。

「いてもたってもいられません。早くどいてくださいな」

「いやらしいことなんてしないって。てゆーか、肩もみでそんな考えに行きつくそっちの方がいやらしいんじゃ……」

「聞く耳持つつもりはありませんわ! それに……」

「それに?」

「さっきから、重いんですのよ……」

「お、重っ!?」

 熊野の何気ない一言が私の心臓を豪快に抉った。さすがお嬢様。触れてはいけない乙女のタブーを知らないとは浮世離れにも程がある。

「……いやいや、私そんな重くないって」

「重いものは重いですわ!」

「なっ……!」

 反論するも、またしても心を抉られた。

「…………」

 どうやら、優しくしてやろうなんて思った私がバカだったようだ。かわいい妹だと思って下手に出ていたらつけあがりおって。私にだって堪忍袋の緒はあるし、それはたった今切れた。実は最近ちょっと増えてきてるから、ズバズバと言われて正直カチンときた。

「ちょっと、聞いているんですの?」

 だから私はお仕置きとして、

「跨るのをお止めになってくださいません?」

 両膝で挟んでいる妹の背中めがけて、

「早くど、いぃっ!? ひゃあぁぁっ!?」

 つぅぅぅぅっと人差し指を下ろしてやった。甲高い声が出ると同時に熊野の体が少しのけぞった。

「な、な、な……?」

 何が起こったのかがわからない、という感じなのだろう。熊野の戸惑う様子から読み取れる。

「やっぱ、えろいじゃん」

 先ほどの熊野の口から出た声について、私は率直な感想を述べた。

「え、えろくなんてありませっっふぁあっ!? あぁぁっ、ぁふ……きゃひんっ!!」

 もう一度指を這わす。今度は真っすぐ下すのではなく、くねくねと蛇行するように動かしてみた。またしても大きな反応が返ってきたものだから、なんだか気分がいい。どうだ参ったか。

「反省した?」

「ぅ、反省……? この熊野に、何か反省することがあるとでも?」

 おおう、意外にも強情な態度を崩さないぞこのお嬢様は。あるいは、本当に自分が悪いと思っていないのだろうか。

「というか、マッサージはどうしたんですの? どくつもりがないのなら、仕方がありませんので受けて差し上げます。ですから、悪ふざけはこれほどにして早く再開してくださいな」

 しかもずうずうしい。受けて差し上げますとかよく言えたもんだ。

「あー、わかったわかった。そこまで言うんなら続きやってあげるよ、マッサージ」

 こっちが言いだして強引にやったんだし、責務は果たしてやろう。

「じゃあ、いっくよー」

――がしっ。

「え……?」

 でも、姉に対する口のきき方と態度がなっていないから、お仕置きは継続だ。あと重いって言ったし。

「一体どこを揉むつもりでぁあっはぁあっ!?」

 わき腹を両手で包むと、熊野の両肩がびっくりしたかのように跳ねた。

「もみもみもみもみ、も~みもみぃ~、いやぁお客さん凝ってますなぁ~」

「ふっ!! ふふっ……ぅふっふふふふふふふふ……!! ふぁぁああぁあああっっ!? ああっっああっ……! あはっ、はぁぁぁあはははははははっ!!」

そして揉み解してみると熊野の足がバタバタと上下に暴れ、口からは楽しそうではないけど笑い声があふれ出た。

「はひぃぃっ! いあっはははははははははぁぁぁぁっ! あぁっ、ふふふふふぁはふふふふふふふ……! こ、これはっっ! ぁふっ、うぅ、ぅんんふふふっ……! ひぁぁぁぁあっはふふふふふふふっくくくくくくくくっ……! ぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅくくくぁあっ! ま、マッサージでは、っあぁ……ないでしょうっ!?」

 そしてこのマッサージに対し、熊野は疑問を投げかけてきた。
 このような反応が返ってきたのは、マッサージとしての動きというよりはむしろくすぐりに近いような動きで、私が指をウニウニしているからだ。いや、近いなんてものではなく、くすぐる動きそのものだ。

「ちっ、ばれたか」

 世間知らず(かもしれない)お嬢様だから騙し通せると思ったが、さすがにそうはいかないらしい。素直に私は認めてやったが手を止めず、わき腹を揉むようにしてくすぐり続けている。

「今のは聞き捨てなりませんわひゃっ! ひゃっ! ふっ……ふふふふふふふふぁぁああっはははははははははははははっ!」

「だって熊野が悪いんだもーん」

 重いって言ったし、生意気だし、いつも私に冷たいし。

「なにがっっ、何ぃぃいっひひひ……ひ、はふぁっ! はぁぁぁあっははひゃひゃ! ひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃあぁ! あっ……! 何を言っているんですのよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 熊野は、どうして自分がこんな目に遭わなければならないんだとでも言いたい気持ちなんだろう。

 でも私は止めてあげるつもりは一切ない。私がこれまで悩んだり傷ついたりしていた苦しみを、少しでも分かち合いたいのだ。本来の予定とは違ったけど、こういう形で親交を深めるのもいいんじゃないかな? ほら、ボディタッチはコミュニケーションの一つだしぃ。

「苦しかったりしない?」

 答えられるように、わき腹を揉む動きをゆっくりにしたり、時々指で突っつく程度の動きに変えてみる。

「きゅふっ! ふっ……くふふふふふふふっっ……! くすぐったきぇひっひひひひぃ……! くすぐったいだけ、ですわ……!」

 つんつんつんと私がわき腹を刺激するたびに、熊野の声が小さく震える。熊野は腕を閉じて顔を隠すように下へと向けて、身を守るように全体的に縮こまっていく。その行為はわき腹を突っつく手の障害にはなりもしていない。

「ふーん。聞いた話じゃ、くすぐったがり屋な子は感じやすいらしいからぁ……やっぱ熊野ってえろいじゃん」

「……っ!? で、ではっ、ぁぁふ……! わたくし、いっっ! く、くすぐったくなど、ぉふ……ありませっっ、んあはっ!」

 反骨心を弱弱しくも見せてきた熊野。お嬢様としての気品の高さがプライドに直結しているのだろうか、あくまでも自分がエロいと言われるのが心外なんだろう。それとも私に似て負けず嫌いなのかな。

「わた、はっ! っふ、ぅぅぅぅうふっ……! えろくなどぉぉ……! いぃぃいやらしくなど……ひゃんっ!? ひゃっ……きゃっ! や、あぁぁぁぁ……!」

「あぁ、わかったわかった。えろくない、熊野はえろくないよーさっきのは冗談だよー」

 何にせよ熊野は、この手の話題をあまり好ましく思っていないようだということが分かった。今後の会話のため、参考資料にしておこう。それと、あんまりやりすぎても良くないし、そろそろ止めてやることにして手を熊野の体からゆっくりと離した。

「……ふぅ、楽しかった。笑った声もかわいいじゃん熊野」

 お仕置きっていっても、別にそんなきつくしてやるほど怒っていたわけではない。親睦を深めるための、スキンシップの一環としてくすぐっただけだ。もちろん重いと言ったことには個人的に反省してもらいたい点だけどさ。

「こんなもので言われても、うれしく、ありませんわ……」

「ホントホント。かわいいかわいい。こんなにかわいい妹がいて私は満足だよ。そんなかわいい妹の声を独り占めできたんだから、何かお返しを考えてあげなきゃいけないねぇ」

 顔を伏せたまま息継ぎをする熊野の体から退いて、ベッド上で隣にあぐらをかきながら軽口を叩いてみる。これの応答次第で、熊野と仲良くなれたのかどうかを測ってみよう。

「お返し、ですか?」

「うん、何でも言っていいよ。あー、でもなるべく財布に優しいものだと助かるかなぁ」

「そうですか……では!」

――ガバッ!

「え?」

 一瞬、何が起こったのかが分からなかった。

「今、お返ししてくださいな」

 が、背中に伝わる柔らかい感触とボフって音がしたこと。そして仰向けになった私が熊野の笑顔を視覚で捉えたことでやっと察した。

 起き上がった熊野が、馬乗りになって押し倒した私を見下ろしているということを。

「え、えーとさ、熊野?」

「なんですの?」

「お返しって言っても、そんな両手の使えない状態でどうすんのさ?」

 熊野は両手で私の両腕を掴んで離さない。体と両手を使ってベッドに押さえつける形で私を拘束しているけれど、くすぐられた仕返しをするというのならばどちらかの手をフリーにしなければならないのではなかろーか? 今の私に何かをしろと言われても、手が使えないんじゃどうしようもないわけで。

「それも、そうですわね。ですが、どちらかの手を離した隙に鈴谷が何をしでかすかわかったものではありません。いわば、千日手ですわ」

 よくわかんないけど、手詰まりって解釈でいいのかな?

「いや仮に離したとしても、もうくすぐったりしないって。うん、私もちょっとやりすぎたとこあったかもしんないって思っ――」

「……鈴谷、ちょっと目を閉じてくれませんか?」

「――たし……って、え?」

 私の言葉を遮るように熊野は言った。

「目ぇ閉じろって……」

 え、何? 何すんの? ナニしちゃうの?

意図が読み取れなくて私は思わず熊野の顔に目を向ける。なんで閉じないといけないの? 

「…………」

 でも熊野は何も言わない。真剣な表情でじっと私の瞳を見つめ続けている。

「ぅ…………」

 つられて私も口をつぐんでしまう。てゆーか顔が近い、近い、マジで。こんな風に見つめあってると……なんていうかマジでキスする五秒前的なムードじゃん。

 って……え、キス? キスでお返ししろっての?

「…………」

 改めて熊野の顔を見る。うん、一点の曇りもない表情。変わらない。体ごと顔を私に寄せて来てる。吐息のかかる距離になった。

 マジ……? 熊野、ガチなの? 女の子同士なうえに姉妹でキス? ちょ、レベル高くない? お嬢様って生き物はこんなにも異次元なの? てゆーか私、ファーストキスの相手が……熊野ってことになるの? 

 変な緊張感で自分の思考回路がどんどん変な方向になっていってる気がする。そんでもって熊野の目が語ってる。早く目を閉じろって。

「……わかった」

 つい、ムードに飲まれて合意してしまった。けど、これでお返しになるのならば、姉としてその意思を汲んでやらねばなるまい。仲が深まるのならやってやろうじゃん、キス。

「…………」

 少しだけ心臓の音が大きくなってる気がする。どっくんどっくん、とまではいかないけれど、トクントクン。うひゃー、緊張するなぁ。女の子同士でドキドキ感じちゃうとか思ってもなかったわー漫画だけの話だと思ってたわー……

目を閉じて、唇に意識を集中させて、私は待ち構える。

 が、

「ふーっ……!」

「っっきゃあ!?」

――ゾクゾクゾクゾクゾクゾクッ!

 体が急に覚醒したようにピンと跳ねた。耳の奥底に何かを注ぎ込まれる感覚に、思わず目を見開いてしまうと同時に全身がびくついた。

「なにすんのさ!?」

「耳、弱いんですの?」

「ぇ、あ……耳?」

「この動揺っぷり、その通りと捉えてよさそうですわね」

 言われて私が何をされたのかを思い出した。なるほど、今のは耳に息をふーってやっただけなのかぁ……って!

「キスは?」

「は?」

「いや、だから熊野、そのつもりじゃ……なかった、の?」

 何言ってんだこいつ、という顔の熊野。それを見て、私はよっぽどトンチンカンなことを尋ねてしまったことに気づいて耳まで真っ赤になってしまう。

「なっっ! 何を馬鹿なことを想像していらしたんですの!? き、きききききききききき……接吻などと!」

 そちらも赤面しながら、わざわざちゃんとした言い方に熊野は直した。ふーむ、どうやらその気があったわけじゃないのね。ちょっと安心。

「と、とにかく!」

 誤魔化すようにわざとらしく大きめの声を発した熊野が、再び私の耳への攻撃を再開しようとする。腕をがっしりと掴まれたままなため、私は逃げることも叶わない。

「ちょ、熊野! や、はふあぁぁぁぁぁっ!?」

 耳の産毛どころか全身が総毛立つようなくすぐったさを、再び息による刺激で与えられた。

 ふーっ、ふーっ、ふーっ、と何度も何度も熊野は、熱を持った私の耳を冷ますように息を吹きかけ続ける。

「ひゃっ!? ひゃわぁあんっ!!」

 まるで細長い槍のような鋭さを持った息。

「きゃひっ……ひひひいぃぃぃんんっっ……!!」

 首を動かして円やらせんを描くようにゆっくりと進んでいく息。

「ぁんっっああぁぁっ! ぁふっ……!!」

 内部から広がって耳全体を優しく包み込むような息。

 これらのいずれも、私の全身から力を抜けさせるには十分すぎる破壊力があった。ぞわっとした感覚で頭の中を支配する熊野の息遣いに、思わず耳を押さえるべく腕を上げようと暴れたり、伸ばした足を折りたたんで熊野の背中に膝を何度も当てるが、

「あっあぁぁぁぁ!! あうっ……ぅひゃあああぁぁぁっ!?」

 それを抵抗と受け取ったのか、熊野は息を吹きかける行為をさらに激しくする。私の腕をベッドに押し込む力も、お腹あたりにかける体重も一切緩めてはくれなかった。

「ん、すぅぅ……」

「ひっ……!?」

 息継ぎで小さく息を吸い込む音を耳にすると、私は身震えした。腕を上げられない以上、避けるしかないと思い、今度は息を吹きかけられる瞬間に、すかさず首を動かして頭を転がした。

 しかし結果として右耳が姿を見せてしまう形となり、

「ふ、にゃあぁぁぁ!?」

 間髪入れずに、右耳に息を吹きかけられたことで間抜けな声を漏らしてしまった。

「ぁ……! くぅぅぅぅ……ぅ、うひゃあっ……!」

「ふー……まだ、ふー……終わりでは、ふー……ありま、せんわ、ふー……」

「ひゃっ! ひひゃっ……! ゃ、はぅぅ……ちかりゃ……ぁ、はいらなっ……ぅふっ!」

 何度、私は息を吹きかけられたのだろう。熊野が息を吹きかけるのを止めて顔を上げ私の腕から手を離しても、腕を持ち上げる気力が私にはすっかり無くなっていた。

「ふふふ。鈴谷も、なかなかに可愛らしい声ではありませんか。さて、そろそろ私がされたのと同じことを――」

 このままじゃ熊野のターンは終わりそうもない。どうやらこのお嬢様、遠慮ってものを知らないらしい。ちょっぴりサディスティックな表情で、ワキワキと両手を私の体に熊野は近づけてきた。やられたのが耳だけとはいえ、今の疲弊しきった状態でくすぐられるなんて考えたくもない!

「――はぁ、はぁ……! く、ふ……う、うぅぅぅぅぅりゃああぁぁぁ!!」

 そのため私はその手が届く前に、最後の力を振り絞って畳んだ足で思いっきりベッドを踏みつけ、トランポリンの要領で反動を使って横に体を転がして、熊野を引き剥がしにかかった。

「して……きゃっ!?」

 熊野の小さな悲鳴がすぐ隣で聞こえた。

見ると、バランスを崩した熊野が仰向けで倒れている。

「……ぅ、一体、なに、が?」

 突然の出来事に驚いているのだろう。私はすぐさま跳ね起き、このチャンスを逃すことなく熊野の上に再び跨った。さっきまでの位置関係を逆転させることに成功した。やったぜ。

「はぁ……はぁ……よくも、よくもやってくれたじゃん」

「なっ!? す、鈴谷……?」

「いいお返しだったよ、うん。私からも……お返しのお返しをしてあげなくっちゃね!」

「け、結構ですわ! だいたい、事の始まりは鈴谷のせいで……って! どこに手を突っ込んでいるんですの!? や、やめっ! やめっっあんひゃあああああああああっ!?」

 怒りが有頂天に達してきている私は、熊野の服の裾を捲り上げてその中に両手を突っ込んで、指の腹を使い腰の感触を楽しむようにさすり始めた。そして時々摘むような動きも混ぜてみる。

「ひゃっひゃあっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……! ぐっ、ぎゅふっふふふふっふふふふふぅぅ……ふひゃっ!? ひゃひっ、ひいっ!! ひっひひひひいぃぃ!!」

 変な情けをかけてもさっきみたいに仕返しをされるだけだ。反撃する意思も生まれないほどに屈服させてやるしかない。

「ひぃぃぃぃっ!! っふ! ふっふふふふふふふふぅぅぅぅぅ……うああああっ!! ははっふふああぁぁぁぁっ!! あっはははふふぁぁぁっ!! ぁはっ! はっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあ!!」

 体を揺らし、足をばたつかして熊野が暴れている。引き離されないよう注意しないと。

「ほーう、すべすべじゃーん!」

 熊野の素肌は触り心地がとてもよかった。さっすがお嬢様なだけあって体のケアは完璧なんだろう。でも、他の場所はどうなのかな?

 より熊野の体の上方へと手を届かせようと、私は前傾した。

「ひっひひひひひひひひ!! ひはっ!! はっははははぁぁぁ……あぁぁぁっはひん!?」

 細い腰の感触を味わった後にわき腹をナデナデしていた手がゆっくりと上方へ進行し、熱と汗を帯びた腋の下に先っぽがちょんと触れた。

「そ、そんな場所なんぇええへへぇ!? いっっ……! いいぃぃいやっやははははっははははははははははははぁっ!! やみぇなさひっひひぃぃぃあぁぁぁはひゃっひゃひゃははははははははははははぁぁぁぁぁ!!」

 その瞬間非難が飛んでくるが、そんなの関係ねぇとばかりに腋へ指を滑らせまくると、熊野は盛大に噴き出した。

「あああぁぁぁぁあっ!! かはっ! はははははぁっ! くっくくくくぅぅぅぅうああぁぁっふふふふふふふふふ!! ふっっ、ふぅぅぃいいい加減にしぁふはっはっははっ! はあぁぁっはひゃはははははひゃはぃひぎぃぃぃいやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 今までで一番効いてるような気がする。よーし、続行続行続行!

 汗で濡れているのもあって腋の下は指で触るとすべすべだけど、いい感じに爪が引っかかる時がある。この微妙な違いが更なる反応を引き出せているのだと実感した私は、もっとそこを苛めてやろうと考えた。

「ほーれほれ、ど~したどうしたぁ?」

 さらに前傾。

「ひゃあああぁっ!! ああぁっっひゃっひゃひゃひゃひゃ!! はぁぁあはっははははははははははひぃぃいっ!!」

「こちょこちょこちょこちょ~」

 もっと前傾。

「も、もうっ! もうやっはあぁはははははははははははははぁ!!」

「ええのんか? ここがええのん――」

 突如、

「――くぁふっ!?」

太ももをひと撫でされたような感覚。私は思わず悲鳴を上げてしまった。

「な、なっ、きゅふっふふふふふぅ……! なん、でくすぐったひひぃっ!?」

 続いて訪れた、太ももを撫でまわされる感覚。その正体を掴もうと、手を動かしながらきょろきょろと首を動かしてみたが、私と熊野以外は誰もいない。

「ひゃひゃっ!? はひゃ、ふっふふふふふ……! くっ……く、くくくくぅぅぅぅ……! ぅあ、熊野ぉ!」

 となると犯人はただ一人、熊野しかいない。その証拠に熊野が、フリルのついた丈の短いスカートの中に手を侵入させていたのだ。

「ゆぁっあはっはははははははぁぁ!! ゆだっはあぁいいいぃっひひひひひぃぃぃ! 油断、大敵ですわぁぁあっははははははははっ!!」

 おそらく体がかなり傾いていたことで、熊野の手の辺りが死角になってしまい、気付かなかった私は見事に足元をすくわれたのだろう。

「ひゃんっ!? へっっへんなとこ触らなひっひひひぁぁぁぁっ!! んにゃはっはっはっはっはひゃっひゃひゃひゃひゃあああああああ!!」

 お尻や脚の付け根といった所も撫でられてしまい力が抜け、おかげで少しだけ私の手の動きも緩慢になってしまう。

「そほっほほほほほほぉぉ!! そっちこそやめっひひひあぁぁっははははははははぁ!!」

「やへっへはぁっ!! やっはははあぁふふふぅぅ……!! やめ、ないぃぃぃぃぃぃ!!」

 熊野の手を払い除けたい衝動に駆られるが、攻撃に使う手を減らすという選択肢を、あえて私は取らなかった。

「はきゃっ!! きゃっきぃぃいいぃあぁあぁぁぁっはははははっはぁぁぁぁぁあっはははははははは!!」

 私が熊野の服の中に手を突っ込んだまま、熊野が私のスカートの中に手を突っ込んだまま、膠着状態。お互いにくすぐり合うことを止めず、その強さや動きの激しさは時間と共に増すばかりだ。

「はぁぁああっ! すずぅぅあ、鈴谷っあぁはっ!! は、くくっ……! わたくしからぁぁ!! てひっ提案がっっふっ、ふふふふふふ……!!」

 数分続いた膠着状態に一石を投じたのは、熊野の言葉だ。

「てえぇへっへへへへへぇ!! ていあはっははははぁあぁぁっ!! っっはっははははははははぁっ!?」

「おたぎゃひにぃぃっひひひひひぃぃぃ!! いちぃぃひ、にのぉさんんんぁっはぁぁあっははははぁぁぁ!!」

「わかんなひぃぃぃぃぃ!! わきゃんなひってぇえええええええっ!! ぃぃいいぃぃぃあぁああああぁぁっはははははははははぁぁ!!」

 私の指が腋の下の窪みをなぞると、熊野が何を言ってるのかがわからなくなった。こちらもこちらで、太ももを揉み揉みサワサワされているから聞きとるのに集中ができない。

 だからといって手の動きを緩めて話をしようなんてわけにもいかなくて、くすぐったさにお互い耐え続け、何度も熊野は何かを言おうとして叫び、私はそれを聞こうとする。

 しばらくすると熊野の言いたいことがようやっと理解できた。イチ・ニ・サンの合図で、お互いに体から手を止めようということらしい。

 なるほど、このまま不毛な争いを繰り広げていても苦しみが続くだけ。となればこの提案を飲むのはやぶさかではないかもしれない。

「で、でぇぇええあぁっへへへへへぇええっ!! いちっひひっひひひひひひぃぃぃぃ!!」

「にぃいぃぃひひひひひひひひ……!! ひひぃいああああぁっ!! あっはははははははっあああああああああああぁ!!」

「さんんんんっっ……!! ぷぷっ! ふゅ、ふふふふふふ……!! ふぅぅぅうああ……!!」

 まるで示し合わせたように、熊野がイチ、私が二、熊野がサンと交互に合図を飛ばしあった。このような状況ではあるものの、私は姉妹の絆のようなものを一瞬感じ取れたような気がする。

「あ、あぁぁぁあああはっはははははははははぁ!? あああああぁ……! はにゃっ、離すって言っふきゃあああああああ!!」

「しゅずやはっははははははははっ!! すゅずっ、鈴谷こそぉぉ!!」

 が、残念ながらそれは気のせいだったようだ。もし絆があったのならば、相手が止めるのを信じてくすぐるのをやめていたに違いないだろう。合図の後もお互いの体からは手は離れておらず、私も熊野も笑い悶えている。私はサンで手の動きをちょっと緩めていたのに、熊野は止めてくれなかった。

「はぁううぅぅううっ!? く、熊野、どっっどこ揉んんんんあっはははははははははははははははははははっ!! そ、そんなとこっ! そこはだえぇっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃあぁぁぁぁぁ!!」

 太ももを揉んでいた熊野の指が、今度は脚の付け根に食い込んで離れてくれない。

親指でぐにぐにと力強く揉み込まれ続け、ツボに入ってしまったのかくすぐったさを堪え切れず腰が抜けて倒れ込み、大きくはないが良い感じに柔らかい熊野の胸へと私は顔をうずめる形となった。

「ん、んんんんぅぅぅぅぅうあっははぁ!! 重っほっほほほほほほほほぉ!! おもいぃぃぃいひひひひいいっ!?」

「まはっはひゃはははははぁぁぁ!! また重いっていぃぃいっっはっははははははぁぁぁ!! あっああああぁぁぁぁああひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

 それでも熊野が手を止めない以上、私も手を止める道理はない。やや窮屈な姿勢で手を伸ばし続け、とにかく無我夢中で全ての指を総動員して熊野の腋の下を弄り回す。

「ひっひひひひひひひひひひ!! ひひぃぃあああああっ!! くふぁっはははははははははははははっ!!」

熊野も熊野で無我夢中なんだろう。顔は見えないけれど、その必死さは指の動きに乗せて伝わってくる。体を左右に振って私の顔に胸を押しつけている。

「ひゃひゃっひゃひゃあぁぁぁぁ……!! あっあぁぁぁぁ……あふっ!! ふ……!! はふっ……ふぅ、ふぅ……!」

 でも、熊野の手の動きは段々緩慢になってきているようにも思える。考えられる理由は私がくすぐり続けているからってのもあるんだろうけど、体勢の問題から熊野は腕を伸ばし肘をベッドから浮かさないと私の足へ指を届かせられないからに違いない。腕に疲労が蓄積しているのか、熊野は時々私の足から手を下ろしてしまっている。つまり、今の状況は私にとって有利に働いてるといってもいい。

 余裕が出てきたこともあり指を腋の下で動かしながら、息継ぎのために肘を杖にして体を起こすと、手を入れた際に熊野の制服の裾を捲りあげたことを思い出した。

「うふっ……ふふふふぁぁぁあっははぁぁぁぁ……! はふぁ……! ちゃーんす……!」

 見ると熊野のお腹は露出しており、形のいいおへそも姿を現している。

 となればやることは一つだ、舐めるしかない。そんな考えに行きついた私は少しだけ体を下げ、熊野のお腹に顔をうずめ直し、着地した先のおへそにチロチロと舌を這わせる動きも追加した。

「っっ!? なっっなにをっ!! 何しゅふっ!? ふっふふふふふふぁああああああああッ!? あふぇっへへへへへへへへへえぇぇぇぇぇぇッ!?」

 熊野が反射的に身をよじったりお腹を引っ込めたりするが、顔を密着させているのでそれはほとんど回避にはなっていない。

「ひっ!? ひぃぃぃぃいいいいぃあぁぁああああッ!! なんで舐えっひひひひぃぃいいいいいいいいッ!!」

 唾液でベタベタに汚したりしないよう気を付けながら舐め続けていると、熊野の手が私の足から完全に剥がれ、ベッドを叩き始めた。効果は抜群だ。

「はっふふふああぁぁぁぁッ!! はきゃんっ!! きゃひっひひひひひひひひはははははははは!! はっっ!! っく……くくくくくひゃひゃひゃあ!! ぁぁぁあああああああッッ!!」

――ボスボスボスボスボス。

「けほけほ……ん、ぺろ……! ぺろ……! こちょ、こちょ……!」

 ちょっとだけ室内が埃っぽくなったけど、これで熊野をくすぐることに集中できるようになった。熊野の声が大きくなるにつれて、お腹の震えが私の顔面に伝わってくる。

「ぃあひぃぃいぃいいいいい!! くっくぅぅぅぅぅううう……!! ぅあっ!? きゃっっははははははははははははははっ!!」

 腋の下の感触を十分に堪能したので今度はわき腹あたりに手を移動させ、爪を立てて十本の指で無造作に引っかき回す。

「はっああぁぁぁぁぁぁぁぁ!? はひゃひゃああああああああああ!! くすぐったひ!! だ、めぇぇええっっへへへへへへへへへへへぇぇぇ!!」

 腋の下ばかりに意識が向いていたのだろう。急な変化で熊野の声は驚きの色を帯びているようにも感じられた。

「きっひっひひひひっひひぃぃぃぃぃぃ!! そこはぁぁぁぁぁぁ!! そこがまんできっはははははははははははははぁぁ!!」

 時には人差し指のみで、あばらの一番下を引っ掻いてみると、これもまた大きな反応を示してくれた。指の本数は少ないにも関わらずということは、ここも弱点なのかもしれない。舐めるのを一旦止めて顔を上げてみると、案の定熊野は首を左右に振って笑い悶えている。

「すずうぅぅぅああああああぁぁ!! も、うっっ止めっ……! め、えへぇああっ!! はっひゃひゃあああああああああぁぁぁぁ!!」

 コリっと音を立てるようにあばらを押し込んでみると、ベッドを叩いていた熊野の体が一瞬、弓状に跳ねた。それに伴い声のボリュームも大きくなり、私の名前を叫んでいるようにも聞こえた。

(そろそろ……まずい、かな~? んー、どうなんだろう?)

 そろそろストップしてあげる潮時かもしれない。でも、もしかしたら手を止めた瞬間に反撃をしてくる可能性もあるのではないか、という不安がどうしても拭い切れなかった。なのでひとまずは、あばらに沿わすように人差し指の腹でなぞる動きに変えて様子をうかがってみる。

「あああぁぁぁは……! はっ、ぁふ……! ふ、ふふふふふふふふ……っっ……! はぁうっ!?」

 さっきまでの縦の動きと比べると我慢がきくのか、やや穏やかな笑い声を洩らしていた熊野。ところが突然口を真一文字にして、小さな悲鳴のような声を上げた。

「ん? 熊野、どしたん?」

 様子の変化に、思わず尋ねてみる。しかしプルプルと震えるばかりの熊野は、無言で弱弱しく首を動かし始めるだけで答えを返してくれない。

「ねぇ、熊野ってば~」

「ひきゃっ!? あっ……! む、うぅぅぅぅぅぅぅ……! だ、だめっ! 今はっ! 今だけは手を止め……! はぅっ!! うぅぅぅ……今は、だめなん、ですのぉっ!」

 あばらを指先で軽く突っつきながら改めて尋ねると、さっきまでと様子が違う。くすぐったそうに震えている……ように見えるはずなんだけど、少しだけ違和感がある。

「すず、や……お願いで……いえ、一生のおねが……きゃはっ! はっ、ぁ……! も、もうっげんかぃぃぃぃ……!」

「うわわっ!?」

 一瞬可愛らしい笑い声を出したかと思えば、熊野が上半身をちょっとだけ起こして私と目線を合わせた。頭がぶつかりそうになった。どこにこんな力が残っていたのさ!?

「げんかい、ですわ……! お退きに、なって、くださ……ぃぃいっ!?」

 私が指を動かしていない、すなわち熊野は何もされていないにも関わらず、目を見開いて体を一度痙攣させた。その直後、両手を伸ばして私の体を押してくる。

「え、ちょ……ま、まだ私とやり合おうっての!?」

 ふむ、どうやらまだ熊野は元気なようだ。なので慌てて両肩に置かれた熊野の手を払い、その体をベッドに倒した。

「ふぅ、危ない危ない……また反撃されるところだったよ。まさしく熊野の言う油断大敵ってやつだね!」

 そして私は、再び熊野の腋の下に手を差し込んでのくすぐりを再開した。

「ち、ちがっ! そうじゃなっ……! すずっ、はっっきゃあぁぁぁぁぁあああああっ!!」

 もう耳は貸さない。反撃の芽は摘むしかない。

 熊野を徹底的に脱力させるべく、こちょこちょと無遠慮に十本の指を腋の下で暴れまくらせる。

「ぎゃひっひひひひひひぃぃぃあああぁぁぁぁぁぁ!! ああぁぁぁぁぁああっはははははははははははは!!」

「い、痛っ!? 熊野、痛いってばっ!」

 熊野は盛大に噴き出しながらも大きく抵抗している。腕をむちゃくちゃに振り回して、私の体をぽかぽかと殴打し始める。あまり力は入っていないがちょっとだけ痛い。

「たたた……暴力的な妹には、こうだ!」

「ヒッ!? あ゛はっ!! はっあぁぁぁぁぁ!! 話を! 話を聞いはっはあぁぁぁぁぁっ!! あ゛あ゛あ゛あ゛はははははははははははは!! はがっがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 腋の下に集中していた攻撃範囲を広げて、乱暴的かつ最大限に強い指の動きに変えた。腕の付け根に親指の爪が食い込んだり、人差し指と中指が腋の窪みを削るように、薬指と小指が胸の横を抉るように這いまわるといったような感じだ。そして、その手を激しく上下に動かして、くすぐる位置を限定させないことで熊野の体に慣れを作らせない。その証拠に、熊野の体がベッド上で陸に揚げられた魚のように激しく跳ねている。

「や゛め゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!! おねがっっお゛ね゛が゛い゛い゛い゛い゛い゛!! どいて! どいてくださぁぁぁあ゛はぁぁぁぁぁっあ゛ははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 けど、それでも熊野は抵抗を止めない。いやむしろ私が強くくすぐることでそれは激しくなっていく。熊野の背中に鬼気迫る何かを感じ取ったがその正体が何であるかわからない。

「もっっ、げん、かいぃぃぃぃぃ!! い゛!? ぃぃぃい゛ひはっ!! ははははっははははははははははは!! も゛れ゛っ、漏れちゃいそうなんですってばぁぁぁぁぁあっははははははははははははははあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

「え、漏れ……? ん、んん……?」

 熊野がひと際大きく叫んだ後に、ほのかに香る何かが私の鼻腔を刺激した。

「あ゛っ、あ゛ぁぁぁぁ……! は、ふぁ……あ……あぁぁぁぁぁぁ……」

 熊野の声のトーンがさっきと微妙に違う。そしてなにやら嗅ぎ覚えのあるような匂いだったので、手を止めてその正体を確かめてみると、

「あ……」

 やってしまった。そう思った私は思わず熊野の顔を見た。

「すずやぁ……わ、わたくし……その……う、うぅ……」

 やってしまった。熊野も、もしかすればそう思っているのかもしれない。

「見ないで……見ないで、ください、まし……」

 端的に言うと、熊野は漏らしてしまったのだ。いわゆる、おしょんしょんを。

 赤くなった顔を隠すように手で覆っているのは、羞恥によるものだろう。お嬢様じゃなくても、たとえ姉妹の間柄であっても、失禁してしまった現場を見られてしまったのでは穴があったら入りたくもなってしまうわけで。

(やってしまった……)

 黄色い染みを形成したベッドシーツと、涙交じりの熊野の声。これらが調子に乗り過ぎた結果として目に見えて襲いかかり、私は頭が痛くなった。


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△△△



「えーと、その……」

「聞きたくありません。鈴谷の馬鹿ぁ……」

 ひとまず私はすぐさま熊野を連れて部屋のバスルームに直行してシャワーを浴びさせた。熊野のために替えの下着や服を用意した後、私も汚れた服を着替え、染みのできたベッドシーツを処分しておいた。

 戻ってきた熊野は自分のベッドではなく私のベッドに腰掛けたのだが、泣き止んではいたもののいわゆる取り着く島が無いってやつで、私が何かを言おうとしても一蹴されてしまう。

「え、えーとさ、熊野?」

「…………」

「……その、ごめん。私も度が過ぎたというかエスカレートしすぎたっていうか、やりすぎたっていうか。何て言ったらいいんだろ……とにかく、ゴメン!」

「…………」

 頭を下げて謝罪の意を示そうとしても、何故だか口からは言い訳も一緒に出てしまう。妹をくすぐってお漏らしさせるとか、どう考えてもやり過ぎだった。これじゃあ仲良くなるどころか、かえって溝が深まってしまったようにしか思えない。どう考えても軽口を叩けるムードではなく、何を言っても熊野を傷つけてしまいそうな気がして、私は慎重に言葉を選んでいくしかない。

「あ、えと……そうだ。お腹、空かない?」

 時計を見ると、針が9時を示していた。熊野も晩御飯は数時間前に済ましているだろうし、私もお腹が空くには当分間があった。熊野からは返事がなかったけれど、それでも私は続ける。

「夜食にと思って、コンビニで買ってたサンドイッチがあるんだけどー……いる?」

 がさがさ、とベッドの上に置いていたコンビニ袋を漁って、黄色と白色がトレードマークな三角形を取り出して熊野に見せた。

「口に合うかどうかはわかんないけど、さ。タマゴサンド、私も好きなんだ」

 べつに物で釣ろうという魂胆ではないけれど、とにかく何をすれば熊野の気が晴れるのか、熊野がどうすれば機嫌を直してくれるのか、熊野がどうすれば私を許してくれるのか。わからないけれど、なんとかするしかないと思って、無反応を貫く熊野の傍にサンドイッチを置いた。

「…………」

「どう、かな……?」

 しばらくじっと見つめた後に熊野が手に取り、慣れない手つきでビニールを外して開封した。

「……美味しい」

 聞き逃してしまいそうなほどの小さな声ではあったが、熊野のその言葉を聞き私はほっと胸を撫で下ろした。

「よかった……」

「ええ。こんびに、とやらの食品も侮りがたいものですね」

「……いやー、嬉しいなぁ。コンビニの良さにとうとう熊野も気付いちゃったかぁ~」

 段々と表情が綻んでくる熊野。そして無理矢理ながらではあるが軽口を叩く私。関係に一歩前進を感じたような気がした。

「……もっと食べたいですわ」

「え? あー……」

 が、サンドイッチは一個しかなかった。

「わかったよ。じゃあ買ってくるね、ダッシュで!」

 負い目もあるし、愛すべき妹の要望とあらば応えねばなるまい。

 私はすぐさまバビューンと部屋から出ようとドアに近づくが、

「お待ちなさい」

 熊野に後ろから呼びとめられた。

「え……?」

 足を止め、私は思わず振り返る。

「わ、わたくしも……」

 すると、

「わたくしも、一緒に、行きますわ……鈴谷」

 ベッドから立ち上がり、私の隣へと熊野がやってきた。

「う、うんっ! そうしよっか、熊野!」

 お互いに名前を呼び合い、そして外に出た。

「でも、なんで一緒に行こうって思ったの?」

 夜は少し冷えるから、二人して体が少し寄り添って歩いている。

「いけませんか?」

「ダメじゃないんだけど、その……熊野って私のことを嫌ってたんじゃないかなぁ、なんて」

「嫌う?」

「だって、これまで私に冷たかったし、さっきはとんだご無礼を働いちゃったし……」

「ぁう……思い出させないでくださいまし」

 熊野が顔を俯かせる。でもすぐに、「ですが……」と言葉を紡ぎ出して私に向き合う。

「嫌ってなど、おりません。それに謝るのはわたくしも同じですわ」

「え?」

「わたくしの姉である鈴谷がどのような素晴らしい方か。そんな期待を胸に抱いて着任早々挨拶をしてみれば……あまりにも予想外だったもので」

「あ……」

 言われて、私は熊野とのファーストコンタクトを思い出す。正直、黒歴史と言っていいほどのスベリっぷりだった。私だけテンション無駄に高くて、それに圧倒される熊野。チョベリグとかトゥギャザーとか言っちゃってたかも。

「今の鈴谷は最初の時ほどの痛々しさはありませんが……会うまでにわたくしの思い描いていた鈴谷像が粉々に砕け散り、そのショックでつい冷たく当たってしまい……意地になっていたのかもしれません」

「そうだったんだ……」

「今までも、鈴谷が仲を深めようと尽力していたことも、やや無理をしていたようにも感じていたことも、頭では分かっておりましたわ。まぁ、今日に関しては少しやり過ぎには感じましたが……」

「ご、ごめん……」

 今日のこと。つまり、くすぐり合いのことだよねぇ。思い出してみると度を過ぎてた。あの光景を誰かに見られていたり声を聞かれていたらと思うと、私は急に恥ずかしくなった。みっともない声を姉妹で響かせていたとか、実はデキているとか裸で抱き合っていたとか、あることないことが尾ひれどころか背びれ胸びれ、おまけに高級羽毛布団に高枝切りハサミがついて噂話のネタにされていたかもしれない。防音性の高い壁にマジで感謝。

「謝らないでくださいな。わたくしだって同じことをしたのですから。でも、これまでの私の行いが鈴谷の心を痛めてしまっていたのならば、わたくしの責任です。本当にごめんなさい、鈴谷」

「い、いいよいいよっ! 頭なんか下げなくていーから! 原因わかってホッとしたし、てゆーか全面的に私が悪いから頭下げるのはこっちの方で……あ、ほら! コンビニ着いたよ!」

 嫌われていたわけじゃない。その事実が嬉しかった。妙に照れくさくなって声のトーンが大きくなった。暗い夜を照らす人工的な光と見慣れた看板を見つけると、二人して足早に直進した。


△△△


「そんなに買うの!?」

 入って早々、目に映る物が全て新鮮なのか目をきらきらと輝かせた熊野が速攻で見つけると、どさどさと買い物カゴの中に何個もタマゴサンドを詰め込んでいく。私の言葉に対し、「それが何か?」とでも言うような表情を熊野は作る。

「いやお金払うの私だし、賞味期限とか色々ぉ……」

「気に入ったんですもの。仕方がないではありませんか」

 熊野が微笑む。

「ん~、まぁいっか」

 この笑顔のため。そう考えれば、安い出費だ。

 うん、決めた。今日はタマゴサンド記念日にしよう。毎年、この日はそれを祝うことにしようそうしよう。腹いっぱいタマゴサンドを仲良く二人で食べる。そんな日。

 部屋に戻ってからそれを提案したら、熊野がまた笑った。それは良い日ですわね、なのか、何を妙なことを、なのか。どっちの意味での笑顔なのかはわかんないけど、多分両方。

「ふふ」

 私には三人の姉妹がいる。

「何がおかしいのですか、鈴谷?」

 最上、三隈、熊野の三人だ。熊野は私と同じ日に生まれたから双子の妹みたいなもんだ。

「なんでもないよ、熊野。ただ……」

 熊野とはこの鎮守府に配属されてから初めて出会い、今日で一週間だ。

「ただ?」

 会ったことのない姉二人がどんな人達なのか。それはまだわからないけれど、

「楽しいね」

 熊野は、私の可愛い妹だ。

「そうですわね」

 私も、熊野も、いい笑顔だ。


~~~~~~
【あとがき】

艦これ二次創作です。鈴谷と熊野のなれそめ的なのを妄想したがゆえに生まれた作品です。タイトルの由来は当時放映されていた(確か)アニメの桜trickから。あれはたいへん百合百合していてよいものであった……

鈴谷も熊野も、書き手によって設定が大きく異なるキャラクターなので面白いですよね。
私の中では鈴谷は実戦経験ゼロの処女で、恋愛に関しては奥手というイメージです。熊野は普通にお嬢様ですが、こちらも実戦経験は皆無です。

最終的にいい話にしていこうというコンセプトでいちゃいちゃこちょこちょしていたのですが……タマゴサンド記念日って何なんですかねぇ……?(謎電波)

この作品の冒頭部分の、鈴谷のモノローグは個人的に大好きですね。なんかこう……ノリに乗れた感じがすごい鈴谷のキャラっぽくて。内面描写はややくどいかな? とは思いつつも、鈴谷らしい感じにできたんじゃないかなぁとは思っております。攻守が入れ替わり立ち替わりするのも、今までにやっていない形式だったので、書いてて楽しかったです。