オリジナルくすぐり小説です。おねロリです!

本文は下からどうぞ!


~~~~~~~~~~ 



 ある小さな町に、ひと組の家族が暮らしていた。

 数年前に両親が他界したこの家族は、唯一の働き手である姉によって家計が支えられていた。
 そんな姉を大切に思うもう一人の肉親――妹のリィンは、町を歩きながらため息をついていた。

「はぁ……」

 人ごみから離れ、近くにあったベンチに腰掛けるリィン。真っ赤なリボンが、彼女の動きに合わせて小さく揺れた。セミショートな金髪の側面に結ばれ、一点のチャームポイントを添えている。この小さなリボンは母の形見だ。

 リィンには悩みがあった。

 彼女の住む町にある冒険者ギルドは、魔物退治の依頼から薬の材料集めまで幅広く依頼を紹介している。リィンの姉は15歳という若さで、来る日も来る日も魔物退治で賞金を稼いでいた。
 その一方でリィンは、薬の材料を集めるくらいならばできるだろうと考えた。緊張と期待を胸にギルドの門を叩いたはいいが、彼女を待っていたのはどう頑張っても越えることのできない大きな壁であった。

「もう少し、早く生まれていたら……」

 10歳にも満たないリィンは、ギルドの年齢制限に引っかかっていたのだ。
 この国で労働は13歳未満には認められておらず、冒険者ギルドもその例外ではない。
 両親の残した遺産はささやかなもので、日々節約しなければ食うに困ることとなる。それゆえ、姉は必死にギルドの依頼をこなしていた。
 生傷の絶えない仕事で、時にはひどい怪我を負って帰ってくることもある。そんな姉の帰りを待ち続けるリィンは自分の無力さを恨んだ。

 わたしという存在が姉にとって重荷になっているのではないか。わたしがお金を稼げていれば、もっと楽ができるはずなのに。いつも頑張っている姉を労うためのプレゼント一つ買ってあげることもできないなんて、わたしはなんと無力な存在なのだろう。

「……はぁ」

 泣きたい気持ちをぐっと堪えるも、あふれ出るため息は抑えられない。
 リィンは望んだ。早く大人になりたい、お金を稼いで姉を助けたい、と。

「あらあら、ダメよぉ。女の子がため息ばっかりついてちゃ」

 すると、座った状態で俯いていたリィンに一人の人物が声をかけた。

「ぁ……えっと、あなたは?」
「私? んー、通りすがりの優しいお姉さんかな」

 ニカッと笑い、目の高さを合わせるように女性はリィンの前で腰を下ろす。女性の服装は裾の長いローブに、尖がった形の帽子。先端に宝石がはめ込まれた木の杖を手に持っていた。

「お姉さん……?」
「そう、お姉さん。ま、フィリアさんって呼んでくれてもいいけどね」
「は、はぁ。わたしはリィンっていいます」

 この町で暮らして長いリィンにとって、フィリアは見覚えがない人物だった。旅をしている魔道士の人だろうか、と恰好からリィンは人物像を推測する。

「リィンちゃん、ね。ところで、さっきから何か悩みごとかな? ずーっと暗い顔してたから、気になっちゃって」

 どうやら長い間ベンチに座っていたらしい。最後に見た時よりも時計の針が随分と進んでいた。

「悩み……」

 もちろん悩みというのは姉のこと、そしてお金のことだ。

「ここで会ったのも何かの縁。ぱぁーっと話して、楽になっちゃいなよぉ」

 そうは言うものの、見ず知らずで出会ったばかりの間柄だ。
 リィンは曖昧な返事をしてお茶を濁す。大した悩みじゃないです、大丈夫です。そう言った具合に。

「いーやっ、全然大丈夫じゃない。全然大したことなくなくない! もう、どうして悩みをお姉さんに打ち明けてくれないのさぁ!」

 ぷんすかぷんすか。わざとらしく頬を膨らませ、擬音を口ずさみながらフィリアはリィンの隣に座った。

「かくなるうえはぁ……」

 整った顔立ちにじっと見つめられ、圧倒されたリィンはついつい目を逸らしてしまう。その瞬間を待っていたように、フィリアが細い体に抱きついた。

「ふぇっ!?」

 柔らかい感触で顔全体を覆われ、リィンの表情が驚きでいっぱいになる。

「な、なにを……ひゃああっ!?」

 そしてフィリアがリィンの両サイドに指を当てがうと、ワンピース越しに体をまさぐり始めた。

「ぁ、あはっ! あっ、はあぁああっはっははははははっ!?」

 両腰から全身へいきなり駆け巡った刺激に対し、わけもわからず笑い声をあげてしまうリィン。

「ふぃ、ふぃりあさぁんっ! とつぜっ、んっ、ぅふふふふ……! ふひゃっひゃひゃひゃひゃっ! どうしてこんなことをぉぉっ!?」

 ビクンビクンと何度も体が跳ねる。フィリアの指が腰を昇ってあばら骨の横――わき腹を揉むように指を食い込ませると、リィンの中でさらに激しい笑いの衝動が湧き起こる。

「こちょこちょこちょこちょ~! だってリィンちゃんが言ってくれないんだも~ん」
「んひゃああぁぁぁあっ!? そこっそこくすぐったぁぁあっはっはっはっはっはっ! あっははははははっ! ぃやっいひゃああぁぁぁっ!」

 通りかかる人々は騒がしい二人の様子に目を配るが、微笑ましい光景程度にしか思っておらずフィリアの行為を止めようともしない。だが、くすぐりを受けているリィンにとっては苦しさでいっぱいだった。

「言ったら止めてあげるよぉ? ほらぁ、悩みがあるんでしょ~?」

 顔に胸を押し付けられていて物理的に呼吸がしにくく、止まることのないくすぐりによって満足に息が吸えない。

「わっわきゃぁぁああっひゃひゃひゃひゃっ! わかりまひひゃあぁぁぁっ! 言いますっ、いいますからあぁぁぁぁぁっ!」

 自分の意思とは無関係に笑い声が喉から溢れ出し、体力も消耗していくばかり。これは一種の拷問なのではないかと感じるほど、幼い体をコントロールしている脳が危険信号を何度も飛ばす。

「ホントぉ~?」
「ほんっほんとでひゅかひゃああぁぁぁっ! わらひ、くしゅぐったいのだめなんですぅぅぅぅぅぅっ!」

 止めて欲しい、くすぐりから解放して欲しい。言葉が言葉にならないけれど、リィンは必死に願いを込めて叫んだ。元々体が強いわけではない彼女は、ほんの数分のくすぐりで既に限界が近かった。

「素直でよろしい。はい、終了~♪」

 それに応えるように、くすぐる指の動きは止まった。それと同時に、リィンの体が力なくフィリアに寄りかかる。

「お疲れさま、だね。あぁ、焦らないで。ゆっくり休んでから……ね?」

 息がしやすいようにと、フィリアはリィンの体を離す。そして仰向けに寝かせると、膝の上に小さな頭を乗せた。
 まるで全力疾走した後だ。息も絶え絶えで汗もびっしょり。何ともいえない疲労感がリィンの全身を包んでいた。

 フィリアに膝枕されながら、視界いっぱいに広がる空を眺めるリィン。彼女の目には澄み切った青空がどこまでも広がっていた。

(そういえば、こんな風にお姉ちゃんに膝枕してもらったこともあったっけ……)

 ふと、懐かしい記憶がうっすらと蘇る。それがいつのことなのかはハッキリしないが、確かに存在する思い出であるとリィンは確信していた。
 そんなリィンを見つめて微笑みながら、フィリアは優しく頭を撫でていた。
 顔は似ず髪の色も違えど、その様子はまるで姉妹のようであった。

△△△

「なるほどぉ、お姉さんのためにプレゼントを」

 数分後、呼吸が落ち着いたリィンの口から事情が説明された。

「でも、わたしの年齢じゃ紹介できるお仕事が無いって言われて……」

 残念な気持ちを思い出し、リィンはまたため息をつく。悩みを打ち明けたことで多少は気が晴れたものの、根本的な解決にはなっていない。

「…………」

 先ほどまで隣で腕を組みながらうんうんと頷いていたフィリアが、リィンの事情を聞き終わると何かを考えるように黙り込み始めた。まるで石像のように一分間は動かず、街の喧騒だけが辺りに響く。

「フィリアさん?」

 一体どうしたのだろうかと思い、リィンは小さな声で呼びかけてみる。

「……ぶわっ!」

 すると、突然一筋の線がフィリアの両眼から流れ始めた。

「ど、どうしたんですか?」
「あぁ、ああぁ……ええ子やねぇ、リィンちゃんは素直でええ子やねぇ。お姉さん、あまりに美しい姉妹愛で涙が止まらないよぉ」

 大げさなほどに泣き出すフィリア。感涙極まったとばかりに、石畳の上で染みが作り出されていく。

「お、落ち着いてください……!」
「ありがとねぇ、ありがとねぇ。この歳でこんな気遣いのできる子がおるなんて、リィンちゃんのお姉さんが羨ましいわぁ」

 慌ててポケットからハンカチを取り出して、リィンは隣の顔から滝のように落ちる涙を拭っていく。

「……ふぅ、泣いた泣いた。ごめんね、急に泣き出したりして」

 しばらくして涙が完全に収まると、ハンカチは離れていく。

「いえ、こんな風に気遣ってくださるとは思ってもみなくて。ちょっと驚いちゃいました。えへへへ……」

 リィンは照れくさそうにはにかんだ。
 今までリィンが自身の家庭環境を他人に知られた時は、気まずい雰囲気になるばかりだった。大変ね、頑張ってねといった慰めの言葉をかけられたことは多いが、リィンがそれらを同情や憐れみによるものだと悟ることは容易であった。
 だがフィリアのように泣き、苦しみをわかってくれる相手はとても新鮮で一種の心地よさすら感じられた。

「ところで、リィンちゃんのお姉さんは今どうしてるの?」

 リィンの姉は、昨日の昼過ぎに家を出た。僻地からの依頼であるため、移動だけでも数日はかかると聞いている。おそらく、まだ数日は帰らないだろう。

「ふぅん、そうなんだ。じゃあその間はずっと一人? 寂しくない?」
「寂しい、です。でも、慣れてますから」

 とは言っても、やっぱり心細いのは事実だ。もし姉が帰って来なかったらと思うと、心配で心配で胸が張り裂けそうになるほどだ。

「じゃあこうしよう。今から、私の家においでよ?」
「えっ?」

 突然の提案に、リィンは驚きの声をあげた。

「いやぁ、丁度この辺りに引っ越してきたばかりでね? 今日は街の下見に来てたんだ。お掃除とか荷物整理を手伝ってくれたら嬉しいなぁって。あ、勿論お礼はするよ?」

 親指と人差し指でフィリアは円を作る。これが意味するものはお金だ。少しだけ心が揺らぎそうになったが、労働は労働だ。自分の年齢で働くのは違反にあたるとリィンは左右に首を振った。

「大丈夫、バレなきゃ問題ないし、バラすつもりもないから。大体、お手伝い料でとやかく言われてたら、街の子供はみーんな逮捕されちゃってるよ。リィンちゃんがお姉さんにご飯を作ってるのだって、言ってしまえば労働だよ?」

 フィリアの言葉には妙な説得力があった。冷静に考えれば屁理屈もいいところなのだが、リィンは次第に丸め込まれていく。そもそもお金を欲しているリィンからすれば、この提案はとても魅力的であった。

「…………」

 ここでリィンは、姉のある言葉を思い出した。

 お金をあげると言われても、知らない男の人に付いて行ってはいけません。

 これは、可愛い妹が性犯罪に巻き込まれないようにと常に言い聞かせていた言葉だ。
 顔立ちの整ったリィンが複雑な家庭環境に身を置いている以上、よからぬ輩から甘い話を持ちかけられるリスクがあったためだ。

「……女の人だから、いいよね」

 だが、そんな姉の言葉をリィンは言葉の通りに受け止めてしまっていた。

「ん? 何か言ったぁ?」
「い、いえ! その……わたし、フィリアさんのお手伝いやります! やらせて下さい!」

 リィンはまだ幼く、性の意味すら理解していない。ましてや、目の前に居るのは女性だ。先ほどまで親しげに会話をしていたこともあり、フィリアをよからぬ輩と怪しむ理由は一切無かった。

「ふふ、ありがとうリィンちゃん。それじゃあ、早速行こうか。私の後ろについて来てね?」
「はーい!」

 そしてリィンは気が付いていなかった。

 ベンチから立ちあがったフィリアが、妖しい笑みをニヤリと浮かべていたことに……


 数日後。

「ふっふっふ。これを見たら、あの子きっと驚きますわ……!」

 大きな袋を抱えた少女――ベルが走っていた。

 僻地での依頼を完了し、馬車から降りて馴染みの街に着くと足早にベルは帰路についていた。
 彼女がスキップ交じりで石畳を駆けるたび、静かな夜道で袋の中の金貨が音を奏でる。

 ベルはたった一人の肉親――愛すべき妹であるリィンの喜ぶ顔を見るためだけに生きていた。自分がどれだけ傷ついても、妹には何不自由なく幸せになって欲しい。そんな風に考えて、彼女は魔物退治を中心に生計を立てている。
 生まれついた時からベルは魔力を体に宿しており、ごく一握りの人間しか門をくぐることができない魔術学院に籍を置いていた。もっとも、それは数年前の話で、両親が他界してからは経済的な面から中退せざるを得なくなったのだが。
 そして現在は、魔術学院で学んだ魔法を駆使し、若くしてギルドで指折りの魔道士として名を馳せていた。

「ただいま……!」

 今でも、中退を後悔していないといえば嘘になる。由緒正しい魔術学校時代の口調と、金色の髪を頭の後ろで団子状に纏めたシニヨンを続けているのが証拠だ。
 ベルの才能・成績を持ってすれば、卒業後は最大の誉れとされる王宮魔術師への進路もあっただろう。だが、夢のために幼い妹を一人にすることは何よりも耐えがたいことだった。
 リィンさえ元気ならばそれでいい。家に帰った時、リィンが温かく出迎えてくれるならそれ以外は何もいらない。こうして扉を開ければ、おかえりなさいと言ってくれるのだから。

 しかし、

「……あら?」

 家の中は真っ暗で、人の気配は一切感じられなかった。

 ひとまず灯りをつけてリビングに向かう。自室で寝ているのだろうかと思い、そちらも確認する。だが、家中を探し回ってもリィンの姿は見当たらなかった。
 時間にして午後八時を過ぎたところだ。寝るには早いし、外出するにしては遅い時間だ。あのリィンが夜遊びをするようなことも考えられない。となれば、どこに姿を消したのだろうか。

 リビングに戻ると、テーブルの上に一枚の手紙があるのがふと目についた。
 基本的に、ベルの住む家に手紙が届くことは少ない。中退以後、魔術学院時代の友達と手紙を交わしていた時期もあったが、一年も経つとめっきり便りが来なくなって寂しい気持ちになったことを思い出した。
 珍しいなと思うベルだが、彼女が注意を引いた理由はもう一つあった。

「差出人は……リィン?」

 どうしてリィンから自宅に手紙が届くのだろうか。ベルはひとまず中身を確認するために封を切った。
 中に入っていたのは一枚の文書と、映写魔法で生成された写真だった。

「……えっ!?」

 写真には、いつもと違った服装のリィンが映っていた。だが、ベルが驚いたのは写真の内容だ。
 リィンが十字架で磔にされ、ぐったりと目を瞑っている。気絶しているようにも見える。その横で、ローブ姿の女性が嬉しそうにピースしていた。

「な、なんなのですか、これは……! どういう、ことですの……?」

 一目でわかるほどの異常事態に、ベルの顔が一気に青ざめる。何かの冗談であって欲しい。そう思い、今度は文書の方に目を通す。内容は以下の通りであった。

『拝啓、リィンちゃんのお姉さんことベルちゃんへ。久しぶりだねぇ、元気にしてたかな? 写真を見れば分かると思うけど、可愛い可愛いリィンちゃんはこの私が頂きました。リィンちゃんが心配なら、下に描いてある地図に従って私の屋敷に来てね。ちなみに手紙の内容を誰かに話したら、もう二度と会えなくなっちゃうかもよ? じゃ、そゆことでヨロシク~☆ byあなたのフィリア先生』
『p.s.魔術学院の制服で来てね』

 本当に、何かの冗談であって欲しいとベルは心の底から願った。

 誘拐。この二文字が頭によぎった瞬間には、体中から血の気が引いていくように感じた。

▽▽▽

 フィリア・ルティックは魔術学院時代の特別講師だった。彼女の講義は月に何度か行われていた。
 最先端の術式やフィリア自らが編み出した魔法を習う絶好の機会であり、在学していた頃のベルはフィリアに強い憧れを抱いていた。

 もっとも、それも最初のうちだけであった。
 優秀であり顔立ちも可愛らしかったベルは、フィリアから特に気に入られていた。
 ある日、特別な魔法を教えると言われベルは個室に呼び出された。一体どんなことを教えてもらえるのだろうかと期待したのもほんの一瞬、本性を現したフィリアに襲いかかられたのだ。
 抱きつかれ、服を脱がされ、体中をまさぐられ。なんとか隙を見てフィリアを突き飛ばし逃げて以降、ベルが講義に参加することはなくなった。

――素敵なこと、先生がいっぱい教えてあ・げ・る♪

 懐かしの制服に袖を通すと忌まわしい声が聞こえたように感じ、思い出したくもない記憶が蘇る。一度は目標にしていた人物からの淫行が今でも忘れられない。信頼を踏みにじられたうえに、今度はリィンに手を出されたのだ。ベルの怒りはとても大きい。

「……ふぅ。やっぱり少し、きついですわね」

 そして夜道を駆ける、駆ける。妹の一大事に居ても経っても居られず、夜が明けるのを待つことなく目的の屋敷へと真っすぐに向かっていた。
 誘拐犯はなぜか制服姿を御所望であるらしい。指定がある以上、言う通りにしなければならないと思った故だが、年月が重ねた肉体の成長はやはり大きい。

「でも、こうしなければリィンは……」

 上品な雰囲気を醸し出すロイヤルブルーの生地を押し上げる双丘は、同色のケープを持ってしても隠しきれない。この部位はギルドでたむろする男たちの視線を嫌でも集めてしまい、まだ若いベルにとって大きなコンプレックスだった。
 無垢な乙女を象徴したような、やや短い丈の白いスカートの裾にはまるで花のようにフリルがあしらわれている。膝より下は黒いソックスと革製のロングブーツに包まれており、こちらは身体的な変化が少ないためか難なく脚を通すことができた。

「それにしても、この森に屋敷なんてあったかしら……?」

 魔法でカンテラに火を起こし、小さな灯りで照らしながら進んでいく。簡単な依頼で足を踏み入れる機会は何度かあったが、どれだけ記憶をたぐり寄せても屋敷があった覚えはない。ましてやフィリアがそこに住んでいるというのは初耳だ。

 うっそうと茂った獣道を抜けていくと、開けた場所に出て大きな建物が姿を見せた。
 返しの付いた高い塀の先では、人が住んでいる証拠を示すようにいくつかの窓が四角く光っている。
 不安を抱いてしまうほど暗かった森の雰囲気に反して、屋敷の周辺を囲む外灯が塀を明るく照らしていた。どうやらレンガ造りであるらしい。

 これほどの屋敷を、どうして今まで見つけられなかったのだろうか。

 不思議に思うベルだったが、それを考えてもしょうがない。目的はあくまでも、リィンを取り返すことなのだから。
 さて、入るとすればあの鉄門からだろうか。ベルがまっすぐに屋敷へ近づいていくと、視界の隅から魔力の流れを感じ取った。

「っ……!?」

 青白い、光の矢だ。
 上方から飛来したそれは、まるで流れ星のように綺麗であった。一度はベルの真上を通り過ぎたが、目線の高さまで降り立つと即座に方向転換し、鋭く尖った先端を向けて近づき始めた。

「――炎よっ!」

 罠の類だと気付き、振り返って矢を正面に見据えたベルが慌てて詠唱を口ずさむと、

「我が元に集い、加護を与えよ!」

 杖の先から炎が溢れ出した。
 炎は渦を巻いて凝集し、一枚の大盾となってベルの前方へ立ち塞がる。
 このままの軌道ならば、矢は炎の大盾とぶつかるだろう。

「えっ!?」

 しかし、そんな思惑は外れ、矢は直前で大きく形を変えた。
 まるで開花する瞬間だ。矢は広がりを見せ、大盾を避けた。まっすぐ飛んで来ていた一本の矢が六本の細い矢へと変貌し、両サイドからベルの体へ強襲する。

(間に合わない……!)

 そう思った瞬間、ベルは咄嗟に腕と杖で頭を守った。
 飛び退いたところで直撃は避けられないといった判断ではなく反射的な行動だ。
 来るであろう鋭い痛みに体が備えるべく、ベルは目をつむった。

「――ひぁっ!?」

 ところが、全身を走る刺激はベルの予想とは全く違っていた。

「っ、ぁふっ……!? ぷっ、ふふふふっ! な、なっ……んっ、ひひ……! なんなのですか、これはぁ……!」

 体中から力が抜けていく。
 鋭いと思っていた矢の先端は、いつの間にか小さな子供の手のような形になっており、ベルのわき腹付近を撫でまわしていた。腕を上げていたせいで、そこは完全にガラ空きであった。

「ふぁ、ぁ、あはははっ! こ、ら……! やめ、なさいぃぃ……!」

 伝わる感覚がくすぐったいと表現できるものであると、次第にベルは気付き始めた。
 慌てて腕を下ろし、触れられている箇所を押さえようとする。だが、肘が挟んだのは先端部分ではなかった。

「ぃひゃっ、は……ひっ、きひひひひ……!」

 根元を押さえられても、光の手は動きを止めようとしない。動き回ることができなくなった代わりに、撫でまわす動きからこしょこしょと指先を動かすくすぐり方へと変化する。

「んく、ひ……ぁ、はっははは……!」

 わき腹以外では二の腕、お腹、そして背筋に手はまとわりついていた。大きく笑い出してしまうほどではないが、これらは確実にベルの我慢を削っていく。

「ぅ、うううっ……! ふ、ふふふふっ! いい、加減にっ……!」

 体をいいように触られて、不快に感じない年頃の少女はいないだろう。表情を強制的に綻ばされているベルは、口元を大きく開いてしまわないように必死であった。
 身を振っても、光の手はほとんど離れてくれない。走って逃げようにも力が入らず、足がもつれて倒れてしまっては目も当てられない。
 くすぐり続ける手はなんとか我慢できる程度の刺激を途切れさせず、意地悪くベルで弄んでいるかのようだ。

 どのような意図があるのかは分からない。この魔法を放った者がどこかで様子を眺めているのか、はたまた魔法生物の類なのかはわからないが、笑い声を引き出そうと躍起になっているのは明らかだ。

 となれば、思い通りにしてやる必要も無い。

 現状を打破すべく、ベルはあるイメージを頭の中で構築しながら杖を振りかぶった。頭を守った時の体勢と似てはいるが、今度は明確な意思をもっての行動だ。

「くひ、ひひっ……! か、風……よっ!」

 そして杖が地面に突き刺さると、ベルの体から一陣の風が吹き荒れた。

 魔道士であるベルは腕力に乏しく、格闘術の心得が無い。そのため敵に接近された時の対処法として、この魔法をよく使っていた。
 暴風というほどではないが、人間相手であれば剣先を外させ足元をよろめかせ隙を作り出すことも可能だ。

 ベルの思惑通り、小動物サイズの手は風にさらわれた。様々な方向に飛んでいったことを確認すると、杖を引き抜き足に力を込める。

「ふぅ、ふぅ……! これで、体勢を立て直せますわ……!」

 窮地を脱することができたのは、ひとえに短縮詠唱という技術によるものが大きい。
 術者の魔力をそれほど多く必要としない初級魔法の類は、訓練次第で詠唱を省略して行使することができる。
 魔術学院時代の積み重ねをみごと発揮したベルは、光の手を迎撃する準備をするために走り出した。向かう先は屋敷の外周を覆う壁だ。
 ベルには考えがあった。

「炎よっ!」

 壁にもたれると短縮詠唱で炎を呼び出し、帯状だったものから幾数の小さな火球へと形を変えた。
 すばしっこい光の手からは、自分の足の速さでは逃げ切ることはできない。ならば全て魔法で潰すしかない。
 そのため、壁を背にして背後からの不意打ちを防ぐ。来る方向を限定する作戦だ。
 ベルが火球が形成し終わったあたりで、光の手が各方向からゆっくりと近づいてくる。
 これらを視界に入れながら、ベルは一つ一つに狙いを定める。杖を前方に向けると、火球も少し前に出た。
 ベルが命令すれば、火球はすぐにでも手へぶつかりに行くだろう。
 だが、先に動いて避けられてしまっては元も子もない。相手の出方を待った方が得策だとベルは判断し、同じ姿勢を保ったまま光の手を睨み付けていた。
 手も、ベルと同じように出方を窺っているのだろうか。ある一定の距離を保ったままで、空中を浮遊していた。

「…………」

 静寂が森を包む。
 しかし、それは長く続かなかった。

「……んひっ!?」

 ベルの体に、ある刺激が訪れたためだ。甲高い悲鳴が口から漏れると同時に、彼女は杖を落としてしまう。

「なっ、はああぁっ!? そ、そこは……! くっ、んふふふふ……! だ、だめっ……!」

 魔力による結びつきを無くし、火球は一気に霧散していく。
 慌てて杖を拾い直そうとするが、それを邪魔しようと何かが背後からベルの豊満な胸を揉みしだいていた。
 その何かの正体は、先ほどまで何の変哲もないレンガ造りの壁だったものだ。光の手と違い、こちらは成人男性の手ほどの大きさだ。
 ごつごつとした赤褐色の手が乳房をぐにぐにと歪ませるたび、ベルの口からは悩ましげな声が漏れ出てしまう。

「ん、ふ……! ぃ、や……はっ、ひぁっ!  はなし、てぇ……! ひ、んゃああぁ……!」

 壁だった手は意外に固くはなく、ベルにとって痛さはない。だが、マッサージのような心地よさも一切感じられない。どちらかといえばくすぐったいが、先ほどまで光の手から与えられていたものとも違うように思えた。

「こ、こんなの……! く、ぅうう……! は、ハレンチ、ですぁあっはははっ……!」

 ベルほどの歳となると、性に関する知識に少しは触れる機会がある。魔術学院でも一般教養として教わっていた。
 胸を揉まれることで全身に走る異質な感覚を認めたくないためか、必死に振りほどこうとベルは抵抗を続けている。性的な感情に恥ずかしさを覚えることも、思春期の少女にありがちなことであった。

「ふあ、ぁ……! ひ、ぃ……! 拾わせ、てぇ……!」

 とはいえ、彼女にできることは限られている。足を上げ下げして小さく地団太を踏むか、首や肩を左右に振って湧き起る衝動を紛らわすしかない。杖を拾い直そうにも、胸をがっしりと掴まれては体もろくに曲げられない。

「あっ!?」

 そして存在を思い出させるように、光の手は再びベルにまとわりつく。
 先ほどまでは、体のあらゆるところに引っ付いて来ていた。だが、今度は体のある一点部分――ベルの大きな胸に集まって来ていた。
 光の手がわきわきと指を動かして見せつけてくると、ベルの全身が更にビクつく。先ほどまでの責めを意識してしまうが故だ。

「ま、待って! 待っ……きゃあああああぁぁああっ!?」

 制止を求めるベルの声など、当然聞き入れてもらえる筈もない。捕らえた獲物をわざわざ見逃す理由など無いのだから。

▽▽▽

「んふっ……ふ、ふふふふふふ! ふぁ、ああぁぁああっはっはははははははははは!」

 つん、つん、つん。赤褐色の手に収まりきらない部分を、不規則的なタイミングで何度も光の手は刺激する。

「ぃや、いやああぁぁあぁあああああっ! そんなとこはいっひゃあああぁぁっ!?」

 谷間に指を入れるのを繰り返している手、各方向を突っついては元に戻る様子を楽しむ手。二本の指がベルの胸を弄んでいるが、これらは彼女が大きな笑い声をあげている直接の原因には至っていない。

「ひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ! せ、せめぇえええっへっへへへへっ! べつっ、べつのところにぃいいいっ! そこはなぞっひゃっやひゃあああぁぁぁぁぁああっはっははははははははははは!」

 光の手は全部で六本。残りの四つの居場所は胸の下、そして胸の横であった。
 胸の下では、二本の手がそれぞれ片方ずつ担当していた。
 ただ持ち上げているわけではなく、小刻みに動かした指先で触れるか触れないか。下着と制服越しではあるものの、もどかしいようなムズムズするような感覚がベルの神経を何度も駆け巡る。

「んはああぁぁぁぁあっはっあぁあぁぁあああああっ! はなひへはなしてええええぇぇえぇっ! くすぐったい! くすぐったすぎますわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 問題は、光の手が両サイドから責め立てている胸の横――腋の下と乳房の境界だ。
 スペンスの乳腺尾部とも呼ばれる膨らみの外側は、乳腺とリンパ腺が交差していることから非常に感覚が鋭敏となっている。そこがくすぐったく感じるか気持ちよく感じるかは人それぞれだが、どちらかと言うとベルは前者であった。

――ツツツっ……!

「ふぁ、あぁぁぁあぁああっ!? あっ……ぁ、ははははっ! そのうごきいぃぃいいいっ!?」

 軽くなぞられるだけでも、ベルは思わずのけ反ってしまう。

「ひはあぁぁぁぁっ! ああっっはっひゃひゃひゃひゃひゃ! がまんんんんっ、がまんできにゃいいいいぃぃぃっ!」

 それに加えて乳腺尾部をツンツンと突っつく動きや、ぐりぐりと強めに指圧する動きも織り交ぜられる。
 左右で同じタイミングは一切なく、他の方向からの責めも全く予想がつかない。
 耐えがたい感覚に慣れるどころではなく、ベルは膨大なくすぐったさの前に悶笑するしかなかった。

「ぁぁぁあああああああははははっはっははははははっ! はなしてっていへっへえええぇぇええっへへへへへへへへへっ! やあぁあぁぁぁぁぁっわああぁぁぁああっはっはっははははははははははっっ!」

 勿論、彼女は逃げるべく必死に暴れる。
 しかし、胸を包む赤褐色の手ががっしりと掴んで離さないうえに、抵抗の意思を見せると胸を揉み解してくる。
 その際に乳首が擦れてしまい、他の部位よりも大きなくすぐったさが流れ込んでくる。

「ふぁああっ!? ふふっ、ふふふふぁぁぁっ! あっああぁあぁ~っはっははははははははははははははっ! いっいいかげんにぃいぃい、いいいっ!? ひ、はあぁぁぁぁぁっ!?」

 最初に触れられた時は官能的なものを感じてしまっていたが、今は光の手によるくすぐり責めが主導となっている。そのため、ベルの脳は与えられる刺激を全てくすぐったさとして認識してしまう。
 それでも体はこの感覚をどう捉えていいのか分からないようで、ぷっくりと先端は膨らみを見せてしまう。そうなると赤褐色の手と触れる面積や回数も増えてしまい、ベルは反射的に暴れてしまい揉まれる頻度も高まる。
 負のスパイラルから抜け出せないどころか、むしろ悪化の一途を辿っている状態であった。

――つん、つん。

「っあ、あっはっ! きゃっはっははははは! つっついちゃああぁあっひゃひゃひゃっ!」

――ぐにぐに。ぐにゅ、ぐにゅ。

「ぅあ、あぁぁあ~ああああっ!? そっそんならんぼうにぃいいっ……!」

――つつつっ……!

「っああぁ……!? ぅひ、いっいぃいいっひっひひひひひひっ! ふひゃあぁぁんっ! んぁ、ひゃっ、ひゃあぁぁあああっ!」

 種類に富む手による執拗な胸責めは止むことがない。たとえベルが許しを乞うても、可哀そうに思って手加減をしてくれるわけもない。魔法で構成された二種類の手は、フィリア・ルティックの意思を大いに反映しているからだ。

「ぃひゃあああぁぁああっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃっ! へんにっなっひゃいましゅからああぁぁぁぁぁぁっ! とめっとめてとめええぇええああぁぁっはっはははははは!」

 顔は紅潮し、半開きになった口からは唾液が溢れては止まらない。全身から噴き出る汗とまき散らされる体液で、魔術学院の制服が濡れていく。笑いたくもないのに笑わされてしまい、これまで積み重ねてきた魔道士としての誇りまでも汚されていく。

「あぁぁああっひゃっひゃひゃひゃひゃっ! かっかぜえぇええっへっへへへへへっ! かぜよっかぜよおぉぉおおおあああぁああっはっはっはははははは! まもってっ、まもってえええぇぇぇぇっ!」

 そんな自分ごと吹き飛ばして欲しいと願いを込めながら、必死にベルは風を思い浮かべようとする。
 しかし、正常な思考すら危ぶまれる今の状況で風を想像するのは至難の業だ。そよ風ひとつ起きることもなく、事態は一切好転しない。

「わっあぁぁああっはっはははは! ほのおぉおああぁぁあっひゃっひゃひゃ! でてよおぉおぉっ! おねがい、おねがいいいいいぃぃぃっ!」

 炎であっても、それは同じことだ。
 どれだけ強固なイメージを想像できたとしても、今の状況では一生かかってもベルは魔法を起こすことはできない。
 体内から放出される魔力を増幅し、使用者の想像を具現化して放つ触媒として杖は存在している。稀に、杖を必要とせずとも魔法を起こすことができる者も存在するが、それは生まれ持っての才か生涯を魔術に賭けた末に辿り着く境地だ。
 ベルは優秀な魔道士だが、天才ではない。杖が無くては魔法を行使することはできない。
 すなわち、杖を手放してしまえば単なる非力な少女でしかない。
 胸をくすぐり、突っつき、揉み、弄んで笑いの衝動を湧かせる手は、ベルの残酷な事実を強調させていくばかりだ。

「ぁあああ……! ひあ、ああぁあっはっははは! だれかあぁぁああっ! だれかああぁあっはっはははははははは! たすけったすけえええっへっへへへへへへへ!」

 ベルはもはや、楽譜のない音楽を奏でる存在でしかない。甲高く上ずる笑い声で、笑いをただひたすらに表現する。
 全体を通して同じ部分は殆どなく、支離滅裂なようで不思議と調和がとれている。聴く者によっては永遠に楽しめる至高の名曲と言えるであろう。

「おわっへへへへへぇぇぇぇえっ! もうわらいたくなあぁああああっははあっはははははははは! ぎひっひひいいいいぃいいぃいいっ!」

 奏者は二種類の手だ。指揮者は全ての元凶であるフィリア・ルティック。彼女は指揮者であると同時に、特等席で聴く観客の一人でもあった。

「おなかいひゃひひひひひいいいいいぃいいぃいいっ! ぃは、はぎゃああぁぁああっはっはははははは! あああああああぁぁぁぁぁ~っはっはははははははははっ!」

 演奏は止まらない。奏者が、指揮者が、そして観客が続いて欲しいと願っている以上、終わることはない。

「ぎはああぁあああぁああああはっはっははっはははははははははあああああああっ! こわれるこわれひゃふふふふふふふふううううぅうぅぅぅうっ! もうわらいたくないいいいいぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 楽器に与えられた役目は、ピリオドまで音を出し続けることなのだ。いつ打たれるかわからない、ただ一点の黒を目指して。


「お姉、ちゃん……」

 四角く縁どられた映像の中で、リィンの姉であるベルがくすぐられていた。
 だらしなく、みっともなく。気品の一切をそぎ落とされ、笑い声はまるで獣の咆哮のようだ。

「どう? リィンちゃんのお姉さん、すっごくくすぐったそうだよね?」

 この映像を見ているのは二人。深紅のソファに腰かけているフィリアと、その膝の上に乗っているリィンだ。
 後ろから抱きしめられていることから体は密着しており、普通にしゃべっているだけでも耳元に吐息がかかる。そのため、リィンはくすぐったそうに顔を伏せるばかりだ。

 恥辱にまみれた姉を見つめるリィンの中で、奇妙な感情がひとつ膨れ上がっていた。

 姉が笑っている。姉が苦しそうにしている。とても心配であるはずなのに、今すぐ飛んで行って助けに行きたいと思うほどなのに。彼女の中で、全く関係のない感情が次第に大きくなっていく。

「……されたい?」
「っ!?」

 その感情の正体。それを言い当てられたように感じ、思わずリィンの体はビクッと跳ねる。

「ふふ、そっかぁ……リィンちゃんの、おませさん」

 直接的な表現をわざとらしく避けてはいるが、フィリアの言いたいことがわかってしまう。恥ずかしさから顔は紅潮し、体温が一気に上昇していく。

「はぅう……」

 そう、くすぐって欲しいのだ。
 悶える姉を見る二つの瞳は、羨望の色に染まっていた。もう、我慢ができない。止めようがない。自分も触って欲しい。
 ゆっくりと動かした手を自らの股に当てがうリィン。そんな彼女の行動を諌めるように、フィリアは指を添えた。

「ふふ、言ったでしょ? 私の言う通りにしたら、ご褒美にやってあげる……それまで我慢、ね?」

 フィリアの言葉にこくりと頷くと、リィンは手をだらんと垂らした。代わりに記憶を掘り返し始め、妄想の中で自分を慰めた。

△△△

「ふ、くふふふ……! ん、んぅう……! や、はっ……! は、ああぁぁぁぁぁ……!」

 ベルが街に戻ってくる数日前――すなわち、リィンがフィリアの誘いに乗った直後に時間は遡る。
 リィンは大きなベッドで仰向けになっていた。秘部を守る下着以外を全て取っ払われ、無垢な彼女を象徴したような純白のワンピースは見るも無残な切れ端となって床に散っている。
 屋敷に招待されてすぐリィンは拘束され、姉のベルが街に戻ってくるまでの遊び相手にさせられていた。

「ぁひ、ひ……! ひぁ、あっあっ……! ぅ、ふっ……くううぅぅう……!」

 すっ、すっ、すっ。羽箒が幼い体に這わされる音と、儚げな声が部屋に響いていた。ぞわぞわとする刺激を何度も施され、まるで焦らされているようにも感じる。

「ふぅ、う……んんんっ……! んぁ、はっ、ひゃ……ゃああっ! ぁ、あっはははは……!」

くすぐり自体は決して強いものではなく、むしろ愛撫程度のものだ。それでも、リィンは今にも笑い声をあげそうになっている。
 楽しいわけではない。むしろ、今すぐにでも逃げてしまいたい。それでも、リィンは逃げることができない。逃げることは許されていない。

「はっ……! はふ、ふ……! ふうぅうっ……! 見ない、でぇ……!」

 膨らみの兆しすら見られない平らな胸は全く隠されておらず、年相応の未熟な体を一人の女性に見せつけてしまっている。その女性とは、もちろんフィリア・ルティックだ。

「ふふ、がんばるねぇ。そういう必死そうな顔、可愛いなぁ」

 むずむずする感覚に耐えているリィンの顔を、ベッドに腰掛けているフィリアは楽しそうに見下ろしていた。まるで文字を書くように、真っ白い羽を這わせながら。

「ま、だからといって手を緩めるつもりはないけど〜」

 緩やかにお腹周りを撫でていた羽が、急に動きを変えてわき腹を掠める。

「んはぁあっ!? ふ……ふふっ、ひ、ひゃひゃっ! そ、そこ、ひっひひひひひ!」

 ゾワっとした感覚が走り、二の腕に思わず鳥肌がたつ。リィンの脳内で、抱きしめられながらされたくすぐりが思い出される。
 自覚していなかったが、わき腹は彼女にとって特に弱い部位であった。

「っ……! ひゃ、は……! はふ、ふっ……んぅぅううううっ!」

 口元を押さえようと必死になるリィン。そうでもしなければ今にも笑い出してしまいそうで、耐えられなくて。裸を見られることも、笑いそうな顔を見られるのも、全てが恥ずかしい。たとえ同性であっても、姉以外にあられもない姿を見せたくはなかった。

「顔、隠しちゃだ~めっ」

 そんな考えを分かったうえで、フィリアは顔を覆う行為の邪魔をする。右手に持った羽箒でくすぐりを継続しながら、もう片方の手で押さえる。そのうち面倒になったのか、下ろすと同時にリィンの両手首にリングを形成する。

「ぁ……!」

 拘束魔法の一種だ。リィンがどれだけ力を込めても、両腕は一切上がらなくなる。だらんとシーツの上に投げ出したまま、動くことも叶わない。できることはシーツを手先で握りしめることだけだ。

「ぅうっ……!? ふ、ふふふふ……! ふゃ、あっ、はは……!」

 となれば、奥歯と奥歯を合わせて声が出ないようにするしかない。必死に笑いの衝動をせき止めようとしているが、プルプルと震える唇や口角は頼りなく限界を訴えていた。

「さて、準備運動はここまでにして……こちょこちょこちょこちょ~♪」
「は、ぁああああぁぁああああっ!? はっはっはああぁぁあっ! ひゃひゃあぁあああぁぁあああぁぁぁぁぁっ!?」

 そんな抵抗も、あっという間に崩れてしまう。
 姿勢を変えたフィリアが左手を使い始めると、リィンは堰を切ったように笑い出してしまった。

「ゃああっ! はっ、っひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ! ひゃあぁあっはっはああぁぁああああああっ! やぁだあぁあっはっははははははっ!」

 五本の指でふにふにとわき腹の薄い肉を摘んでは揉み、摘んでは揉み。特に、親指があばら骨付近で引っ掛かると我慢するどころではない。
 羽箒による微弱な責めすら耐えられない未熟な体において、指による刺激はとても受容しきれなかった。

「は、ああぁあっ! っは、はっははははは! ふああぁあああっ! ぃやいひゃあぁぁあああっはっはははははっはははははははっはははははは!」

 指がわき腹をわしゃわしゃとかき混ぜ、腋の下やお腹を横断するたびに、リィンの体は打ち上げられた魚のように痙攣する。
 激しくなる呼吸において、入る酸素よりも出る酸素の量が多くなっていくばかりだ。わき腹に指が触れるたびに、肺の中の空気ごと押し出されるようにも感じる。
 天井に吊り下げられているシャンデリアや、視界に映るフィリアの顔がぐにゃぐにゃと歪んで見える。
 リィンの目には涙が浮かんでいた。泣きじゃくりながら、笑いたくもないのに笑わされている。その様子は非常に痛ましく、この場に誰かが駆けつけていれば止めに入っていただろう。
 だが、声は屋敷の外にまでも届かない。誰も助けに来ることはない。少なくとも数日間は、この屋敷に訪れる者は誰も居なかった。

「ふふ、こんなのはどうかなぁ?」

 そう言うと、漫然とわき腹をなぞっていた羽箒の動きに変化が生じ始める。
 わき腹からゆっくりと登っていくと……最終的に羽箒は危険な場所へと辿り着いた。

「ん、ぁああっ!?」

 桜色の小さな蕾に触れられると、リィンの背筋に悪寒が駆けあがっていく。

「んは、ゃ……! ぁああっはははははっ! んぁ、あっああぁあああぁぁあああっ!?」

 ぴんっ、ぴんっ。弾くように羽箒の先端でなぞられる。無闇に触るものではないと教えられたこの部位――乳首を無遠慮に触られていた。

「ひぁ、あ、あっ……! ひゃひ、ひっ……! ひうぅうぅうううっ……!」

 漏れだす声が、段々と弱弱しいものになっていく。
 リィンは未知の感覚に翻弄されていた。これほどまでに長く、執拗に胸を弄られた経験など皆無であったからだ。
 自然と内股になり、足先や手がシーツをギュッと掴む。そうでもしないと、おかしくなってしまいそうだった。知識はなくとも、本能的に脳が警鐘を鳴らしていた。

「ん、く……ふ、ふぁあああ……! っ、っ……!」

 しかし危険であるからこそ、隠された何かだからこそ、時に子供は禁忌を犯すことへの好奇心を働かせてしまう。

「っ、く……! ふ、ふひゅ、う……! んはあぁああぁぁ……!」

 不思議と、嫌なものではないのかもしれない。
 幼いながらも、無意識的にリィンの体はこの刺激を快楽として受け入れ始めていた。

「っ、っあ……は、はひ、ひ、ひ……!」

 むずむずするような、くすぐったいような。でも不思議と気持ちがいいような。
 目を閉じていき、リィンは奔流に身を任せていくが――

「――ひ、ぃぃいいいぃああぁあぁああはははははっははははははははっ!?」

 それは突如、終わってしまった。

「な、あぁぁあぁあっははっはっははははははははははっ! なっ、なんでっ! なんででひゅかあぁぁああっ!? いきなりくすぐったあぁぁぁぁあああっひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 フィリアが羽箒を胸元から離し、わき腹をくすぐる指の動きを強めたためだ。
 リィンは気付いていなかったが、左手によるくすぐりはしばらく完全に止まっていた。目を閉じた瞬間、それが再開されたのだ。

「お・あ・ず・け♪ 時間はたっぷりあるんだから……まだ、だぁめ」

 悪戯っぽく舌を出し、今度は両手を使ってわき腹を責め立てる。羽箒によるものと違い、完全に笑わせることだけに特化した攻撃だ。

「ひゃあっあぁぁぁああっはっはっははははははははははは! いいぃいいぁぁああっはっはははは! まだってえぇぇえええっへへへへへへへへっ!」

 弛緩していた全身が、嫌がおうにも張りつめられる。緩急に対応できず、リィンの足はくすぐったさを誤魔化そうとバタバタと暴れる。彼女の表情はどこか切なく、口惜しさすらあった。

「そうだねぇ……あと五分、かな?」
「ほっほんとぉおおおおっ!? ふぃりあさあぁぁあっはっはっははははははは!」
「ホントホント。だから、もっともーっと笑って私を楽しませて。でないと、また途中で止めちゃうかも……ね?」

 この時のリィンは知らなかった。
 たとえ五分後に羽箒が胸元にやってきても、先ほどのようにタイミング悪く中断されてしまうことを。
 何度もくすぐったさと快楽を行ったり来たりし、快楽の絶頂が訪れる手前で止められてしまうことを。

 そして知らず知らずのうちに体が快楽を求め始めていくことを、今のリィンはまだ知らなかった。


 フィリア・ルティックの自室。

 天井には煌びやかなシャンデリアが吊り下がっていて、一人で使うと有り余ってしまうほど大きいベッドもある。
 そして何やら芸術的価値の高そうな絵が壁にいくつも並んでいる。部屋自体はとても広く、大きなパーテーションで仕切られた先にも芸術品が置かれているのだろう。お姫様が住んでいるのではないかと思えるほど高級感漂う内装だ。

「ふざけないでくださいっ!」

 そんな中で、怒気を孕んだベルの声が室内に響いていた。

「ふざけてなんかないよ? だって、あの時ベルちゃんは私を拒絶したんだもん。あれはショックだったな~」

 屋敷外で胸への責めを受け続け、体力の限界から気絶したベル。窓から差し込む光で目を覚ますと、彼女は椅子に座っている状態だった。

 いや、むしろ座らされているという表現が正しい。

 手すりの上にベルの両腕が乗っている。輪っか状のものが両手首に巻き付いており上半身を動かすことができない。暴徒鎮圧用の拘束魔法の類であることは、かつて受けていたフィリアの講義でベルにはすぐ理解できた。
 両足首にも同じものが施されていて、下半身を全く動かすことができない。脚の下には台座が置かれており、力を入れずともベルは両足を投げ出した姿勢を保つことができてしまう。
 よってベルは手すりに手を置き、ブーツの底を前方に向けた状態で座っていることになる。服装においてはただ一点を除いて変化はない。胸元を責められていたことや激しく身を振っていたことにより、制服のボタンがいくつか弾け飛んでいた。 隙間から白い下着が露わになっているが、恥ずかしがっていたのも最初だけ。今のベルはフィリアに対する怒りでいっぱいだった。

「だいたい復讐なんて……自分勝手にもほどがありますわ」

 復讐。
 どうしてリィンを誘拐したのか、最初に問い詰めた際に明かされた動機だ。

 フィリアはこれまで、特別な魔法を教えると言っては気に入った女生徒を個人的に呼び出していた。幼い体を味わい、性的な欲求を満たすために。
 彼女は特に、成人前の幼い少女をくすぐって笑わせることが大好きであった。指や魔法により笑いたくもないのに笑ってしまう様子や、苦しそうに悶えて息が絶え絶えになる様子が、フィリアの支配欲を満たしていた。
 講師でありながら女生徒を食い物にしていたフィリアが、次に手を出そうとしたのがベルだった。今までの子のようにやれば、必ずモノにできるだろうと。従順で可愛らしく、全幅の信頼を寄せてきている彼女が逆らうはずがないと。
 だが、結果としてベルには逃げられてしまった。確実に堕とすための手段を施す前に、突き飛ばされてしまった。
 その後は学院に不正を告発され、今までのように女生徒へ手出ししにくくなり楽しみを奪われた。

 よって、信頼を踏みにじられた心の痛みをわかってもらうべくリィンを誘拐した。

 以上が復讐の動機であるが、全く同情の余地がなくむしろ逆恨みもいいところであった。そのため、ベルは怒りのままに叫んでいた。そんなことのためにリィンを巻き込んだのかという感情を乗せて。

「自分勝手、かぁ。んー、そう言われると傷ついちゃうなぁ」

 そう言いながら、フィリアはニマニマと笑いながらベルに近づいていく。

「でも、今のベルちゃんはそんなこと言える立場かな?」
「っ……!」

 確かに両手足を拘束されているうえに、魔法を行使するための杖も手元にない。ベルは圧倒的に不利な状況だった。
 脚が置かれている台座の前にフィリアが立った。何をするつもりなのだろうか。理解不能な動機も含めて、ベルにはフィリアの考えが分からなかった。

「私ね、まだぜーんぜん足りないの」
「足りない……?」

 誘拐しただけでは、気持ちが晴れなかった。そう言いたいようだ。
 じゃあ、どうすれば満足するのだろうか。どうしたら満足してくれて、リィン共々家に帰してくれるのだろうか。

「え……!?」

 考えていると、ベルの足元が突然涼しくなった。

「な、な……何を……?」

――ぐいっ、ぐっ……! ごとっ、ごとっ……!

 いつの間にか腰を落としていたフィリアが、ベルのブーツを脱がして投げ捨てていたのだ。

「精神的な復讐はさ、誘拐ってことでとりあえず完了したんだよね。リィンちゃんが誘拐されたらベルちゃんは驚くだろうなぁって。この世の終わりみたいな顔をしててさ、使い魔越しに見てたけど正直楽しかったよ?」

 続いて白いソックスも引っ張られていき、スラっとした脚が外気に晒されていく。

「でも、まだ私の復讐は終わらないよ。だって、今度は体の方にも復讐しないと……ね?」

 ソックスで引き締められていたのか、先ほどよりも肉付きが良く見える。同年代の少女と比べてムチッとしているが、決して太くなく程良いボリュームだ。もしこの場に男性が居たならば、思わず頬ずりしたくなるような情欲を掻き立てられる代物だ。

「か、体にって……まさか!」

 嫌な、予感がした。
 気絶する前に行われていた責めや、かつてされそうになった責めと同種のものが呼び起こされ、ベルの身に戦慄が走る。

「ふふふふ……! 覚悟、しなさぁい?」

 そして、それは見事的中した。

 楽しそうな表情で笑うフィリアが、守る物を何一つ持たない足の裏へ、人差し指をゆっくりと近づけていた。

▽▽▽

「ひっ、ひひひ……! ひは、ぁ、ああぁぁっ!」

 フィリア・ルティックの自室には、高級そうなインテリアが数多く存在する。

「ぁふ、ふ……! く、くく……! ん、ひっ、ひぁ、はっ……!」

 そんな中で、インテリアの一つが音を発していた。

「ふふ、まだ一本の指しか使ってないよぉ。このままだと笑っちゃうんじゃないのぉ?」

 そのインテリアは、揃えた足の裏を前方に向けた状態で座っている少女――ベルだった。
 先ほどまで足を通していたブーツやソックスは、フィリアの手によって台座の横に転がされていた。外気に晒された両足は傷や染みがなく、しなやかという言葉がよく似合うほど細長く綺麗な形をしていた。

「ぅ、ふふ……! っ、こんな、程度で……! ぁ、はっ、はは……! わっ笑ったり、なんかあっは、ぁ、ふっ……ふふふ……!」

 挑発されて腹を立てたのか、ベルは強がりを見せる。だが、そんな気丈さも送り込まれる刺激によってすぐに崩れてしまう。屋敷の外で気絶するまで与えられていたものと同種の刺激――くすぐったさのせいだ。

「その割にはぁ、すっごいビクビクしてるよぉ? なんでかなぁ?」

 見せつけるように正面を向いている足の裏に対し、腰を下ろしてフィリアは人差し指だけでゆっくりとなぞっていた。
 その動きはとても遅く、冬眠から目覚めたばかりの蛇が這うような速度で皺を一つ一つなぞっていた。

「ぷふっ! ふっ……ん、んふうぅうぅ……! んっんぁああ、ぁあっはは……! は、ぁぐ……ふ、ふっ……! ふひゅっ、ひゅ、ふふふふっ……!」

 それでも、ベルはたった一本の指でのくすぐりに破顔しそうになってしまっている。
 思春期の少女における感受性の高さや肌の過敏さ、足の裏という他人から触れられることのない場所で慣れていないということもあるだろう。

「こーんーなーにーぃ……汗かいちゃってるからかなぁ?」

 ベルの足の裏は、履物に長い間包まれていたことで蒸れていた。
 モンスター退治に赴いた遠征先では、幸いなことに風呂やシャワーを使って体を洗うことができた。
 だが、滞在期間の最終日においてはそれらを利用する暇はなかった。そしてベルが家について早々、リィンの誘拐を知り屋敷へと向かっていった。

 つまり、丸一日以上は同じソックスとブーツを履いていたことになる。

 汗や湿気を吸収した足の裏はふやけてしまって薄くなり、外部からの刺激を感じる神経が表側に近い状態となる。
 そして、他人に晒す機会が少ない部位をじっくり見られ、触れられていることによる恥ずかしさでベルは意識を集中させすぎてしまう。

「く、ぅあ……はっ、言わないで、くだ……さぃい……! ん、ふふふふ……!」

 よって今のベルは、非常にゆっくりとした動きから伝わる微弱な刺激に対しても、くすぐったいという感覚が強く感じられてしまっていた。

「ひ、ひ……ひぁ、は……! っ、っっ~!」

 ベルは足の指先を丸め、笑いの衝動を噛み殺そうと必死であった。
 今すぐにでも逃げ出したい。動かせるなら、足を台座から降ろしてしまいたい。いい気になっているフィリアの顔を思いっきり蹴飛ばしてやりたい。
 それだけ強い意志を持ってしても、拘束魔法は強固で外れてくれそうもなかった。

「ふふ、必死に我慢してるベルちゃん可愛い~♪」

 馬鹿にしたような言い方に、思わず怒りを露わにするベル。それでも拇指球辺りを指でくるくるとなぞられると、「きゃはあぁっ!」と彼女は悲鳴交じりの声をあげてしまう。
 遊ばれている……フィリアの責めは、まだまだ余裕を残しているとベルには感じられた。

「ほらほらぁ、怖い顔しないで。笑って笑って~?」

 今度は、爪の先で足の裏をかりかりと引っ掻かれる。拇指球から踵までをジグザグに下降していく動きは段々と早くなっていく。

「ひはっ、あああっはっはは……!? はひ、ぃ、ひぃっ……!」

 土踏まずを通過された時は、ほんの数秒であったがベルはハッキリとした笑い声をあげてしまった。すぐに口をキュッと閉ざす。
 だが、それでも漏れ出てしまう声は段々と押さえきれなくなっていく。

「ぃひ、ひっぎひひひひっ! ひ、ひゃあっ、あっは……! も、もう……!」

 目を閉じ、眉をハの字に歪めて必死に耐えている。誰が見ても、もう決壊寸前であった。これ以上強くされたらもう我慢ができない。ベル自身も危機感で心がざわつき始める。

「ふ、ふふふ……! ぁ、は……! ひっ、ひひいいぃ……!」

 一本、二本、三本。ベルの足の裏に触れる指の本数が増えていく。
 やめて、止めて、増えないで。
 見えていなくても、くすぐりが強くなっていくのがベルにはわかってしまう。自分の声が段々と大きくなっていくことも、わかってしまう。
 やがて五本の指が、地面と接する機会が少ない土踏まずをこしょこしょとくすぐると――

「あっあっ……あ、あ゛~っはっはっはああぁぁぁああっははははははははははははははっ!?」

 とうとう、ベルは我慢できずに大きく笑い出してしまった。

「あ~あ、笑っちゃったね」

 止めどなく、笑い声がベルの口からこぼれる。一度はっきりとした声をあげてしまうと、もう止めようがない。口を閉じようとしても無駄なあがきで、隙間から大きな声が溢れだしてしまう。

「ぁぎゃああああっははっははははっ! まだっまだわたくしぁあああっ! ひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ! ああぁぁああああっ、くすぐったいくすぐっだぃいいいぃぃいぃぃいいいっ!」

 それでも、笑ってしまったという事実を認めたくないベルは、首をぶんぶん振って猛抗議していた。

「くすぐったい? くすぐったいでしょ?」
「はあぁあああっはははははっ! っ、くはあぁぁああっひゃっひゃひゃひゃひゃ! くっくすぐったくなんかあぁぁあああっはっはははははははは!」
「あー、今ウソついたぁ。思いっきりくすぐったいって言ってたのに。しかも二回も。嘘つきベルちゃんだ~」

 罰だと言わんばかりに、フィリアは土踏まずから手を離さない。

「右ぃ、左ぃ……もう一回右ぃ、と見せかけて左ぃ~」
「ぅひゃあぁああっ! はっ、ひはあぁあああっはっははは! うっうごかないでぇええぇえっ! やめっやめえぇえええっへっへへへへへへへへへへへ!」

 そして右足の土踏まずと左足の土踏まずを交互に責める。不規則的な入れ替わりに対処できず、くすぐったさに慣れる間もなくベルは翻弄されていく。

「止めないよぉ? だって、ほんのちょっとしか触れなかったベルちゃんのお肌が忘れられなかったんだもの。私はずーっとモヤモヤしてたんだから……!」

 今度は左手で感触を楽しむように、さわさわと撫でまわす動きも加わる。産毛すら生えていない足の甲や脛はとてもツルツルしており、いつまでも触っていたくなるほどの魅力があった。

「んひいぃいいいっひっひひひひひひひひひっ! ひはあぁぁあああっ、ぁあーっはっはははははははは! そんなの知らないっしらにゃあっははははははははああぁぁぁっ!」

 足の裏を責め立てる指と比べれば優しいくすぐり方だが、今のベルには苦痛を上乗せするためのものとしか認識できなかった。
 脳に伝わる刺激の大きさを逃がそうと、ベルは唯一動かせる上半身を振り回している。屈むように前傾してお腹に力を込める。あるいは、体を反り返して背もたれに背中を何度もぶつける。これらはいずれも反射的な行動だ。

「はぎぃあぁああっひゃっひゃっはははははははははっ! はっあっあああぁぁあぁぁぁぁぁぁっ! むりぃいっ無理ぃっ! こんなのがまんできなぁああいいぃいいぃいいいいっ!」

 どうやっても口から笑い声が収まることがなく、次第にベルは涙を浮かべながら弱音を吐いてしまう。どんなに頑張っても、くすぐったいものはくすぐったい。

「ふふ、安心して。私のモヤモヤが晴れたら、ちゃんと解放してあげる。そうだねぇ、あと二年くらいこちょこちょできたら満足かなぁ」

 あと二年。この言葉にベルは思わずゾッとした。
 始まってから数十分でこれだけ苦しいのに、年単位で続くとなると当然ながら受け入れることはできない。

「にっ二年なんてそんなのいやぁああああっ! ぁあああっはっはははははははっ!」
「そっかぁ、嫌なんだ。でも、これを見て同じことが言えるのかな?」

 そう言ってフィリアが左手だけ離して指を鳴らすと、部屋の真ん中を仕切っていたパーテーションが開いた。

「べーつーにぃ、ベルちゃんじゃなくてもいいんだよ? リィンちゃんに肩代わりさせてもいいんだけど、まっさかそんな酷いことができるわけないよねぇ?」

 ベルの視線の先には数々のオブジェ……芸術的価値の高そうなものが陳列されている。その中に、十字架で磔にされたリィンの姿があった。
 写真で見た時と同じ状態で、リィンはぐったりと顔を俯かせていた。

「ひっひきょうですわぁああっ!? そんなのっ、ぜったいにぃいいっ!? ひ、ぎいぃいいっひっひひひひひひっ!」

 人質にされた妹を引き合いに出されてはどうしようもない。フィリアのやり口を非難しながらも、言う通りにしなければという気持ちも生まれ始める。
 リィンが酷い目に遭わされるなどと、ベルにとっては想像すらしたくないことだった。

「ふふ、妹想いだね。そんなベルちゃんに、一つ提案があるよ。あの時のこと……私に歯向かった時のこと。心の底からちゃんと謝れたら、二人とも自由にしてあげる」
「ひっひっひひひははははははっ!? ほ、本当にぃいいっひっひひひひひひ!?」
「もちろん。なんだったら、元気に暮らせるようにお金とか援助してあげるよ?」

 この提案は、とても魅力的だった。安全が保障されるうえに、金銭面での援助もされるのだ。
 しかし、うまい話には何か裏があるはずだ。ただ謝るだけで恨みが晴れるというのなら、こんな風に拷問まがいのことをするわけがない。

「でっでもおぉおおっほほほほほっ! そんなのっ、しっしんじられるわけがあぁああっはっははははははっ!」
「昔のベルちゃんはとっても素直で好きだったんだけどなぁ。数年ぶりに遊べて気分良かったけど、そんな態度取られたらぁ……」
「っ!?」

 フィリアが含みのある言い方をすると、離していた左手をリィンの方向へとかざした。青白い光から、小さな手が幾つか生み出されている。
 魔法を行使しているにもかかわらず、フィリアの右手は器用にベルの土踏まずをくすぐっていた。

「リィンちゃんに素直な気持ちを聞いてみたくなっちゃった……かも?」

 屋敷の外で飛来したものと同じ、光をまとった小さな手だ。フィリアの左手から放出されたそれらが、リィンの体に群がり始める。指をワキワキと動かしていて、とてもくすぐったそうだ。

「ま、待ってぇええっ! そっ、それだけはあぁあぁああっ!」
「んん~? 待って? 先生にタメ口なんて、良くないと思うんだけどなぁ~」

 ニヤニヤしながら、ベルの慌てる様子をフィリアは眺めている。返答次第では、光の手がリィンをくすぐり回すぞと目で訴えていた。

「待って、くださいぃぃいいっ……! ぃひ、ひっひひひひひひっ! あやまり、ますからぁああっ! ぁああっはっはっははははっ! リィンだけはっ、りぃんだけはあぁああっ!」
「ふふ、よろしい。ベルちゃんは本当に妹想いなんだねぇ」

 フィリアが握り拳を作って引っ込めると、光の手は霧散していった。それを見て、笑い悶えながらもベルはホッとしていた。自分がくすぐられるのは嫌だが、リィンに同じような苦しみが与えられるのはもっと嫌であった。

「それじゃ、さっそく謝ってくれるかな? もちろん、フィリア先生って呼んだ上で……ね? そのために制服姿をお願いしたんだから」

 フィリアの言う通りにするのはシャクだが、謝るだけで全てが丸く収まるのなら従った方が得策だ。脅迫に近い形で素直にならざるを得なかったが、ベルの取れる選択肢はこれしかなかった。

「そ、その前にいぃいいぃひいいぃいっひっひひひひひひひひっ! くっくすぐったいのっ、とっとめてぇぇえええっ!」

 とはいっても、くすぐられている状態ではまともに喋ることもままならない。ベルが制止を要求しているが、指の動きは止まることがない。

「え~? 心の底から反省してるんでしょ? だったら、くすぐったくても謝れるはずだよね~?」

 それどころか、左手も足の裏くすぐりに参加していく。どちらの動きも、時間とともにどんどん速くなっていく。

「あ゛あああああぁぁっ!? びゃはっはっあぁああっはっはははははははっ! さっさきよりいぃぃいいっひひひひひひひ! あしっあしがああぁあああっはははははははははは!?」

 右足の土踏まずで五本の指がせわしなく暴れ、左も同様であった。単純計算では倍だが、責めを受けているベルにとってはそれ以上のくすぐったさに感じられた。
 土踏まずが削り取られて壊れるのではないか、そう思ってしまうくらいに。

「ほらほら、どうしたの? フィリア先生、でしょ?」

 そんなことを言われてもどうしようもない。謝りたい、謝ってさっさと楽になりたい。それなのに言葉を上手く出すことができない。出てくるのは激しい笑い声ばかりだ。
 いつまでたっても解消されないジレンマの中で、ベルはただただ首を左右に振って嫌がる仕草しかできなかった。

「むぅ、困ったなぁ……やっぱりリィンちゃんに肩代わりさせちゃおっかな~?」
「っ、っ~!? わひっひっひひひひいいぃいいっ! ひっひひひひひははははははははっ! あやまりまひゅあやまりますううううぅっ! ふぃりあせんせえぇぇぇぇええっ!」
「お、やっと呼んでくれたね。その調子その調子!」

 もう、恥も外聞も捨ててしまうしかなかった。あふれ出る涎が喉にまでだらだら流れ落ちてしまっても、人前であるにもかかわらず顔が鼻水でぐちゃぐちゃになっても、とにかく言葉を絞り出すしかない。

「ごめんなさぃごめっなひゃひいいぃいいいいいっ! あのときぃいいっひっひひひひひひっ! つきとばひてごめんなさいいいぃいいいいいいっ!」

 リィンを助けなければならない。その一心で、ベルはなんとか奮起する。
 何度も何度も頭を下げながら、言葉にならない言葉がようやっと言葉になっていく。とにかく想いが通じてくれると、信じるしかなかった。
 無我夢中で謝り続けるベル。そんな彼女の様子を見つめるフィリアからの返答は……

「んー、ダメ」

「なっなんでえええええぇええっ!? どうしてですかああぁああっはっははははははははは!? あやまったあああぁっ、あやまったのにいいぃいいいいっ!」
「ただ謝ればいいってものじゃないんだよ。今さっきのベルちゃん、私に謝るというよりくすぐりから逃れたいとしか考えてなかったでしょ?」

 言い切れれば助かるかもしれない。そんな希望をあっさりとへし折ってしまうものだった。

「ひどいいぃいいっひっひいひひひひひひっ! そんなのひどいですわあぁぁああっはっははははははははっ!」
「あら、逆ギレ? ベルちゃんひっど~い。図星を突かれたからってぇ、そういう言い方するの良くないよぉ?」
「だってくすぐったいのにいぃいいいっ! ひ、ぃいいひひひひひひ……ひびゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!?」

 フィリアに対して怒りの感情がふつふつと湧き始めると同時に、足の裏から伝わる感覚が大きくなった。
「ふふふ、素直になるためのおまじないだよ?」

 フィリアがベルに施したのは感度上昇魔法。運動能力を高める魔法を、術式変換して作り出したものだ。ちょっとだけとフィリアは言うが、ベルにとっては何十倍ものくすぐったさが押し寄せているように感じられた。

「びゃあ゛ぁ゛っ! ああぁああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!? まっ待ぁあっぎゃああぁぁああああああっははははははははははははははっ!!」

 一瞬にして、肺中の酸素が無くなったかのような息苦しさに包まれた。
 くすぐったいどころではない。そう感じることもできない鋭い刺激で、もはや拷問そのものだ。

「さ、本当に心の底から謝りたいって思ったら、もう一度フィリア先生って呼んでみてくれる? ただし、また謝ったフリなんかしたら……わかってるよね?」

 全身は激しく痙攣し、筋肉が収縮と弛緩を繰り返す。感度が上昇して一分も経たずに、スカートの純白に黄色い染みを広げていく。
 今すぐにでも名前を呼んで許しを乞いたい。今度は嘘偽りない本心で謝りたい。だからくすぐりを止めて欲しい。
 そう願っていても、まともな言葉を発することすら叶わない。半狂乱になって腰が折れそうなほど前傾したかと思えば、逆に椅子の背もたれを折る勢いで何度も背中をぶつける。そうでもしなければおかしくなってしまいそうだから。

 次に謝罪の言葉を絞り出すことができるのは果たしてどれほど後の出来事なのか。今のベルには予想すらできなかった。

▽▽▽

 体力の限界で気絶したかと思えば、くすぐりによって強制的に覚醒させられる。そんな地獄のような責め苦を繰り返されていたベル。彼女はフィリアの気まぐれにより、何とか事なきを得ていた。

「ふふ。結局あれから一度も謝ってくれなかったけど、そろそろ休憩にしよっか?」

 ベルはもはや発狂寸前で、目は焦点が合っていない。背もたれに体を預けてぐったりとしているが、くすぐったさの余韻が残っているのか全身が小さく跳ねていた。

「ぁ……は、はは……」

 体に力が入らない。乾いた笑いが、口から自然と出てしまう。
 これまで数多く魔物と戦ってきたが、死を覚悟したのは今日が初めてなのではないか。ベルがそう感じるほどに、フィリアの施していたくすぐり責めは暴力的であった。

「……さてさてぇ、ベルちゃんとは今後について話し合おうかな?」

 休憩が与えられてから十分が経過した。荒い息遣いを繰り返していたベルは、フィリアから与えられた水を飲み込むことができる程度には回復していた。

「ぇほ……こ、今後……?」

 干上がった喉に潤いがもたらされても、ベルはまだガラガラ声だ。笑い悶えていたせいで喉に受けた損傷が大きかったのだろう。

「うん、約束したでしょ? 謝れたら、二人を自由にするって」

 しかし、結局は謝ることはできなかった。すなわち、自由にするという約束も反故にされる。そのような残酷な真実を告げるつもりなのだろうと、ベルは表情に暗い影を落として俯く。

「約束は約束だからね。二人ともってわけにはいかないけど……どっちか一人だけは自由にしてあげる」
「え……?」

 ベルは思わず顔を上げた。
 どうして急にそんな優しさを見せたのだろうか。理由を問い正すよりも先に、フィリアが言葉を続ける。

「ベルちゃんが残ってもいいし、リィンちゃんを置いていってもいい。もちろん、残った方は私の遊び相手になったり研究のお手伝いしたり……うふふふふふ」

 フィリアは妖しく微笑むと、判断をベルに委ねたようだ。
 視線の先に居るリィンは目を覚ます気配がない。だが、ベルにとってはその方が都合が良かった。姉想いなリィンのことだから、もしも起きていたら自分が身代わりになると言いだすかもしれない。

「ま、ここに住む方が案外お得かもよ? 美味しいご飯も、可愛いお洋服も、ひろーいお部屋もあげる。女の子には元気でいて欲しいからねっ!」

 フィリアの言うお得な要素は、どうでもよいことだった。そして、ベルの中で答えはもう決まっていた。
 愛するリィンを、フィリアの傍に置いておくわけにはいかない。あんな地獄のようなことをリィンに押し付け、自分だけがのうのうと暮らしていくなど考えたくなかった。

「わ、私が残ります! だからリィンだけは……リィンだけはお家に帰してあげて下さい。おねがいします、フィリア先生……!」

 ベルの妹を想う気持ちが、疲れ果てた体をなんとか動かす。手足を拘束されているため、動かせる上半身だけを折り曲げて頭を下げた。
 命に代えても。この身がどうなってもいいから、リィンを幸せにしたい。両親が亡くなって故郷に戻った時から、この想いは変わらなかった。
 屈辱だという感情はまるでなかった。心の底からリィンを案じ、気がつけばフィリアに懇願していた。
 そんなベルの気持ちが伝わったのか。伝わったと信じていいのか分からないが、フィリアはニッコリと笑った。表情が意味するものは肯定であった。

「いやぁ、愛だねぇ。泣けちゃうねぇ。それじゃあ、リィンちゃんは自由にしてあげよう」

 くるっと身を翻し、十字架に拘束されているリィンに近づくフィリア。拘束具を外すと、がちゃりと小さな金属音が鳴った。
 リィンの体が力なく倒れ込む。それを受け止めながら、フィリアは小さな頭を撫でていた。
 その様子は悪魔じみた責めを行っていた人物とは思えないほど、ベルにとって慈愛に満ちているように見えた。

「ん、う……」

 しばらくすると、リィンがゆっくりと目を覚ました。彼女は寝ぼけ眼で、フィリアの顔をぼーっと見つめていた。
 そのままフィリアはリィンを連れ、ベルが座っている場所へ戻ってきた。

「り、リィン……!」

 数日ぶりに会ったリィンは、まるで別人のような雰囲気を醸し出していた。青空のように透き通っていた瞳は、光すら届かない深海のように淀んでいた。名前を呼んでも反応が乏しく、僅かにベルの方に首を動かす程度であった。

「よかった……! もう会えないかと……私、ずっと心配で……!」

 体中の水分など、とうに失われていたはずなのに。ほんのちょっとの水を飲んだだけなのに。気がつけばベルの目からは涙がボロボロと零れていた。
 またしばらく離れ離れになることを悲観しているわけではない。
 自分の命よりも大切な妹を救い出すことができた。そんな達成感に思わず涙していた。

「よかったね、リィンちゃん。お姉ちゃんが身代わりになってくれたから、これでもう自由だよ?」

 こくりと頷くとフィリアから離れ、リィンがベルの前に立った。

「おねえ、ちゃん……」

 目を覚ましてから、初めての言葉らしい言葉だ。その声は弱弱しく、俯き加減に発せられていた。
 ベルの正面に映るリィンの姿はどこかソワソワしていて、真っすぐな視線を避けようとしているようにも見える。
 身代わりになったと聞かされて、罪悪感に苛まれているのだろうか。心優しく姉想いなリィンならば十分に考えられる話だ。

「……大丈夫。貴女は何も悪くない。私のことは心配なさらないで、リィン」

 このまま家に帰っても、おそらくリィンの心は晴れることがないだろう。ならば、せめてもの務めとして気丈に振る舞おう。
 慰めをかけ、最後に名前を呼びベルは微笑んだ。少しでも心残りを減らせるよう、不安そうな素ぶりや涙は笑顔で隠した。
 ベルの言葉を受けると、リィンはちらりと横を見た。視線の先では、フィリアが小さく頷いていた。

「お姉ちゃん……」

 再びベルの方を向くと、足の前でリィンは腰を下ろした。
 目線の高さが同じになると、リィンの目に涙が浮かんでいるのがベルにはわかった。

 まだ、何か心配なことがあるのだろうか。首を傾げながら、ベルは次の言葉を待ち続ける。

「……ごめん、なさい」

 リィンの口から出たのは、ベルに対する謝罪だった。
 とてもつらそうな声で、聞いているベルもつられて泣きそうになってしまう。

「リィン……」

 だが、ここで泣いていてはまたリィンを不安にさせてしまう。
 謝らなくてもいい。ベルがそう言おうとした瞬間、

「ひゃあぁっ!?」

 彼女の足の裏に、何かが這ったような感覚が訪れた。

「ごめんなさい……ごめん、なさい……!」

 見ると、リィンが謝罪を繰り返しながらベルの足の裏を撫でていた。控えめな触り方ではあるものの、感度が上昇していることと先ほどまで触れられていたことで非常にくすぐったい。一本の指であるにもかかわらず、我慢ならない刺激がベルの中で押し寄せていた。

「ふ、ふふ……! ふぁ、あっ……! あ、はっははははっ!?」
「ごめんなさい、お姉ちゃん……ごめん、なさい……!」
「や、やめ……! やひゃあぁああっはっははははは!」

 どうして。

 何故、リィンが自分をくすぐっているのだろうか。ベルにはまるで理解ができなかった。
 謝るばかりのリィンとでは話をすることもできない。そのため、ベルはフィリアを睨みつけた。こうなった原因として考えられるのが、フィリアであったからだ。

「なぁあああぁっあっああぁああっはははは……! やっ、やくそくがあぁああっはっははははは! やくそくちがうっちがううぅううううっ!」
「約束? 私はちゃーんとしたよ? リィンちゃんを自由にするって」
「だっ、だったらはやくリィンをおうちにぃいいいっひっひひひひひっ!? ふゃああああぁっ! そこくすぐったぁぁあああっはっはっはっはははははははははは!」

 そう、確かに言っていた。リィンを自由にすると。だが、現にリィンは帰る様子がない。それどころか、更にベルを苦しめるためのくすぐりを強めている。五本の指で土踏まずの上下を行ったり来たりしている。

「んー、もしかしてベルちゃん。何か勘違いをしてないかな?」
「かっかんちがいいぃいいっ!? そっそんなのいみがわきゃああぁっはっはっはははははははは!」

 愛妹の指で笑い悶えながら、ベルは記憶を掘り返していく。

 そして気付いてしまった。フィリアによる、意地悪な言葉遊びに。

「ふふ、やっと納得してくれたね? ほんと、ベルちゃんは素直ないい子だね~」

 フィリアはこれまで、リィンを家に帰すとは一度も言っていない。自由にすると言っていただけだ。
 それを、ベルが都合のいいように解釈していただけ……いや、家に帰してくれるという希望を信じていたせいだった。

「そっそんなのひどいぃいいっひっひひいぃひひひひひひっ! ひはあぁあああっはっはっはははははは! おねがぃいっ、正気にっ戻ってぇええええええっ!」

 だとしても、リィンが帰る素ぶりを全く見せていないのはどうしてだろうか。
 恐らく何日かは、自分と同じような責め苦を味わわされていたに違いない。自由になったのならば、家に帰りたいと願うのが普通なのではないか。リィンがこうなっているのには、何か理由がある筈だとベルは考えた。

「ごめんなさい……わたし……」

 申し訳なさそうな表情で涙を浮かべ、指を動かし続けるリィンからは怒りや憎しみといったものは全く感じられない。体の自由を操る魔法のせいだろうか? 動きを束縛する魔法があるのならば、そういったものがあるかもしれない。
 あのリィンが人を傷つけることに意欲的になっているなど、あり得るはずがない。謝りながらくすぐりを続けているのには、きっとこのような事情があるからに違いない。
 笑い悶えながら考えていると、ベルにはリィンの顔がゆっくりと沈んでいくのが見えた。側頭部に結ばれたリボンが足先から顔を出していた。

「んひいぃいいいっ!? なっ、何をぉぉぉ……!?」

 するとベルの足の裏に、生温かいぬるっとした感覚が訪れた。

「ぁむ……んっ……」

 小さく息を吐きながら、リィンは足の裏に舌を這わせていた。

「ぃひゃっ、ぁあっ! ぅひゃっ、いやぁああっはっははは! やっやめ、なさぃいいぃぃいっ!」

 ぴちゃ、ぴちゃ。水気を帯びた音を耳にすると、ベルの中で不快感が強まる。たとえ肉親相手であっても、素肌を舐め取られていてはたまったものではない。そもそも、何日もまともに洗えていない部位なのだ。触れられているだけでも恥ずかしかったのに、口を付けられるなど初めての経験だった。
 激しく制止を訴えても、リィンはこの行為を止めようとしない。その証拠に、両手はベルの足をがっしりと押さえていた。
 リィンの舌遣いはベルから笑い声を引き出そうと必死で、そういった目的を持つ触手生物のようだった。ベルの足の裏はすっかりびしょ濡れで、唾液と汗どちらが多いか判別しきれないほどであった。

「ひはっ、ふぁああぁああっはっはははは! ひひゃあ~っああぁあああぁっはっははっはははははは! やめっやめえええぇええっへっへへへへへへへぇぇえええっ! もうあしのうらわぁああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃっ!」

 舌が触れるたびにリィンの頭が揺れ、リボンや髪の毛が土踏まずに触れるか触れないかを繰り返す。こんなもどかしさすらも我慢ならないほど、ベルの足の裏は敏感になってしまっていた。感度上昇魔法のせいもあるだろうが、愛する妹にみっともない姿を見せてしまっているという事実がその効果をさらに強めていた。

「ぁああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃっ! りぃんおねがいもうやへええええぇえっへっへへへええええぇっ! おねがぃいいっひっひひひひひひ! やめさせてくださいぃいいいいっ!」

 リィンに懇願すると同時に、どうにかして欲しいとフィリアに対しても苦しさを訴えているベル。彼女は首を激しく左右に振って、くすぐったさを誤魔化そうとしていた。
 しかし、フィリアの姿を視界に捉えることはできなかった。

「きゃはあぁぁぁっ!?」

 いつの間にかフィリアが背後に回り込み、ベルの胸を触り始めたからだ。全く意識していなかった箇所への責めも加わったことで、ベルの反応はひと際大きくなる。

「いきなりなひぃいいいいいっ!? ひ、ひはっはははははああぁぁっ! そんなところまでぇえええっ!?」

 ぽよん、ぽよん。ふくよかな双丘を持ち上げながら、フィリアは感触を楽しむように撫でまわす。
 確かな弾力がある胸は、ベルの身が跳ねるたびに大きく揺れる。

「おお、あれからずいぶん大きくなったんだねぇ。柔らかいなぁ~♪」

 今度は両サイドから胸の付け根をつんつんと突っつかれる。

「ふゃあああぁあああっ!? ぁはっ! はっひゃひゃひゃ!」

 屋敷の外で行われた責めが思い出されるが、ベルにとってはそれ以上のくすぐったさに感じられた。それもそのはず。光の手によるくすぐりを観察していたフィリアは、ベルの弱点を既に把握していた。
 胸の横でも、とびきり敏感な部分。その一点をただひたすらに指先で突っつく。訪れる刺激は、見た目に反し極めて強力であった。

「いやあぁあっ! いやいひゃっはっははははああああぁあっ! しょれほんとにだめだへえぇえええっへっへへへへへ!」

 唯一動かせる胴体を激しく暴れさせても、左右に身をよじっても、フィリアの指は正確にツボを突いてくる。タイミングも不規則で、慣れを全く作らせてもらえない。

「んぁああっはああぁああっはっはっはははは! こんなのもうむりいいぃいいいっ! ぅえへっへへへへははははははあああぁぁぁっ!」

 そのうえ、足の裏を延々と舐め続けるリィンも居るのだ。
 腕や足を動かして、触れられている箇所を庇いたいという気持ちでいっぱいであった。それでも拘束魔法は強固で、ベルは打ち上げられた魚のように胴体をビクつかせることしかできない。
 ベルの頭の中は既にグチャグチャで、笑い声以外を発することはもうできなかった。

「おかひくなひゅうふうふっふっふふふふふふふっ! ふぎゃあぁぁあああはっはっははははははは!」

 それでも、ベルは心のどこかで可能性を信じていた。
 リィンが自分を苦しめたがっているはずがない。フィリアに操られているだけなのだ。そんな魔法もいつかは解けてくれるに違いない。そういった可能性だ。

 だが、そんな甘い考えはすぐに裏切られることとなる。

「ふふふ……そろそろ頃合いかな~っと」

 身動き一つ取れないベルが気絶しそうになったところで、フィリアは胸をくすぐる動きを止めた。

「リィンちゃ~ん。これ以上やっちゃうと、お姉ちゃん壊れちゃうよ~?」

 そして足の裏を舐め続けているリィンにも呼びかけた。その言葉を受けると、リィンも責めを止めた。

「……っ! は、はぁ……はぁ……!」

 終わった。やっと終わってくれた。ベルの中ではそういった気持ちがいっぱいで、苦手な二箇所へのくすぐりで気が狂いそうになっていた。
 椅子にもたれながら激しく呼吸をし、ベルは向かい側のリィンを見つめていた。だが、リィンとは目線が合っていない。
 高さが合っていないということもあるだろう。先ほどまで腰掛けていたリィンは、ベルに目もくれず立ち上がっていた。リィンの視線の先に居るのがフィリアであることは考えるまでもない。

「り、リィン……」

 ベルの声はとても弱弱しい。くすぐり責めですっかり疲弊してしまったためだ。
 それでも伸ばした足の先だ。聞こえていない筈がない。
 リィンはベルに対して全くと言っていいほど反応を返していなかった。

「あらあら、リィンちゃんってば……もう我慢できなくなってるんだぁ?」

 我慢? 一体何のことを言っているのだろうか?
 こくりと頷くリィンを見ても、ベルには事態が全く飲み込めていなかった。

 こつこつとヒールで音を立てながら、フィリアがリィンの傍まで歩いて行く。リィンの後ろに立つと肩に右手を置き、フィリアはもう片方の手を服の中に忍び込ませた。

「な、何をっ!?」

 最初に声をあげたのは、その光景を見ていたベルだった。

「ふぁ、んんぁ……! ひゃ、ゃううぅう……!」

 リィンのくすぐったそうな声がそれに続く。しかし、様子がおかしいようにもベルには思えた。

「ん、ふふ……ぁ、はあああぁ……! ふぃりあ、さぁん……!」

 リィンに、抵抗の意思が一切感じられないのだ。フィリアの手を振り払うでもなく、ただつっ立っている。
 フィリアを見つめる視線は熱っぽく、まるで喜んでいるようではないか。
 服の中でモゾモゾと手が蠢いている。素肌を直接触っているのだろう。膨らんでいる箇所から察するに、腹部のやや上あたりといったところだろうか。

「ほぉらほらぁ、ここでしょお? ここがいいんでしょお?」

 そしてそのまま昇っていった手が胸を弄り始めると、リィンの声はさらに色づいていく。

「や、やめなさい……! フィリア先生っ、いい加減にしてください!」

 目の前で妹が辱められていることに耐えられず、ベルは大きな声で叫んだ。

「えー? なんで止めなきゃいけないの? こんなに嬉しそうなのにねぇ、リィンちゃん?」

 だが、フィリアの責めはどんどんエスカレートしていくばかりだ。肩に置いていた右手は内腿をさすり、顔を密着させて真っ赤になった耳を甘く噛んだ。

「っ……!」

 実際にそういう現場を見たのが初めてとはいえ、これが相手へ快楽を与えるためのいやらしいことであると、年頃なベルには容易に理解できてしまう。

「はひぃっ! ひゃ、ゃあん……! そこ、もっ、もっとぉ……!」

 ベルは今すぐにでも目と耳を塞いでしまいたかった。
 清純なリィンがいやらしく乱れ、送り込まれる快楽を嬉々として貪り続けている。
 このような痴態が現実に起こっているなど、直視していたくなかった。
 それでも手足を拘束されていては視覚・聴覚どちらも遮断することは叶わず、ベルは目の前の光景をただ見ていることしかできない。

「ご・ほ・う・び♪ ずーっとずーっとこれが欲しかったんだよねぇ、リィンちゃんはさぁ~?」

 フィリアの言うご褒美とは、気持ちいいと感じるような責めをリィンに与えるというもの。
 屋敷に誘拐されてすぐ、リィンは快楽を伴うくすぐりを施されていた。それも意地悪く、性を知らない体に何度も気持ちのよさをチラつかせるように。
 焦らしに焦らしを重ねられていた際に使われた羽箒には、催淫効果のある液体が染み込んであった。これに対して抗う知恵を持たないような、無垢なリィンが快楽の虜になるのは必然であった。
 そして真なる絶頂を与えてもらうべく、リィンはフィリアの命令に従うことに決めたのだ。人質役として何時間もじっとしていることは、目的のためであるならば苦ではなかった。最初は愛する姉を苦しめることに抵抗があったようだが、くすぐり続けていくうちに段々と吹っ切れたようだ。

「う、嘘……嘘ですわ、そんなの……」

 事の顛末を説明されたベルは、心を締め付けられたような息苦しさを感じた。
 にわかには信じられないが、確かに合点がいく。納得できてしまう。

「もうリィンちゃんは、貴女の知る可愛い妹じゃないの。私の楽しい楽しい遊び道具なの。そうだよね、リィンちゃん?」

 ふっ……とリィンの耳に吐息をかけながら、フィリアが歪んだ笑みを浮かべた。
 もう何度目になるか定かではないが、リィンは弓状に激しく身を反らしてビクビクと痙攣していた。とろけた表情で、エクスタシーの象徴たる液を股間からぽたぽた垂らしていた。添えられているフィリアの指により、くちゅくちゅと艶めかしい音が奏でられていた。

「は、ぃい……わたし、は……んぅ、ふぃりあ、さんと……」

 フィリアからの問いかけに、リィンは悶えながら答えていく。
 聞きたくない。聞きたくない。これ以上は、もう何も言わないで。
 ベルの必死な願いは一切届くことなく、 

「ふぃりあ、さんの……お屋敷で、暮らしたい……です……」

 リィンが首を縦に振った瞬間、ベルの中で何かが砕け散った。

「そんな……」

 全て、フィリアの手のひらの上であった。
 フィリアには分かっていたのだろう。誘拐を知れば必ずリィンを助けに来るということも、ベルが屋敷に残ると言い張ることも。
 そして、リィンがこの屋敷に暮らすと主張することも。
 どう転んでも、ベルにとって最悪の結末が訪れるようになっていたのだ。
 目の前の光景が、そしてリィン自身の言葉が、この事実を色濃く物語っている。
 守れなかった。この世で最も大切な妹を、守ることができなかった。
 どれだけ心の中で否定しても、現実は変わることがなかった。

「ふふ、そういうことだよ。ベルちゃん、これでもまだ頑張れるの? 無理だよねぇ~?」

 くすぐりの魔女――フィリア・ルティックに気に入られた時点で、運命は既に決まっていた。
 いくら頑張ったところで、あの家にはもう帰ることができない。
 いくら頑張ったところで、壊れたリィンの心を取り戻すことはできない。
 いくら頑張ったところで、結局はフィリアを喜ばせるための行動に過ぎない。
 失意のどん底に叩き落とされたベルが最後に見たものは、全身に群がる光る手たちであった。

「だから、もう何も考えずに……笑って。笑って笑って、私を楽しませて? 大好きだよ、ベルちゃん……!」

 こうして、ひと組の家族が町から姿を消した。

 だが、それは始まりに過ぎなかった。

 永遠に続く悲劇。そして喜劇の……新たなる幕開けであった。



~~~~~~~
【あとがき】
オリジナル作品の2作目です。2016年の末に投稿しました。
1作目の「くすぐりブーツの呪い」は完成してから……あるいは何らかの終着点が見つけられてからこちらにも転載していこうと思います。 

かねてからあった「妹に裏切られる姉のお話」という構想を実現しようと頑張ってみました。しかし最初と最後だけに妹が出てきてもぽっと出感あってアレだよなぁって考えていくうちに、35000字を越える大ボリュームに。いやはや、達成感が凄まじいですね。

魔法使い系の女の子がくすぐったさで詠唱もまともにできず、杖を奪われ無力になってしまう様は……とても興奮します。大好きです。
そして最初から手のひらで転がされていたことに気付き、無力感から絶望していく。そんなベルちゃんを是非とも皆さん可愛く思ってやってください!

【以下、裏話とか】

この作品は設定やキャラクター背景に凝ってみようとした意欲作です。導入で少女達に感情移入していただいた方が、後のくすぐりシーンが映えるという考えです。

最初は妹のリィンちゃんからキャラが決まりました。純粋無垢、姉想いな子です。

そして姉であるベルちゃんは……名前どころか性格からなにひとーつ決まっていない有様でした。ですが、リィンという直感から来た名前が鈴っぽいということで、姉の名前も自然とベルに決まりました。僥倖です。 

次に悩んだのはベルちゃんの性格です。引っ込み思案の反対で強気系にしても良かったのですが、それだとありきたりかなと思い、ですわ口調の高貴系キャラに決まりました。 
そのような口調の理由づけとして由緒正しい魔術学院という設定が生え、そこからフィリアさんとベルちゃんの因縁も決まり、まるでパズルのように頭の中でハマっていきました。 またしても僥倖です。 

そしてビジュアルイメージも決まり、おっぱいが大きいベルちゃんは胸責めでくすぐったさ重視に。そして足裏責めも入れたかったので入れました。
やや薄味になっちゃったかなーとは思いつつも、リィンちゃんは快楽責め特化でいきました。こんな年端も行かない子を虜にしちゃうなんて……フィリアさんは酷い人だなー(棒)